馨絵詞〜かおるのえことば
楽しいことも、そうではないことも。

2006年07月05日(水) 着弾地点

今日未明、北朝鮮ミサイル発射。

稲葉は有楽町の小さな喫茶店でのんびりとモーニングコーヒー。
蒸し暑かったけれど、アイスではなくあえてホットをゆっくりといただく。

雨から逃げるように足早に歩く丸の内OLとサラリーマン。
彼らを窓の下に見ながらコーヒーと一緒に注文した小さなお菓子をひと口。
店内には稲葉の他は、朝の散歩と思しきおじいちゃんとOL2人がいるだけ。

静かでゆっくりな時間。
コーヒーがとても美味しい。

外を走っていたサラリーマン風の男が、アイスコーヒー片手に飛び込んできた。
木の床に革靴の音が必要以上にけたたましい。

彼はカウンターの席に、しかし座るでなく立ったまま。
携帯を取り出して耳に当てる。

そして「外務省の△△課?」と切り出した。

お隣さんがミサイル飛ばして数時間。
外務省はてんてこ舞いのはず。
どうやら非常時なのは電話をかけている男も同じなようだ。
異常なまでの早口に加え、その大きな声は静かな店内に似つかわしくない。

「○○(社名と自分の名前)だけど△△課の☆☆課長に繋いでっ!」

やはり今回のことによるものか、普通ではないテンションと焦り様。
待たされている間に男はアイスコーヒーを一気にのどに流し込む。

結局課長には繋がらなかったようだ。
外出中なのか会議中なのか、事態の中で男の優先順位が低く扱われたのか。

男は電話をスーツにねじ込み、苛立ちを隠さず入ってきたときの勢いそのままに外へ飛び出した。

あっという間のこと。
しかしお店の中の雰囲気は完全にかき乱された。
その男にも事情があろうことは分かるけれど。

一呼吸置いて、稲葉もおじいちゃんもOLも、徐々に自分の時間と空間を取り戻していった。
まだコーヒーもお菓子も半分近く残っていたのは幸いだった。
静けさが戻ってきた。
喫茶店はやはりこうでなくては。

ミサイルは日本海に飛び込んだんだってね。
ここにも1発、派生して小さいのが飛んできたよ。

稲葉は稲葉なりに、北の暴挙に腹を立てている。


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稲葉 馨

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