| days |
| 2004年07月29日(木) ずっと一緒にいようという約束 |
| 会社を出て、そのまま駅のコンコースに通じるエレベーターで地下に降りて、エスカレーターをふたつ上ってホームにあがったら、そこで初めて雨が降っていたことに気づいた。ぬるぬると線路が光っている。傘を忘れたことを悔やんでも会社にとって返す気にはならない。 カツカツとヒールを鳴らして濡れる街を走る。一刻も早く帰りたい。 マンションのエレベーターが下りてくる時間すら惜しく、手にはすでに鍵を握っているし、靴はすぐ脱げるようにバックベルトは外してある。 そっとドアをあけると玄関の電気だけがついていて、奥は真っ暗だ。静かに鍵を閉め、靴を脱いだらストッキングを脱いで洗濯機の上においてあるカゴの中に投げ入れる。そこには恋人のTシャツとハーフパンツも入っている。私の恋人は、夜の空いた時間を見つけては、最近走ることを始めた。玄関にはランニング用の靴が置かれてある。たぶん、今日も走っていたのだ。 ジャケットをハンガーにかけて、膨らんだ布団を見下ろしてみた。寝息が聞こえる。寝たふりをしているのかと、そっと顔をのぞいてみたけれど閉じられた彼の目は、不自然ではない。 今日の約束を、私は守れなかった。結局、彼はひとりで夕食をとったのだろう。かわいそうな事をしてしまったと思う。守れない約束を私は半ば無理やりに自分にしてしまった。仕事が忙しいのはわかりきっているのに、毎日何時に帰れるかなんてわかりもしないのに、最近恋人との時間が取れなくて自分でどうにかしなければと焦っていた。恋人は何の不満も言わなかったけれど、誰もいない家に帰ってきてひとりで私の帰りを待って、やっと私が帰ってきたと思ったら疲れてすぐに眠ってしまう、そんな毎日を彼は淋しいと感じているだろうとは思う。 私たちは、子供じゃない。恋の駆け引きよりも安定した関係を望んでいる。仕事はお互い様だし、一緒に過ごす時間がないからといって壊れてしまうような間柄じゃない。彼だって十分大人の年齢なんだし。 だからきっと、彼に淋しい思いをさせているんじゃないかと思うより、私のほうが淋しかったんだと思う。あれもしたいし、これもしたい、仕事もしたいけど、恋人ともいたい。だから、ぽろっとこぼした彼の言葉に私はほとんど守れそうもない約束をしてしまったんだろう。 彼は怒っているに違いないし、諦めた気分になっているかもしれない。私に愛想が尽きたかもしれないし、嫌になってしまったかもしれないと思う。 「眠ったの?」と聞いてみる。ねえ、と呼んでみる。 私は、たぶんこの世で一番の子供っぽくて我侭な人間だと思う。 膝をついて彼の顔をのぞいてみる。眼は柔らかく閉じられてままだ。 寝息が乱れて寝返りをうち、私に背を向けた。 きっと、一緒にいられなくて淋しいのは、目まぐるしい忙しさを抱えた私の方なんだ。恋人は私ほど淋しさは感じていないのかもしれない。 自分も布団にもぐって恋人の背中に抱きついてみた。何の反応もないからもっと強く抱きしめてみた。恋人が鼻をすすって寝返りをうつと、おかえりと言った。怒ってない?と聞くと夢の中から意識を取り戻すように間をとって、どうして?と言った。やっぱり、恋人は私ほど淋しいとは思っていないのかもしれない。 私はシャワーを浴びて眠る準備をした。起きた恋人は私の濡れた髪の毛をタオルで拭いてくれながら、ずっと一緒にいようねと言った。 私の淋しさは彼に伝わっていたようだけど、その約束も私は守れないんじゃないだろうかと、ふと思った。 |
| Will / Menu / Past |