「生きていくのに大切なこと」こころの日記
DiaryINDEX|past|will
今日は痴呆フロアで仕事をしました。 私が気になっている女性の一人・Yさんのベッドを訪れてみると、彼女はいつもと同じように自分に付いて語った後、 「こんな身体で生きてたって・・」 と言いました。
「生きていたって・・・」
半身麻痺を抱える彼女・痴呆ではない彼女が日常で見る、自分と同じ年代であり痴呆を抱える人々の姿。 「痴呆」 と言う病名を付けられ区別されている方々のお世話をする私たちの動き。毎日同じ光景の繰り返しと思われる施設の中で彼女が 「生きていたって・・」 と言い放つ気持ちが私には理解できました。そして心が 「死にたい」 と願っても体が生きる選択をする以上、私たちは生きていく必要がある事も感じました。 幸い今日は天気が良かったので、私は彼女にベランダへ出てみる事を提案しました。施設のベランダには花や野菜が植えられていますし、私には彼女が太陽の光りや土の香りを感じる事も必要だろうと思えたのです。 私がプランターの土を彼女の手の平に載せると彼女は 「土は柔らかいんですね」 と言い、赤ピーマンを手の平に載せると 「赤いピーマンの料理を作ったことが無い」 と言いました。 ベランダの奥へ進むとそこには、私が子どもの頃に甘い蜜を吸って楽しんだ花がたくさん咲いていました。私がその花を手に取り蜜を吸って 「甘いよ」 と言うと彼女は私と同じように花の蜜を吸いました。いつもうつむいて涙を流す事の多い彼女が 「ホントだ、Mamoさんの言うように甘いねぇ」 と言って笑いました。Yさんが入所してきて1ヶ月と2週間目、私は彼女の笑った顔を今日始めて見たのです。そうしている間にその花に大きなチョウが飛んできたので、私は私自身の声がチョウを刺激しないように気をつけながら 「Yさん!大きなチョウチョが来てるよ!見える?」 と彼女に伝えてみました。目の悪い彼女は最初、全長7センチほどのアゲハチョウを視界に入れる事が出来ませんでしたが、チョウが何度か飛び立っては私たちと同じように花の蜜を吸いに来るうち、ついにその姿を彼女自身の視界に入れることが出来たのです。 すると彼女は 「本当だ大きいねぇ」 と言った後 「チョウチョにおすそ分けをしてもらった」 と言いながらもう一度花の蜜を吸い、私たちの周囲を飛んで回る蝶の後を追うように首を傾ける事をし始めました。
私は・・彼女の心がほんの少し輝いたような気がしました。 「生きる」とは。生きるとはこういうことではないかと思います。現実にあるものに意識を傾け、プラスの好奇心でそれを眺めていくのです。 二人で外に出ていた時間はわずかに15分。彼女には彼女のプランがあり、私には私の業務が残っていました。「もう少し自由な時間があれば・・」そう思いつつベランダの戸を閉めた時、彼女は「Mamoさんと又此処へ来たいゎ」と語りました。21:15
|