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| 2004年03月01日(月) 一時のさようなら |
| 娑婆に出て三日目。 空気が美味しい。光化学スモッグの空気が。 昼前にのそのそと出勤。久しぶりの電車に乗ったら、少し動悸がしてしまって、落ち着け落ち着けと唱えてみる。 まる2週間、お休みをしてしまった、仕事。結局、いま進行中の仕事はすべて上司にやってもらった。けれど、今後はあと数日間は休まなければいけなくなってしまったので、今日は業務引継ぎのために数時間だけでも会社に出て行くことになった。といっても、昨夜、明け方くらいまで詳しい仕事の流れややり方をマニュアル化してある。すでに上司宛にメールしておいたので、会社では細々とした内容を伝えるだけ。 久しぶりの会社に、少し緊張したりする。 仕事というのは、私にとって重要不可欠なものだ。 私を形成するひとつの要素だと思う。それはきっと他の誰だって同じだと思うけど。 だから私は、仕事をする上で、自分のバランスをとってきたと思う。 仕事があって友達と遊ぶ。恋愛をして仕事をする。 私をつくる、どの要素にも偏らないように、仕事というものは私自身を程よく中和させてきた。 もちろん、逆のことも言えて、仕事だけに偏らないように友だちと遊んだり、プールに足繁く通って気分転換をする。とにかく、仕事は私にとってぜったいに欠かせないもののうちのひとつ。 そのひとつが、今失われてしまったら、一体私はどうなるんだろうって、最近はそればかりに怯えている。私の細胞がひとつ壊れてしまうことに、全体のアンバランスさを認めないわけにはいかない。多分きっと、私は左へ左へと傾いている。三半規管を失った人みたいに。船は座礁して飛行機は車輪も出さずに着陸に失敗するみたいに。 特に、営業という私の仕事は、体力よりも精神力が必要になる仕事だろうと思う。センスも必要だろうし洞察力や決断力も必要になるだろう。そんな仕事を今の君にこなせるのかい、と主治医は何度も私に話した。私は、仕事を休むことこそが私のバランスを失うことだと懸命に説明したけれど、結局それは聞き入れてはもらえなかった。 だから、今日から休職する。 これまでにない複雑さを見せる私の生活の中で、唯一変わらなかったのは、仕事だけだった。ここ数ヶ月どれだけ真剣に仕事をしてきただろう。仕事しかない人生という形容詞を使えば、それは淋しい人間のように聞こえるかもしれないけど、着実に誠実に相対すればするほど、応えてくれるのは、たぶん仕事だけだったかもしれない。 それを私は、明日から失う。 一体、誰のせい? そう思った。 どうして私だけこんなふうにならなければいけないのかと強く思った。 一体、誰のせいで私は仕事を休まなければいけないのだろうと思った。 周りのみんなは、何にも阻まれることなく仕事が出来ているというのに、どうして私だけこんな目にあわなくてはいけないんだろうと思った。 仕事は私にとってとても楽しくて興味の尽きないものだった。集中しなければ出来ないことだし、時間がかかって手間がかかることであっても、跳ね返ってきた結果はこの上ない喜びだから。たくさんの人と会って、いろんな性質の人や思考を持った人と出会うことが出来て、私はきっと同年代の人間よりも少し世間を知っているという自負もあった。これ以上面白い仕事なんてないだろうなとさえ、思った。 これだけ面白いと思いながら仕事をしていた私が、どうして休まなければいけないのか、不思議で仕方なかった。仕事が嫌で辞めていく人さえいるのに。 一時のさようなら。 まずは、一ヶ月間の別れ。 私は、同僚の営業マンが会社に帰ってくる前に、そこを後にした。 |
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