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2004年11月09日(火)  口のきけない運転手
仕事上、よくタクシーに乗る。

タクシーに乗っているときは、なるべく話しかけられたくはない。なので、おしゃべり好きの運転手に捕まってしまうと、今日は運が悪かったなと思う。
それでも、話し好きな運転手の話しに耳を傾け、相槌をうち、笑って答える。
道が混んで恐縮している運転手に、時間はありますからと安心させてあげる。
話しを聞いてくれたお礼にと、車を降りる時にのど飴をもらってこちらもまたお礼を言う。

今日、同僚と一緒に乗ったタクシーの運転手に、行き先を告げた。
無言で車を走らせる運転手に、私は行き先が聞こえているのか不安になった。
行き先がちゃんと伝わっているのか不安になった。
もう一度、確認をしても無言だった。首を振るでもミラーで目で合図するでもない。
同僚が私と顔を見合わせて、訝しげな顔をした。
この人は口が聞けないのかと思うほど、彼は無言を貫いていた。
行き先、わかってますか?と同僚が運転席に身を乗り出して口調を強くして聞いた。
彼は小さな声にならない声で、「わかってるよ」とぶっきら棒に答えた。
気分を害したような同僚のその顔に、私は苦笑を向けた。

わかっているなら、それでいい。
個人タクシーにサービスを求めるでもないし、行き先まで連れて行ってくれればそれ以上はこちらも望むことはしない。
その応対に、「人間として、何々」と言うつもりもない。彼は彼で、私は私で、話し好きな人もいれば、私のように話しかけられたくない人もいる。話しかけられて無愛想にする客もいれば、私のように愛想よく調子よく相槌を打つ人間もいる。
走ってくれればそれでいい。

車が到着して、お金を払った。無言で釣りと領収書をもらった。
車をおりたら、背後でドアを乱暴に閉める音がした。
同僚が、よくあんな態度で商売をやっていけるね、と肩をすくめた。
私は、首を傾げて、何か自分に彼を怒らせることがあっただろうかと一瞬考えたけれど、思い当たることも無いので、もうそのことについて考えるのはやめた。

世の中、つねに機嫌の悪い人は、どこにだって、そしてたくさんいる。
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