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2004年08月12日(木)  シンドローム
仕事はうまくいっている。うまく行き過ぎているほどだ。
毎週月曜日のミーティングでは、社長が上機嫌な顔をしてのぞきにくるほどだ。
私たちが関わるプロジェクトが、今期もっとも会社が力を注いでいる仕事だという証拠なのかもしれない。
けど、社長なんてどうでもいい。常務もどうでもいいし、事業部長すらどうでもいい。売上高とか純利益とかどうでもいい。

何かのシンドロームにかかったみたいに、私は途端に相手の話す言葉がわからなくなる。相手の言葉がフランス語を話しているように聞こえるし、ロシア語にも聞こえてドイツ語にも聞こえる。あたまの回転が油が切れたように鈍くなって、眉間に皺を寄せながら、本当に彼らが私のわかるように日本語をしゃべっているかどうか、口元をじっと見て確かめられずにはいられない。
ふとした瞬間、自分の話していることが本当に相手に伝わっているのか、心配になる。私はいまちゃんと説明できているだろうか、相手に誤解を招くような説明の仕方や提案をしてはいないだろうか。本当にこの目の前の相手は、私の言いたかったことを受け止めてくれているだろうか。一語一語言葉を切って何度も繰り返し話し、神経質に何度も相手の理解を確かめずにはいられない。

他のいろんな仕事が、どんなものなのか私は詳しくは知らない。
私のいまやっている営業の仕事ほど、「話す」仕事があるだろうか。
一日中、私の唇にカメラを向けて、そのテープを早送りで見たら、きっとそれは滑稽だろう。休むこともなく唇を閉じることもなく、私はしゃべり続けている。一日中、話しをし続け、相槌を打ち続ける。

夜になって、オフィスで黙々と事務処理をしているとき、私はシンドロームにかかる。
上司の私を呼ぶ声が、外国語に聞こえる。アシスタントに仕事をお願いするとき、ちゃんと意図が伝わったか何度も確認したくなる。恋人の言っていることにぼんやりする。動きが緩慢になる。


仕事はうまくいっている。これまでの仕事とは比べ物にならないくらい楽しい。
これまで関わることもなかった、他の課の営業や企画課の人間やいろんなクライアントと話すことは楽しいし、彼らと話すことによって私の世界は広がっていくような気がしている。満足はしないけれど着実に目指すべき場所にベクトルが定まっているのがわかる。
なんのトラブルもなく、なんの不都合もない。

疲れているのかもしれない。その疲れは休めばすぐ回復する程度のものだと信じたい。自分自身ではキャパはあるほうだと思っている。それだけがとりえだと言ったら買い被りすぎだろうか。疲れているだけなら、それでいい。休日にたっぷり休めばいいのだし気分転換だってしようと思えばすぐ出来る。行き詰ったら相談できる相手だっているし、別に体調が悪いわけではない。だから、大丈夫だと思う。そう思いたい。
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