| 2004年05月19日(水) |
君のいるとき3 <ランディ&?> |
「よし、できた」
予定通りに煮物を作り終え、下準備も全て整い、ランディくんは醤油を手にしました。 借りたものは、なるべく早く返さなければなりません。 しかも今回借りたのは日常よく使うものですので、早いにこしたことはないでしょう。 玄関に向かう前に、猫たちの様子を見ようと部屋の中を振り返ったランディくんは、おや、と首を傾げました。 先刻まで部屋の中でのんびりとしていたはずのセイランと友達の黒猫がいません。 ベランダからさらにどこか外に出たのでしょうか。
「まあ、いいか」
セイランがいなくなるのはいつものことです。 きっとまたいつもどおり、夕方になれば帰ってくるだろうと考え直し、ランディくんは部屋を出ました。
「こんにちはー」
隣の家のチャイムを鳴らすと、しばらくして中から咥えタバコの若い男の人が出てきます。 その人はランディ君の顔を見てすぐに用件がわかったのでしょう、軽く笑って扉を開けてくれました。
「お醤油、どうもありがとうございました。助かりました」 「いや、これくらいなら気にすんなって」
ランディくんのお隣さん、それはハボックさんでした。 ランディくんの家はこの階の端の部屋で、お隣さんはハボックさんだけなので、なにかしらお世話になったりしていたのです。
「これ、少ないんですけど、よろしかったらどうぞ」 「お、いいのか? サンキュー」
ラップをかけた深皿には、ハボックさんから借りた醤油を使って作った煮物が入っていました。 ランディくんお手製の煮物は少し前におすそ分けをしてからハボックさんに好評で、以来ランディくんは煮物を作ってはハボックさんの部屋に届けているのですが。 ふいに部屋の奥から何かが鳴く声が聴こえ、ランディくんは何気なく部屋の中を覗きました。 玄関からリビングまでは一直線で、その奥の窓も半分くらいが玄関先から見えるのです。
「……あれ、セイランさん?」
ハボックさんの家の、窓の向こうに見える覚えのある色合いに、ランディくんは目を丸くしました。 ベランダの方に、セイランとさっきの黒猫がいるではありませんか。
「ん? ……ああ、あれ、もしかしてお前さんの猫か?」 「はい、そうです。セイランさんっていって……じゃあ、あの黒い猫は、ハボックさんの?」 「ロイっていうんだ。そうかあれがお前の猫か」
まさか猫までもがお隣さん同士で仲良くなっているとは思わなかったのでしょう、ランディくんはハボックさんと顔をあわせて笑ってしまいました。 いつも、気づくとセイランはベランダからも姿を消していて、ランディくんは少し心配していたのですけれど。 ハボックさんに聞いたところによると、どうやらセイランはよくハボックさんの家に来ているようで。 こんな風に、お友達の家に上がりこんでいるのならば心配ありません。
「それじゃあ、セイランさんをお願いします」 「ああ。――夕方までには帰るよう云っとくよ」 「はい、ありがとうございます」
自分の部屋に戻って、ランディくんは部屋の中がほんの少し広いように感じました。 さっきまで、セイランとロイがいたときはそんな風に感じなかったのに。 気のせいだろうと思いながら、ランディくんは窓がちゃんと開いていることを確認して、またキッチンに入りました。 夕方、ちゃんと戻ってくるであろうセイランに、いつもように美味しいご飯を食べてもらうために。
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