2004年12月24日(金)
甘い甘い多層構造


 昨日の観劇ですごいスッキリした、もう観るべきものは見たと言ったときかおりちゃんに
「つうか大真くんの髪の毛がまともだったからスッキリしたんだろ?」と言われました。ああー(納得)。
 ようやく頭頂部が伸び、いや頭頂部を押さえ込む術を身につけた模様。あれなら大丈夫(笑)。でも絶対中日メレルカでまた切り刻んでしまう方に5000プリンアラモード(切り刻むって)。


[天文部:「これで君も楊国忠になれる」フローチャート]

 昨日の最高に寄りきりテキストに続きます。

 何度かウザいくらいに楊国忠テキストを提出してきましたが、結果として開幕当初に感じた基本的な線はそれほど変わりませんでした。楊国忠−陳玄礼ラインが少し弱まったぐらいで。まあ、どうしても最初に感じた基本ラインを埋めるために妄想していたにすぎないのかもしれませんが、これもひとつの見方という事で。

 一番の疑問というか、なかなかおちてこなかったのが宴のシーンなんですが、ここでの含み笑いはちゃらさんの言っている通り「安禄山を節度使として中央から追いやろうと思いついた」なんだと思います(人のまわしで相撲をとってますよこのひと)。楊国忠−陳玄礼ラインを主張する私としては、この場面で陳玄礼さんと目配せするぐらいの芸当を期待していたのですが、そこはやはり私の深読みだったようです(笑)。
 で、もうひとつ納得できなかったのが、ここで楊貴妃の身内である(しかもそれゆえに今の地位を手に入れた)楊国忠が、梅妃にちくちくやられているのを見て何も反応していなかったところなんですが、これは単純に貴妃の存在を切り離して考えていたからではないかと。もしかしたら「ああ!うちの楊貴妃ちゃんがいじめられている!」と内心ハラハラしていたのかもしれませんが、敢えてそれを見せない。何故ならそこは宮廷だから、男たちの政治の場だから。「女」を持ち出す場ではないと思っているのではないかと。監察御史に取り立てられる前の楊鉦は非常に常識的で真っ当な男だったのではないかと。だから貴妃付きで取り立てられても、貴妃の兄という立場を利用する事もなく、ただ皇帝に忠誠を誓い(楽に近づくほどキラキラと犬のような目で皇帝を見ておりました)、己の立場で職務を全うしようとする。
 そんな楊国忠がこの宴の後の一連の出来事で、二つの事に『気付く』のだと思っています。
 一つは前にも言った「格上の皇甫惟明でも、自分が昇っていけば陥れることができる(皇甫惟明の上に立つことができる)」事、そして「その為に貴妃を利用できる」ということ。前はこの二つは一緒に表現していたのですが、敢えて二つにわけたいと思います。
 陳玄礼に「貴妃様の兄上なのですから」と言われても「でも」とためらう楊国忠。この時点ではまた「貴妃を利用する」所まで思い至らない。けれどもその後の、安禄山VS皇甫惟明の押し問答で2人の危険性に気付く。更にその後、「お妃様に会うのを楽しみにしていた」「お妃様は母親同然です」と言う2人、そしてそれに機嫌をよくする玄宗。それを見て楊国忠は「貴妃を利用する」、それまでは自分がタブーとしていた「女を政治に利用する」事を知るんじゃないだろうかと。皇甫惟明の楊貴妃賛辞は無骨者故の素直な心からかもしれない、安禄山の楊貴妃賛辞はあきらかに媚びへつらい。宴の席での女の争いを何の気にも止めていなかった楊国忠ゆえに、そこではじめて「女を利用する」事に『気付く』のではないかと。そして皇帝への忠誠と国を守る為にそのタブーを侵そうとするのではないかと。
 そしてもうひとつの「自分が上へ昇ることができる(ひいては権力を手に入れることができる)」事への『気付き』。ここで改めて楊国忠の身分を整理すると、安禄山よりは上(陳玄礼は「安禄山将軍」呼びなのに、楊国忠は呼び捨てだった)、皇甫惟明よりは下。それゆえに皇甫惟明の危険性を感じつつも、それを排除することを(ましてや貴妃の兄の立場を利用して)ためらう楊国忠。けれども皇甫惟明の激しさを見て危険な男と知った楊国忠は自ら行動にでる。(東宝来てから真飛さんの演技が強く出るようになったので、国忠が排除に動こうとするのがわかりやすくなったと思います)
 この二つの『気付き』、最初は陳玄礼に言われたが故、と思っていたのですが、実際は楊国忠自身が自分の目で見て判断し、その結論に至ったのではないかと思っています。
 楊貴妃と一緒にいた皇甫惟明に強く出る楊国忠を、最初は「うわ、陳玄礼に言われたからってすぐにその態度っすか!わかりやすいひとですな!」と半笑いだったのですが、単純に陳玄礼に煽られたというより、あえてわかりやすく皇甫惟明に対して強く出たのではないかと。危険と判断するやいなや、即手を打った。敢えてああやって芝居がかって出ることで、皇甫惟明への牽制どころかすでに死を示唆してたとすら思え(考えすぎ)。新公で観たゆかりくんの国忠がこれとはまったく反対の作り方だったので(じんわりと陰湿に策を弄しているような国忠でした)、逆にここの立樹国忠の芝居が「敢えて」という風に思えてきたのです。二つの『気付き』を得た楊国忠は一気に権力の階段を昇る。ここの楊国忠の敢えて出る強さ、皇甫惟明を敵とみなしてからの行動の早さ、そしてその奥にある思惑。この次の場面にイキナリ宰相になっていても「ああ、確かにそれぐらいのイキオイがあったよ!」と思わせるような(多分に思い入れが強くなっております)。
 余談ながら真飛皇甫惟明は、その国忠の牽制に既に己の死を悟ったのではないかと思っています。ちなみに博多版の涼皇甫惟明は悟ってはいません。これをつきつめると俺的花舞う長安ができあがるのですが、それはとりあえずこの辺に置いておきます。

