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■■ ネタ+あるふぁ
「……どうだった!?」 バレることも厭わず高らかに足音を響かせて駆け戻ってきた弟に、長兄が勢い込んで訊ねる。弟の両目はきらきらと輝いていて、おれの隣では、その様子に期待をつのらせたすぐ上の兄がごくりと喉を鳴らす。 「あのね、いまのとこ、うまく、いって、る、みたい」 弟が切れ切れに報告した状況に、ひとまずは安堵の息が漏れた。五人分……ということは、無関心を装っている次兄も、気にかけてはいたらしい。はじめから大乗り気のすぐ上など、いまにも跪いて神に感謝の祈りを捧げそうな勢いだ。 「いや、安心するのはまだ早いぞ。なにしろあいつは凶暴だ。手を出させさえすれば、あとはこっちの交渉しだいでなんとでもなるが、詳しい状況を入手せんとな」 計算高いふうの長兄の目が、妙に燃え上がっているように見えた。 「で、キスぐらいはしてたのか?」 野次馬かよ。 偏りまくった好奇心からくる質問に、おれの心のつっこみなど聞こえない弟は天真爛漫に答えを返す。 「ううん! 床の上で服脱がされてたよ!」 ……兄貴。おれはいま、こいつを斥候にしたことを激しく後悔してる。 口には出さないまま強く念じて兄たちを見れば、そんなことに気付く余裕はないようで、すぐ上が頬を紅潮させ(珍しい)、次兄は眼鏡を掛け直し(動揺したのをごまかす癖だ)、長兄は……しばらく震えていたと思ったら、やおら怒鳴った。 「いきなり床の上でだと!? 兄ちゃんはそんなこと許さーんっ!」 そこなのか。問題はそこでいいのか。 思わずつっこんだおれの頭から、弟の情操教育がどうとかいう問題は一瞬消え去っていて、おれも動揺してるんだなあとしみじみする。 四者四様の動揺っぷりを前にして、弟だけが無邪気に首を傾げている。 まあ、半ば騙くらかして手を出させたら責任追及して結婚させようなんて画策をしたんだから、今の状況は理想的なはずなんだが。そのはず、なんだが…… 「男勝りで凶暴で貰い手もなくてと持て余している気分でも、予想を超えて積極的だと、意外に動揺するものだね」 いちはやく動揺を収めた次兄が統括する。 「兄ちゃん、床だとダメなの? ダメだと姉ちゃん結婚できなくなってみんなに嫌われる寂しいオールドミス決定でくらーい人生でサイアクになっちゃうの? 今から変えてくださいってお願いしにいっちゃだめ?」 ああ、この弟のなんと姉思いで、素直で、おれたちに容赦のないことか。邪気がないから、余計におれが救われない。 「それは駄目だ。絶対禁止。しばらくあっちのほうに行くのも禁止。むしろここから出るな」 弟からすれば理不尽極まりない命令に弟が食い下がるよりも早く、妹の部屋から派手にでかいものを倒すような音が響き。 「あンのくそ兄貴ども全員殺スッ!!」 悪どい策略でも立てなければどう考えても婚期を逃す、我が家で最も凶暴な我らが妹君が、本気の本気で殺意を撒き散らしながら、寝室から飛び出して来たことを知り。 「……これでは、生涯独身を貫き通すも已む無しという気がしますね」 次兄の事実上の離脱宣言を聞きながら、おれたちは一斉に逃亡を開始した。
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というわけで11月最後の日記です。 といって何か特別なことがあったわけではないのですが。
馬鹿文が書きたくなったので書いてみました。 男勝りすぎて嫁の貰い手がなさそうな妹を心配して、既成事実作りを画策する兄たちと弟。床の上に反応して怒る兄が書きたかったようです。 激しくどうでもいい設定ですが、上から26、22、20、19、18、12で、全員独身、結婚の当事者は五番目。兄ちゃんは妹の前に自分の心配をしたほうがよさそうです。
2004年11月30日(火)
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