それは、ムウさんが仕事から帰る途中のことでした。 その日ムウさんは定時に仕事を終え、その後食事や飲みに誘われも誘いもしなかったので、のんびりと駅前のスーパーで買い物をして家までの道を歩いていました。 (ちなみに恋人もいませんのでデートの予定なんかも入っていません) そのときです。 電信柱の陰で何かが動いたような気がして、ムウさんは足を止めました。
「……?」
近寄って覗いてみると、そこには薄汚れた小さな塊がありました。 足元にあった小枝でつついてみると、その塊は押されてごろんと転がりました。 そしてひょっこりと覗く三角形が二つ。
「……猫?」
ムウさんの思った通り、どうやらそこにいたのは猫だったようです。 死んでいるのだろうかと思い、ムウさんはおそるおそる猫に手を伸ばしました。 小さな身体はまだあたたかく、心臓も動いているようでした。
「生きてる……」
ムウさんは慌てて猫を抱き上げました。 まだまだ小さい仔猫で、大きさはムウさんの両手を軽く開いてすっぽり収まるくらいです。 よく見てみると、仔猫の首には細い首輪がしてありました。 身体と同様に首輪もボロボロでしたが、ムウさんは首輪につけてある金属のプレートを見つけました。 そこには何か文字のようなものが刻まれているようです。
「名前…?」
プレートも傷だらけでしたが、かろうじて文字に見えないこともない線を、ムウさんは必死で追ってみました。
「R、A…W…W……ラ、ウ?」
そのとき、手の中の仔猫がぴくりと動きました。
「ラウ? お前、ラウっていうのか?」
仔猫はそれ以上動きませんでしたが、返事の代わりにか細く「みゃー」と鳴く声が聞こえた気がしました。
「とにかく、暖めて何か餌やらないとな」
ここまできて放っておけないのがムウさんです。 猫用のトイレや餌といった必要なものを買ってきたり、飼い主を探すなどやるべきことはたくさんあります。 けど、と手の中の仔猫の頭を指先で撫でて、ムウさんは思いました。 とりあえずは仔猫――ラウが元気になるのが先だ、と。
2人――いえいえ、1人と1匹はこうして運命的に出会うことになったのです。
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