| 2005年07月08日(金) |
名前を呼んで、声を聞かせて |
遠い誰かだと思っていた。 届かないまま、もう二度と知ることすらない存在だと思っていた。 どうにでもなってしまえと、そんな風にさえ思っていたというのに。 ――それなのに、なぜ。
目の前の男も、きっと自分と同じようなことをと考えているのだろうとレイは思った。 サングラスをかけてはいるが、その奥の瞳が大きく見開かれていることはよくわかって。グラスでは隠し切れない顔の傷の意味など、もちろんレイが知るはずもない。 相手からすれば、きっと自分はいつもと変わらない表情のままなのだろうとは思うけれど。 男はあの人とよく似た瞳で、あの人と変わらないこの瞳を見やる。 男はなにかに気づいたのか、思うところでもあるように片手を顎に当てまじまじとレイの顔を見つめていた。 「――去れ」 反射的に告げると、男は妙な顔をした。くしゃりと子どものように顔をゆがめ、困ったようにレイの顔を覗きこむ。 「どうして?」 「お前など、いらない」 「そりゃひどいな」 男は全くそう思っていない顔で笑い、レイはそれが嫌だと思った。お前がその顔でそんな風に笑うなと、なぜか強くそう思った。
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