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| 2006年03月27日(月) あの頃、あの練習場で |
| ある朝、ふふふんとドライヤーで髪の毛をブローしていると、めざましテレビからなにやら聞いたことのある名前が聞こえてきた。 あ、その名前、大学の先輩に同姓同名の人が居たなぁ、珍しい名前なのに同姓同名の人っているものだなぁ、とふとテレビの画面を振り返って見てみたけれど、うーん見たことない人。やっぱり同姓同名なんだなぁ、と目を鏡に戻そうとしたとき、頭の隅っこがピピっと鳴って、驚いたことにやっぱり彼女は、大学のときのあの先輩だった。 音楽大学の管楽器科を卒業して、シンガーソングライター(?)になったそうだ。 今の私は、大学の同じ科の友だちともう連絡すらとってないので、あの頃の先輩や後輩が今何をしているのかまったく知らない。それを、突然テレビを通してある一人の先輩の消息を知ることになり、とても驚いた。 彼女は、メジャーデビューを果たして私も聴きなれているCMソングを作ったりしているらしい。 あぁ、あのCMのあの曲が……。 品川の駅で彼女が映った大きなパネル広告を見上げた。 知らない人のようで、でも知っている彼女で、私はなぜだか随分長い間、その大きな広告を見上げていた。彼女の歌声を公式ホームページから聴いたりもしたけど、なんだかやっぱり知っている人のような知らない人のような。 管楽器の勉強をして主にクラシックの勉強をした人が、ポップミュージックのしかもピアノの弾き語りの歌い手になるということは、一体どういうことなのだろう。 私の記憶が知る限り、その先輩は大学時代、バンドを組んでいてたまに小さなライブを開いたりしていた。「おいでよ」と誘われたけど、行ったことはなかった。興味がなかったといえばそうだし、暇がなかったと言えばそうだ。だから、その先輩がどんな曲をつくってどんな歌声なのかまったく知らなかった。 普段の大学での先輩は、ちょっと青臭い言い方をすれば、すごく努力をする人だった。楽器の練習をひっそりとひとりで何時間もするような人だった。努力してはじめて練習場に現れる人で、その場その場で感覚を身に付けながら演奏するよりも、時間をたくさん要して自己練習をした後、皆との音あわせをする人のような印象がある。器用じゃなかった。でも、そういうタイプの人もいる。 その先輩からは、辛い・キツイというような言葉ばかり聞いたことがある。 もちろん、練習はきつい。演奏会へ向けての練習は、いま思い出すだけでも嫌になる。何より先輩への気の使いようが大変だった。 「私は私で、自分の演奏をするだけ。自分のベストを尽くすだけ」という飄々とした人間もいた中で、その先輩の疲れようは、私の中では際立っていたように記憶している。 だけど、練習以外の場でのその先輩は、飲み会の幹事を引き受けてくれたり、合宿の幹事を引き受けてくれたり、とても明るくて面倒見が良かった。お酒を飲むともっと楽しい人だった。 面倒見のいい部分が、もしかしたら、演奏会の練習をする中での疲れを際立たせていたのかもしれない。 その先輩がどれだけ管楽器を好きで練習していたかは私は知らない。 大学の頃を思うと、今の彼女はコンバートしたのだ。同じ音楽という業界の中でとらばーゆしたのだ。 ピアノへ。シンガーへ。 あの頃から、本当はそちらの方面へ進みたかったのかもしれない。 大学のあの四年間を、クラシックばかりだったあの毎日を、今の彼女は自分の中のどんな位置に占めているのだろう。 私はそれがとても知りたいと思った。 メジャーデビューを果たして、テレビでちらちらとその歌声が聞けるようになって、全国にプロモーションへ出かけライブをして、そんな彼女はあの四年間をどんな形としておさめているのだろう。 同じ音楽の世界でもそれは広い。広すぎて比較のしようがない。だけど、音楽という一言で言えばやはり同じ世界なのかもしれない。彼女は大学で学んだことの延長上に立っているといえるのかもしれない。 私にはよくわからない世界だ。 彼女の歌声を聴くと、あの頃、苦悩の顔をして演奏をしていた人とはまったく別人のように思える。今のほうがずっと楽しそうに見える。私の覚えている彼女の声とはまったく別人のようで、だけどその歌声こそがとても心地良さそうに聴こえる。 その歌の詞を追っていくと、彼女という人はこんな人だったのかと、はっとさせられる。私が大学のとき見ていた彼女は、ただの私の都合のいい解釈だったのかもしれない。人数の少ない科ではあったけれど、もっと別の先輩と仲の良かった私は、結局、彼女の表面しか知らなかったのかもしれない。 詞を見てそう思った。 人はそれほどわかることは出来ないのだ。たった四年間で。 今私が思うのは、彼女がどんな音楽を選んだにせよ、自分を表現できる自分の好きなものを選んだことを、私はとても羨ましく思う。 そうだ、私はきっと羨ましいのだ。 自己を表現して、世間に発表して、そして多くの人に支持されるのは誰にも出来ることじゃない。上手く言えないけれどそれを実現したその人はとても素敵だと思う。安易な言葉しか浮かばないけれど、素敵なことなんだと思う。 あのとき、あの練習場に来る前に、何時間も自己練習をしていたように、今を実現させるために彼女はきっといろんな努力をしてきただろう。音楽以外の苦労もあっただろう。 一曲を完成させるそのために、彼女がひとり黙々と楽譜を書いているのだとすれば、やっぱりあのシンガーはあの頃のあの練習場で楽譜を見つめていたあの先輩に違いないと、私は思う。 |
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