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2004年01月20日(火)  無気力
目が覚めて、ベッドからおりて、首をまわして伸びをする。肩や背中の骨がぽきぽきと鳴ったような気がする。

フライパンをコンロにかけて火をつける。フライパンの上に指を押し付けたまま待つ。
じわじわと熱が伝わってくる。最初は暖かかったがそのうち温度は上がってくる。このまま押し付け続ければ私の人差し指の皮膚はフライパンのものになってしまうだろう。私に残されたのは身がむき出しになった人差し指だけになる。

ふざけたことは止めて、腰に手を当ててフライパンを眺める。ひとつも音を立てることなく、けれどその鉄板はとても熱くなっていることだろう。それを想像しながらじっと見つめる。薄っすらと煙が立ち始める。慌てて冷蔵庫から卵を取り出す、さっきまで無音だったそれは一瞬のうちに悲鳴を上げる。白身がじゅわじゅわと泡を噴出し、ぶつぶつと音を立てる。弱火にして蓋をして手を洗うと、髪の毛をまとめて私はテレビを見た。

それはまだぶつぶつと音を立てている。蓋を開けると湯気が出口を見つけて殺到したかのように立ち上る。私はまたテレビを見た。

じゅうじゅうと煩く音をたてている。私はまた蓋をあけて、そこに水を流し込んだ。さきほどより音量の高い悲鳴が聞こえる。また蓋をしめた。お皿を用意してその前にじっと佇む。水気がなくなったら火を止めた。

火を止めて、私は何もかもが嫌になった。
人はどうして食べなければ死んでしまうのだろう。どうせ、食べても排出してしまうじゃないか。なのに、どうして人は毎回毎回食べものを口にするのだろう。じゅんじゅんとそれは音を弱めていく。左手に持っていたお皿が不自然に中空を彷徨っている。右手に持ったフライパンの蓋がしめるべきかあけるべきか、迷っている。
その状態で、私は何が嫌になったのか、何に絶望しているのか少し考えた。食べることに無気力を感じているのか、それとも自分自身に無気力になっているのか、自分のとめどない思考に無気力になっているのか、仕事か、いなくなった恋人か、荒れてしまった家族か。

両手に持っていたものを流しに置くと、私は心の中でバカみたいと呟いた。
ゴトンと蓋が重力を求めてステンレスの流し台にぶつかる音がした。
今度は、口の中で誰にも聞こえないようにバカみたいと言ってみた。
なんにも音のしなくなったそれは、呆けたみたいに水分を帯びている。
今度は、明るさを求めて窓のほうを振り返ってみた。
バカみたい、声を大きくしてそう言ってみた。


食べずとも何も変わらないでしょう?
あなたが困ることも傷つくことも悲しくなることもないでしょう?
なんだか、すべてのことにイライラするし、
なんだか、すべてのことに無気力になるの。
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