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2004年02月12日(木)  結婚式と悲鳴とカフェ
某日。

インターホンがピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン。うるさい!酔っ払いが帰ってきた!と寝ぼけた頭で思う。なにも酔っ払いが帰ってくる予定もないけど、狂気的になるインターホンが酔っ払いを連想させる。ものすっごく不機嫌な顔でドアを思い切り開けると、「おはよう」と大の男ふたりがどやどや入ってくる。「寝てると思ったよー」と兄の声。「うわ、すごい寝癖」と兄の隣の家に住む兄の友人。なになに?だれだれ?と寝ぼけ眼で思うと、そうだ!思い出した!あ、あ、あ!まずい!寝坊!
きゃああああ、と狭い部屋に大人3人が詰めこまったところで、今日最初の悲鳴。時計を見ると昼の12時に5分前。ああ、失敗した。10時に起きるはずだったのに。「早く迎えに来て正解だったなぁ」と、兄と友人は自由な場所に座り込んでタバコを吸い缶コーヒーを飲み始める。30歳の男が二人。私の部屋でくつろぎ始める。
あ!ああ!ああ、どいて!という言葉しか出ない。やばいやばい。間に合わない。
今日は兄と私の友人の結婚パーティーなのです。先負の日なのに友人が集まって結婚パーティー。先負って午前は凶だけど午後は吉、なんだって。先勝はその逆。勉強になりました。
兄をどかしながら友人の前を跨ぎながら、顔!顔洗わなきゃ!髪!もう髪はいいや!着替え!歯磨き!トイレ!準備!化粧!化粧が先!「おまえはなんで目覚ましかけとかないの?」「ホント、早く迎えに来てよかったよ」などと小言を言われながらドアにぶつかりながら人の足に躓きながら、は、はやくぅー。
「お祝儀、用意した?」の声で思い出す。あ、ああ!朝起きてコンビニに買いに行くつもりだったんだ!あ、あ、そこでストッキングも買おうと思ったんだ。黒のストッキング!あー、ない。お祝儀袋がない!新札もない!ぐちゃぐちゃのお札でもいいかな?「はいはい、そういうことだと思ったよ」友人にあまった祝儀袋をもらって兄にお札を交換してもらう。いぇーい。もつべきは友人と兄です。おんぶに抱っこなんだけどね。ストッキングはどこかで買うことにしてとにかく素足で出かけるしかない。こっち見ないでよ!と着替えもそこそこにバッグに財布、携帯、お祝儀、あと、あと何持ってかなきゃいけないんだっけ!?
ああ、もういいや、靴!靴!ヒール!なんだか急いでいると人って単語しか出てこないのね。「ヒール!」の一言で友人が靴を玄関に揃え、「財布!」の一言で兄が床に転がっていた財布を渡してくれた。で、玄関で転びながら靴を履いてると「ワキ!」と叫んだ、私。「ワキ?!」んー、これはワキの処理したかなのチェックの言葉なんだけど、そうそう昨夜ちゃんとしたのを思い出して、ほっと一息。「なんでもない」

は、は、はやく!エレベーターに乗りながら車に乗りながら、ワンピースのヒモを結んでジャケット着てコート着て、でもなんだか忘れてる気がする。るるるるー、なんだっけ、なんだっけかなぁ。思い出せず3人で美容院へ。予約の時間より15分遅刻。すみ、すみ、すみません。息も絶え絶えにしてると、美容院のお兄さんお姉さんがわあっと駆け寄ってきて椅子に座らされると、あっというまにボサボサのままの髪の毛をクルクルにしてくれて、適当だったメイクも直してくれた。ほっ。友人が一言。「女の子って、手をかければ変わるもんなんだねぇ」、すごく失礼な言葉なんですけど。わぁー、きれーになった、よっしゃよっしゃ。なんかくるくるしたの久しぶりだなぁ。と言うと、兄が「頭はいつもクルクルなんだけどね。ぐふ」と笑った。

