県庁通りの裏筋に「スーリー・ラ・セーヌ」というケーキ屋さんがある。
普通のケーキ屋さんとはちょっと違うというか、信念があるのだ。そんなによく買うわけではないが、いわゆるこってり系で濃厚な味は、フランス菓子の直道といえるだろう。小ぶりだが、高価である。 ここの師匠は東京「イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ」の弓田亨氏である。
ケーキ作りに凝っていた時、弓田氏の本を購入してまねごとをしていた。なぜ、氏のケーキ作りにはまったのか。まず、フランス菓子にかける信念というものに共感をおぼえたこと、それとなによりも、材料を1グラム単位で正確に計ることに惹かれた。そのため、デジタル計りまで購入したのである。よく考えれば、1グラムなんか、容器の淵に付いてわからなくなるのだが。 「慣れると目分量で済ませがちですが、それでは味が変わる。愚直に手順を踏むことがおいしいお菓子の近道です」「卵黄が約50グラムではなく、なぜ53グラムなのか。3グラムの違いに込めた思いを分かってほしい」 と。
弓田氏の「ケーキ作り」は、NHKの『男の食採』でも連載された。いまでは、教室の受講生は全国から1000人を越えるまでになったようだ。こうして岡山でも、弓田氏の味が堪能できるわけである。 当然、材料のグレードにも指定が多い。まあ、フランス産とか言われても岡山では購入できないのだから仕方がないが、それでもできるだけ近い物をと、あちこち探し回ったものである。
弓田亨エッセイ 裸の王様の戯言「生命からの搾取」として本が発刊されている。まだ購入はしていないが、今の日本の食に対する間違いを痛烈に叩いている。一読の価値がありそうだ。 ベルギーのビールについてこうある。『未だ一歳にもなっていない幼児に、勿論、グラスに5分の1ほどの少ない量であるが、ビールを飲ませているのである。そしてその子は実に嬉しそうに、おいしそうにそのビールをなめるように飲んでいる。 私も驚いた。こんな小さな子にアルコール性の飲み物を与えるとは。でもその子のおじいさんはこう言ったのだ。「私達が代々に渡って造り続けてきたこのビールには、私達の家族の歴史の全てが含まれている。代々続いたビール造りの考え方、そして家族の愛、様々のものがこのビールの中にある。この全てを、私達は、この子が物心つかぬうちから、この子の身体と心に教えなければならない。」私はこの言葉を聞いた時に、私の全存在が震えたのを忘れることはできない。これは正しく食べ物と人間との関わりの本質を示した言葉なのだ。私はこの言葉によって、人間と食べ物がどれほど大きな関わりを持ち、そして人と人とを結びつけるかを知った。』
以前から食べ物、特に食材には関心があったが、こうしたエッセイを読むにつけ、人と食の大切さをあらためて感じる。 今晩もうれしいことに粗食だった・・・。
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