「静かな大地」を遠く離れて
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2002年05月29日(水) うさぎ降臨

先週末は奈良に居た。日曜日に奈良盆地の南東にある神奈備の山の麓で
小さな集まりを設けたのだが、初夏の日射しが強くて少し暑いくらいの
天気になった。でも森に囲まれた境内には、涼しい風がそよいでいる、
もしかしたら一年の中でも最も美しい、きらきらとした新緑の季節だ。

この日を選んだのは、ものの都合というか行きがかりのようなもので、
日付そのものに何か意味があったわけではない。例によってバタバタと
準備する時間もないままに突入して勢いで駆け抜けた。困ったものだ。

前日に梨木香歩さんの『丹生都比売』(原生林)を読みながら移動して、
神話的世界と現世とのリンクの回路を、やや開き気味にしておいたので
一応ながら神道的な儀式にも気持ちよく身心を移入させることができた。
ま、後付で「計算通り!」と嘯くのは口癖のようなものだけれど(笑)

帰京するのは翌日にして、その夜は京都に泊まった。日中の好天の続き
でよく晴れた低い空に大きな月。どちらかと言えば禍々しい、現実離れ
したような大きな月に出くわして、よく驚かされるけれど、その夜の月
は一段と怖いような気がした。宿に戻って窓の外を見る。と、月が無い。

F1モナコ・グランプリを熱心にTV観戦している間に、雲はますます
空を覆って、絶え間なく激しい稲妻が走る。あれだけ長い間光り続ける
雷には、これまでの生涯でも出会ったことがない。やがて、雨も激しく
なる。つい数時間前に賀茂川の側で鴨料理を食べていたのが嘘のようだ。

流石にぐったりと疲れて寝入った翌朝、目覚めると既に空は晴れていた。
雨だったら、ゆっくり朝寝の贅沢を楽しんで帰京しようかとも思ったが、
この天気では逃げる(?)わけにはいかない。先日の吉野訪問に続いて
長年の宿題になっていた、洛北・鞍馬寺と貴船神社を訪ねることにした。

行楽客も少ない平日、聖域の森が吐く神気溢れる空気に身を浸しながら、
思う存分に歩く。京都の街から、ほんの少し離れただけなのに俗界とは
遠く離れて古代の神話の世界に入ったようだ…と気分よく鞍馬寺の本院
に来て、前夜5月26日が「ウエサク祭」という祭りだったことを知る。

なんでもそれは月の祭りで、その日は一年中で最も月のパワーが強い日
だというのだ。ヒマラヤのほうに、よく似た秘祭が在るらしい。
(引用)
■五月満月祭(うえさくさい)
 鞍馬山山頂は、16歳の美少年の姿をしたサナートクマラという金星
 の王が地球の霊的な王となって降臨した場所とされる。この山にある
 鞍馬弘教の本山、鞍馬寺は、もともとは天台宗の寺で、770年に
 鑑真の弟子鑑禎によって創建された。毎年5月の満月の夜、ここで
 ウエサク祭という秘祭がとりおこなわれる。その日は1年で最も月の
 エネルギーが強い日とされ、それを授かるために水の杯に満月を写し
 て飲む儀礼などもおこなわれる。祭りは夜から明け方まで続く。
(須田郡司『VOICE OF STONE 聖なる石に出会う旅』新紀元社より)

…うーむ、無意識のうちに、なんという日を選んでしまったのだろう(^^;
「計算通り!」と嘯くことも忘れて、鞍馬の山中で絶句してしまった。
あの雷は、月のウサギの高笑いだったに違いない、そういう結論を出す。
満月と雷の夜、何かの結界が破れて、計算不能の異世界が開けたようだ。


題:334話 馬を放つ4
画:ススキ
話:近頃、このチコロトイのアイヌは飢えを忘れている

題:335話 馬を放つ5
画:ミズヒキ
話:あ、星が流れた

題:336話 馬を放つ6
画:コスモス
話:政治を理由に経済が動こうとしている

題:337話 馬を放つ7
画:ホタルブクロ
話:おまえとエカリアンはそれぞれみずからの意思で相手を選んだ

題:338話 馬を放つ8
画:ユリ
話:松浦殿が百人でかかっても止められるものではないのだ

題:339話 馬を放つ9
画:ボケ
話:すべてを私は自分で決めてきたと信じております

題:340話 馬を放つ10
画:ドクダミ
話:マッコイワク、妻恋星

題:341話 馬を放つ11
画:アジサイ
話:いや、愚かでなく、半端に賢いのだ

題:342話 馬を放つ12
画:ハルジオン
話:兎が好奇心に駆られて自ら罠に首を突っ込む


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