間に合うの?間に合うの?自分が寝坊したくせに早く早くと運転を急かせる。途中でコンビニで神田うのCMのストッキングを買って車の中ではきはじめる。「おい、やめてよー」というブーイングで、足の途中までしかストッキングが上げられないので、到着したらトイレに駆け込もうと決心。車下りて走って建物に入ってトイレへ直行!直行!何度もイメージトレーニングして抜かりなし!よし!よし!いつでもかかってこい!っていうか、足の途中のストッキングがとっても惨めなんだけど。
駐車場で兄の会社にいる同僚の女性も合流して4人で会場に到着。同僚のNさんも一緒にトイレに駆け込む。「あいちゃん、キレイよー。」「あら、Nさんだっておきれいだわよー」おほほほとふたりで甲高く笑う。よくある女子トイレでの会話。ようやくストッキングを腰まであげて、これで準備万端。やっとだよ。式場の外のソファーで兄が「なんで昨日の夜のうちに準備してなかったの」とかホント小言がうるさい。じゃあ、なんですか?小学生みたいに、明日着る服を枕元にたたんで追いとけばいいのですか?あほくさー。「おまえはそれくらいしたほうがいいよ。ぐふ」最近、兄はぐふと笑って気持ちが悪い。

続々と入り口から人が集まってくるのをNさんは目をランランとさせて見つめる。「いい男、見つけるわよー。ぐふ」ここでも、ぐふが大流行のようです。で、私も一緒に目を凝らしてナイスガイを見つけようと、でも目が悪いのであーなんだよー、メガネ持ってくりゃ良かったわ。あら、なんかアノ人たち、カッコよくない?ねえNさん。と思ったところで、今日2回目の悲鳴。ぎゃあああ。今度はぎゃあが出ました。アノ人たちのなかになんか知ってる人がいる。しかもこっち見て驚いている。
わ、わわ、会社のお客さんです。お得意さんです。私は東口に会社があるけど、彼は西口に会社がある。外資でカッコよくて年不相応なポストについてる人です。わ、わわ、こっち来る。「偶然だね」彼はちょっとくだけた笑いをしながらこっちに来る。わ、わわ、近づいてくる。
偶然というか、奇遇というか、ああ、休日に一番会いたくない人。憧れはあるのだけど、何度も食事に誘ってくれるのだけど、なんかそういうお誘いに仕事以外のものが含まれているような気がして最近は断り続けてきたしな。そういえばネクタイ締めてるのなんて初めて見たかも。いつも会社はカジュアルな格好だもんね。スーツ姿、似合うなぁ。え?ていうか、これって運命?偶然は必然?やっぱりこういう引き合わせがあるのかしら?神様のイタズラ?いやあ、どうしよっかなぁ。って、Nさんも目をキラキラさせて、アノ人誰?ねね、誰だれ?ぐふ。カッコイイよねぇ。知り合いなの?むふふ。ねね、教えなさいよ!譲りなさいよ!
結婚パーティーというのは、あるいみ合コンだと誰かが言っていたのを思い出した。言えてる。
ああ、やっぱりガツガツすんのやめよう。これってただの偶然でしょう。あまり深く考えすぎないこと。

パーティーは盛り上がり、たまに西口の彼と目が合い、隣に座っていた兄に、「ね、ね、私の顔おかしくない?髪の毛、大丈夫?」と何度も聞いてみたり。「顔も変だし頭もおかしい」と、兄はくだらないし、Nさんは友人代表で、「また独身の友人が減って淋しくなりましたが、でもきっとお幸せになってくださいね」と、本音なのかどうか怪しすぎるスピーチをし、兄の友人は両親に花束贈呈のときに花嫁以上に涙ぐみ、西口の彼は新郎の学生時代のサークル仲間と、よくある、劇?パフォーマンス?花嫁が悪者に襲われていたところを新郎が助けに来て一件落着、ふたりはゴールインという茶番劇?をやり、そしてパーティーは滞りなく終わった。

そのあとは、二次会があるのだけど私はここで帰るつもり。早めに席を立ってトイレに行った。戻ってきたら、西口の彼が私に少しずつ近づいてくる。「お茶でも行きませんか」

えへへ、こうなると思ってました。目が合ってるときから、ここで会ったときから、今日も誘ってくれるのだろうなと思ってました。行きましょう。いまは仕事ではないのだから。いまだけは、いまだけは、じっくりと仕事以外のお話しをしましょう。その一歩を踏み出しても今なら怒らないから。
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