| days |
| 2004年04月10日(土) 別の空の下 |
| 話したいことは山ほどある。伝えたいことは山ほどある。時間はとても足りない。まだ届かない。まだ受け取れていない。どうにも出来ないジレンマが針でちくりと刺したかのように胸を痛ませる。 偶然だとは思うけれど、私がこれまで付き合った男性のうちの3人が夢を叶えて海外へ飛び立っていった。彼らの夢は日本国内には留まらず世界中を股にかけたものだったから。強い信念とこれまでの経験や技術をもってしても、世界へ羽ばたくチャンスはそんなに簡単には手に入らない。タイミングやコネクションや又は経済力も必要とされてくるだろう。そんな難しい夢を彼らが少し諦め始めた頃、思いがけなくチャンスは訪れ、それと同時に彼らと私との恋人関係は消滅してきた。 ボクの夢が叶うときが来たんだ。 海の向こう側の世界は果たしてどんなものなんだろう。国外へ行ったことのない私には、何光年も彼方の場所のように思えて、どれだけ遠い国なのか、どれだけ離れていても身近な存在でいられるのか実感が沸かない。自分が見上げる空はずっと遠くまで続いて、彼の眠る街にまで続いていると聞かされても、私には彼の空と私の空はまったく別物のように思える。空がどこかでくっきりと切り取られているような錯覚さえおぼえる。 遠いって、どれだけ遠いの? 国際電話をかける時間を決めて私は電話の前で待ち続ける。鳴ったらすぐ受話器をあげて耳を押し当てる。ずっと遠くにいる彼の声を聞き逃さないようにと息を詰める。彼の声はとても小さく、向こうの空気は日本とも変わりないように聞こえるし、私には聴いたこともない言葉や音楽が溢れている。こちらは静かな夜なのに彼は今日は陽射しが強いと言っている。 いま、どこにいるの? 成田で彼を見送るときはどうしようもなく絶望を感じる。それまで沢山の時間をかけて私たちのことについて話し合ってきたはずなのに、そしてそれをちゃんと理解して納得したはずなのに。どうしようもない巨大な力が私たちを引き裂いているのかもしれない。誰が悪いわけでもなく誰のせいでもない。だけど、やり場のない悲しさや淋しさだけがあとに残る。イヤだとかぶりを振って彼を止めたとしても一体どうなるというのだろう。空港からの帰りにバスの中で涙も拭かずに私はずっと泣き続ける。窓に映る自分の泣き顔が、世界で一番哀れな存在に思えてくる。 これは、私の宿命なの? 私が一番嫌なことは、誰かを見送ることである。 空港でも駅のホームでも、どこでもいい。もう逢えなくなる人を、または少しの間逢えなくなる人を見送ることが、この世で一番嫌いなことだ。置いていかれることの惨めさと誰かを失うことの空虚さ、ぽっかりと胸にあいた穴は何に代えても埋めることは出来ない。私の胸の中には大きな穴が既に3つもあいていて、だから私は過剰に誰かがどこかへ行ってしまうことを嫌がりたくなる。過敏に反応してしまいたくなる。 また、行ってしまうの? 一ヶ月であろうが、2週間であろうが、今の私にとっては遠い国へ行ってしまうことには変わりはない。いなくなることには変わりはない。もちろん、あなたがどこにも行かなくたって私たちは毎日会うわけではないし、毎日話しをするわけでもない。だから一ヶ月だけ、2週間だけ会えない時間が続くと思えばいい、辛抱すればいいだけなのかもしれない。けれど私にはそういう問題のようには感じられない。どうしてだかわからないけれど、時間の問題ではなく、何か別のもっと大きな力が私たちを引き離そうとしているように思えてならない。その力が距離に比例するように思えてならない。私の想像できない場所へ誰かがあなたを連れて行ってしまうような気がしてならない。もう二度と逢えないような気がしてならない。 だって、私の知らない別の空の下へ行ってしまうんでしょう? 友達と呼ぶには遥かに親密で、けれど恋人と呼ぶにはまだ遠く、けれどもっともっとその人のことを知りたいと思った。その彼は私の向かい側に座って、数日だけのさようならを言った。私にはもっと時間が必要でもっと言葉が必要なのに、それを遮るようにして彼は今日、成田から飛び立った。少しの辛抱だよと彼は言ったし、毎晩電話はするよと彼は言ったけれど、私はそんな言葉を気休めになんかできないほど、この種の淋しさを幾度となく経験している。 いつ、いつ帰ってくるの? 指折り数える毎日がまた始まる。 |
| Will / Menu / Past |