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2004年05月25日(火)  暴風域
今年最初の台風が、紀伊半島を通り過ぎ関東地方に接近していると、車の中でラジオを聴く。私たちは防波堤の前に車を止めた。高い波が押し寄せているテトラポットを背に、雨合羽を着た若い男性アナウンサーが必死の形相でマイクを手に、顔の前に構えられたテレビカメラに向かって何かを叫んでいた。大粒の雨がその男の体を叩き、暴風が手に持つ原稿や雨合羽を剥ぎ取ろうとしている。
灰色の海が不気味にうねっていた。

危ないからと静止する彼を置いて、私は車のドアを開けた。
雨なのか、海の飛沫が飛ばされてきたのか、顔やむき出しの足や腕に、強い風が細かい水を叩きつけてくる。髪が視界を邪魔する。風に押されながら、私は海に向かって一歩ずつ進んでいく。台風が見たい。荒れ狂った海が見たい。どれほどの威力で私たちに向かってきているのか、この目で見てみたい。怖ろしくなんかない。
暴風雨に耐えながら、車から出てきた彼に向かって声を出そうと、口を開いた途端に強い風が入り込んできて、息が苦しくなる。自由にならない唇と開けていられない目を腕で覆った。彼も右手で雨を遮りながら私に向かって何かを叫ぶ。風に流されながらも耳に届きそうなその声に、私は懸命に応えようとする。

彼は、なにかを叫びながら私に一歩ずつ近寄ってくる。
私はありったけの声で叫び返す。

びしょ濡れになった彼の髪の毛と、彼の胸に纏わりついたシャツを、私は握り締める。
もっともっと近付こうと、腕を引き寄せる。
彼の目を見て私は叫ぶ。
風が甲高い声を出して耳元を駆けていく。頬に雨が伝わる。
髪の毛が踊っている。雨と風が私の体を叩く。
防波堤に波が跳ねる。白い泡が宙を舞う。空が荒れている。
もう一度、風が叫び声をあげて走り去っていく。
彼の声が耳のすぐそばで聞こえた。
彼の体と一体になりたいと思った。

遠くにある東京の街は今ごろこの台風で混乱しているだろう。


大地を揺るがすほどに強く吹く風にも、痛々しく肌を刺す尖った雨にも、大きな口を開けて私を飲み込もうとしている海にも、狂ったように早く流れる灰色の雲にも、どんなことにも屈することなく、私は彼に伝え続けたい。この気持ちを言葉で伝え続けたい。
この言葉は何にも汚されることなどなく、あなたを守り続ける言葉なのだと、信じたい。この言葉だけが二人の絆なのだと、証明したい。どんなに大きく、得体の知れない怪物のような台風が私たちを襲ってきたとしても、もっとあなたに伝え続けたい。
だから私は、あなたに好きだと叫ぶ。

夏の始まりを告げる今年最初の台風が、お互いの存在を唯一のものとして結びつけた。私たちはずっとずっと嵐の中で抱き合っていた。誰にも邪魔されず、何にも屈せず。


恋ってきっとこういうもの。
不気味なほどに荒れ狂う嵐の中で抱き合うようなもの。
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