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| 2005年12月03日(土) 土曜日の朝 |
| 土曜日。 朝早くに目が覚める。眠れなかったわけじゃない。だけど、目が覚めてしまってもう一度眠ろうとしても出来なかっただけだ。 散らかった部屋を片付けて、掃除をして洗濯をして風呂を洗って、シャワーを浴びた。 金曜日。 精神病に罹っていた派遣スタッフに「あんたのせいで仕事をなくした」と怒鳴られた。彼女は何度も同じ言葉を繰り返した。私はただそれを甘んじて聞いていた。 彼女は、その日仕事を辞めた。 ずっと欠勤が続き、そのうち連絡もなしに休む日が続いていた。派遣先の企業は彼女をとても心配し、私に連絡を寄越してきた。そして控えめに「このまま仕事を休まれると、うちも困るんだけど」と付け加えた。 何度も彼女に電話をして留守電を残し、よもや一人暮らしの家で何かトラブルが起こったのではないかと考え始めたとき、彼女からやっと連絡がはいった。 「朝、起きれなくて」と彼女はか細い声で話していた。 不安でたまらないので夜眠れず、だから朝起きれないと彼女は言った。 これから、病院へ行くと彼女は言った。 仕事を続ける意欲はある。だけど、朝起きられなくて仕事へ出かけられない。 それが欠勤が続いた理由で、欠勤の連絡が出来なかった理由だ。 事情はわかる。わかるが、彼女自身もこのままでいいわけはないと思っている。 それに、彼女が居ない間、業務はずっと滞っている。 彼女が仕事を辞める意思を見せない限り、代わりの人間を探すことは出来ない。 企業側は、彼女の回復を待つと言った。 だけど、彼女からの診断の結果を聞く限り、それは見込めない。彼女自身もそれは理解しているのに、「治療を続けながら仕事をしたい」と言った。医師の見解は「仕事を辞め、治療に専念せよ」とのことだった。 彼女と企業側が、契約終了の意思を見せない限り、私には何の対応も出来ない。依然、彼女の業務は滞ったままだ。このままでは、ただ状況は悪循環するばかりだと思える。 これが、彼女が休み始めて一週間目の出来事。 二週間目に入った。状況は変わらず、彼女は休み続けている。彼女とはもう連絡すら取れない。もう、企業側もこのまま彼女を待つことは出来ないだろう。一週間たって、彼女に情をかけるより、今の仕事がまわらないことが深刻な問題になりつつあるだろう。企業が個人の労働者の事情に配慮できる期間はそう長くはない。 私は企業に赴いて「この問題は、数日間待てば彼女が回復するといった問題ではない。風邪をひいたり、怪我をしたという問題とは違うのだ。これ以上このままの状態が続けば、彼女に出勤のプレッシャーを与え続けてしまうことになり、余計に体を悪くさせる」と話し、企業に契約について考えてもらうことを勧めた。 彼女にメールを送る。「医師の言うとおり、治療に専念するため仕事を辞めてしまう道もある。検討してください」と送った。彼女はきっと今ごろこのメールを読んでいるだろう。彼女と連絡が取れないのは、彼女が電話をとろうとしないからだろう。きっと着信音が鳴る携帯電話を布団に潜り込んで見つめているだけではないだろうか。自己嫌悪とどうにも出来ない状況に彼女は焦っているだけで、現実は何も好転していない。 メールで何度も彼女と話し合い、「もうやめます」と彼女の言葉を聞けた。 金曜日。 契約の中途終了の手続きをとった。 電話口で、彼女はずっと私を罵った。 自分は確かに精神病に罹っているが、仕事が出来ないわけではないと言い、私が仕事をやめるのは医師からの勧めと、派遣先の企業に迷惑をかけてしまっているからで、自分の意志ではないと言った。あんたのせいで、私は会社を辞めてしまうのだと叫んだ。 言っていることが支離滅裂だ。 現実を見つめて欲しい。 仕事に対する意欲があっても、朝起きれず、出勤できないという現実。 仕事が出来る状態とは言えないという現実。 そして、最終的に「仕事をやめます」と決めたのは、彼女自身だ。 もちろん、私は「仕事をやめるという選択肢もある」と言い、「治療に専念し、良くなってから仕事をする道もある」と言った。だけど、最終的に決めたのは彼女自身だ。これ以上、彼女を待ち続けると、結果的に企業側から契約終了を言い渡され、傷つくのは彼女自身なのである。 これ以上傷つく理由が、私にはないような気がする。 彼女が私を怒鳴りたければ怒鳴ればいいし、罵りたければ罵ればいい。 それで気がすむのなら、そうすればいい。 土曜日。 シャワーを浴びて、ぼんやりしながら彼女のことを考えていた。 仕事をしたくても出来ないということ。仕事をしたくても体がいうことをきいてくれないということ。具合が悪いので会社を休むという理由を、毎朝会社に電話をする彼女。会社を休むことが罪悪感になり、自己嫌悪になるということ。そのうち、連絡をすることが嫌になり誰の電話にも出なくなった彼女。それでも、最後の電話口で喚いていた彼女。 私はきっと、時間がたてば彼女のことを考えるのをやめ、そのうち彼女のことを忘れ去ってしまうだろう。彼女が、このあとどんな風に生きていくかなんて、私には考える理由はない。そんなことを考え続ければ、私は派遣会社の営業なんてやっていけない。こんなケースはいくつだってあるのだ。いちいちセンチメンタルに考える時間などない。だけど、彼女にとっては大きな問題なのだ。そんなことはわかりきっている。 彼女のことをいつまでも考え続けても、他の私が担当する派遣スタッフには何の関係もない。 悪いことではない。 無難な対応だった。 他の営業担当だって、同じ対応をするのだし、ほかに方法なんていくら考えてもない。 だけど、精神的な病が関わる問題は、本当に私の気持ちを重くする。 どっしりと重いのだ。 翌日になっても、重さは変わらない。 明日になればいくらか軽くなるだろう。だけど、今日はこんなにも気分が重い。 これから先、いくつこんな重い問題に直面するのだろう。 きっと、100人の派遣スタッフを担当していれば、100ケースの問題があるのだろう。 私は、それに付き合って親身になれるだろうか。 親身になって、誠実に対応できるだろうか。 もし、その気持ちが相手に届かなくても私はやらなければならない。 直面して逃げ去るより、よほどましなのだから。 |
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