 博多→ムラ→東宝で一番わかりやすく変わったのが、三姉妹と踊り戯れるところなんですが、ここもまた三姉妹を、「女を利用している」楊国忠の場面なんじゃないかと思っています。栄光を手にして喜ぶ三姉妹を完全に見下していた。ただ調子を合わせているだけだった。そしてそこに続いて楊貴妃に「皇甫惟明の死」を告げに行く。ここは楊貴妃が「利用された」と気付く場面なんだと思います。私、割と上手からの観劇が多かったので、ここはしぃちゃんの顔が見えない事が多かったのですが、それゆえに楊国忠を見る楊貴妃の顔がすごく印象的でした。皇甫惟明の死を告げられて、信じられないと楊国忠を見て、「皇甫惟明を死に追いやったのは目の前にいる楊国忠なのでは?」とはっとする楊貴妃、そして高力士に「みざるいわざわるはなさざる」と言われて、もう一度すがるように(血縁者である)楊国忠を見るのですが、そこではっきりと絶望する楊貴妃。やはり自分は人形にすぎないのだ、この男(楊国忠)も私を人形として操っていたに過ぎないのだと。それを肯定するかのように、いやもはや貴妃のことなど目にも止めないよううに、すっとその場を辞していく楊国忠。

 それでは楊国忠と皇帝の関係はどうであったのか?なんですが、やはりその後、皇帝の側に楊国忠がいなかったことが(それが脚本的に意図したことではないとわかっていても)私にはキーワードです。忠誠を失った、皇帝を見下している、とまではいかないと思うのですが。この時点で皇帝は皇帝ではなく一人の人間になってしまっていたわけですから(昨日のテキスト参照)、楊国忠から見れば仰ぎ見る対象ではなくなっていた、いやむしろ自分もまた皇帝に近い地位まで昇りつめていたのだから。
 ただ、楊国忠が権力を欲しい侭にした悪吏かというと、そうではないと思うのです。これはしぃちゃんの特性からかもしれないのですが、立樹楊国忠からは悪の匂いがしないんです。皇帝が皇帝ではなくなった、ならば誰が政務をとるのだ?私しかいないではないか。忠誠心でも義務でもなく、ただ必然として国を動かす権力を手にしていた男、楊国忠……これはすごく面白い役造りの方向だと思いました。
 で、思い出したのがバッカス新公でやっていたしぃちゃんのマザランなんです。あれも権力を手にした色悪的な役だったのですが、当時のしぃちゃんにはそういう腹芸ができていなくて、本役さん(コウちゃん)とは全く異なるマザランになっていました。策を弄しても、己の私利私欲の為だったとしても、それを正道、王道と思わせる押しの強さ、まさに太陽の子エステバン(違)。当時(と言っても今年の頭にスカステで撮っていたのを見た当時なのですが)はそれを歯がゆく思っていたのですが、今にしてあれは立樹遥さんならではの、唯一無二のものだったのだと思います。

 というわけで、最後の戦闘シーンの「国忠!」「陛下!」は、皇帝への忠誠を忘れていた(失っていた訳ではない)楊国忠が、その名をもらった時の楊鉦にぐるっともどった瞬間という自説はそのまま残します。
 そうだ、私がここまで昇りつめたのは、あの日国忠の名を私に下さった、皇帝の為に他ならなかった、私は権力の為に滅びるのではない、私は忠誠の為に滅びるのだ。それが必然。楊国忠の三つ目の、そして最後の『気付き』……むっさん、SSするなら(以下略)。


 ようやく最後までたどり着きました。本当に長くて妄想まみれですみません。とりあえずこれにて今期の天文部活動は終了です。いや、(俺的には)楽しかった。本当に今回のお芝居が楽しめたのはまずはしぃちゃんの存在が大きいです。博多から思いを馳せるとよくぞここまで「魅せて」くれたなぁと思います。
 でも一番楽しかったのは、同じものを見ていても違った解釈が出てくることですな(しかもそれはそれですごい納得できる)。そしてまた自分の解釈が深まると言うか。いや、本当はそんな解釈なんかしなくって見たものを見たまま楽しめば、受け止めればいいんです(半笑)。でもその解釈がたまらなく楽しいんですよ、私たち(なー)(勝手に同意を求める)(まあ飲めや)。




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