今日未明、北朝鮮ミサイル発射。
稲葉は有楽町の小さな喫茶店でのんびりとモーニングコーヒー。 蒸し暑かったけれど、アイスではなくあえてホットをゆっくりといただく。
雨から逃げるように足早に歩く丸の内OLとサラリーマン。 彼らを窓の下に見ながらコーヒーと一緒に注文した小さなお菓子をひと口。 店内には稲葉の他は、朝の散歩と思しきおじいちゃんとOL2人がいるだけ。
静かでゆっくりな時間。 コーヒーがとても美味しい。
外を走っていたサラリーマン風の男が、アイスコーヒー片手に飛び込んできた。 木の床に革靴の音が必要以上にけたたましい。
彼はカウンターの席に、しかし座るでなく立ったまま。 携帯を取り出して耳に当てる。
そして「外務省の△△課?」と切り出した。
お隣さんがミサイル飛ばして数時間。 外務省はてんてこ舞いのはず。 どうやら非常時なのは電話をかけている男も同じなようだ。 異常なまでの早口に加え、その大きな声は静かな店内に似つかわしくない。
「○○(社名と自分の名前)だけど△△課の☆☆課長に繋いでっ!」
やはり今回のことによるものか、普通ではないテンションと焦り様。 待たされている間に男はアイスコーヒーを一気にのどに流し込む。
結局課長には繋がらなかったようだ。 外出中なのか会議中なのか、事態の中で男の優先順位が低く扱われたのか。
男は電話をスーツにねじ込み、苛立ちを隠さず入ってきたときの勢いそのままに外へ飛び出した。
あっという間のこと。 しかしお店の中の雰囲気は完全にかき乱された。 その男にも事情があろうことは分かるけれど。
一呼吸置いて、稲葉もおじいちゃんもOLも、徐々に自分の時間と空間を取り戻していった。 まだコーヒーもお菓子も半分近く残っていたのは幸いだった。 静けさが戻ってきた。 喫茶店はやはりこうでなくては。
ミサイルは日本海に飛び込んだんだってね。 ここにも1発、派生して小さいのが飛んできたよ。
稲葉は稲葉なりに、北の暴挙に腹を立てている。
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