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| 2005年03月19日(土) 眠る前に思い出す |
| 暗くて高い天井を眺めていたら、いろいろな思いが浮かんできて、眠れそうにもなかった。疲れていて眠りたいのだけれど、眠るよりも何かをじっと思うことをやめられない。 今日、帰りの電車を待つホームで、ある二人を見ていた。 男は、電車を待つ列に並び、女は、その男の横顔に向かい合うように立ち俯いていた。 ふたりのあいだには会話もなく、お互いに醒めたような泣く寸前のような顔つきでじっと立っていた。 女がゆっくりと視線をあげて男の顔を見つめる。けれど、男はそれに答えずただ前を向くばかりだ。何かを懇願するような女の目線を見ていると、私は首を横に振りたくなる。たぶん、彼女の望むことを、男は受け入れはしないだろうと思った。諦めるべきだと思った。だから、首を横に振りたくなった。 女が唇を動かし何かを呟いたけれど、男は自分のつま先に視線を落とすだけで、何も答えようとはしなかった。 やがて、電車が風をふかして到着し、扉を開いた。 私の前の座席に男は座り、その背中は何も言わずホームに立つ女に向けられていた。 女は、その背中にただ視線を向けるだけで、振り返ってくれることをただ心の中で強く願うことしか出来ないだろう。男は目を閉じじっと俯いている。私は女と向かい合うような格好で、そのふたりを見ていた。 扉は閉まり、電車は走り出す。 女は走り過ぎ去る電車を、目で追いかけることしかできない。 ずっと以前、渋谷駅の改札の前で私も同じような目にあったことがある。 もう帰ろうと言う男性とまだ一緒にいたいと思う私と、そんな言いあいをしながら駅まで歩き、そして改札の前で、またねと手を振って男性は定期券で改札をくぐった。私はずっとむくれて、人の流れの多い場所に、今にも泣いてしまいそうな顔でずっと立ち尽くしていた。 どれだけたったかわからないけれど、やがて呆れたような顔で男性が戻ってきた。 その人は、「今を急ぐことはない」と言った。「また会えるし、いつだって会える。だから、今を急ぐことはない」と言った。それでも、私は「今、一緒にいたいのだ」と答え、彼は黙って俯き静かに歩いて、また改札をくぐった。 私はそんな背中をずっと見ていた。振り返れ、振り返れと願いながら、ずっと見ていたけれど、ついに彼は振り返らなかった。 彼の姿が見えなくなってから、小さく手を振ってみた。彼の見えなくなった場所に小さく手を振ったら、とても自分が嫌になった。 その後、その人とどうなったかはもう忘れた。 |
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