「静かな大地」を遠く離れて
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2002年03月25日(月) 視覚の彼方

彼岸過ぎ、また沢山の時間の層を折り重ねたような週末を過ごした。

先週、神楽坂で飲んだり、明治座で芝居を観て幕間に桜餅、そのあと
水天宮にお参りという江戸情緒路線に走った余勢を駆って、今週も桜を
求めて池上本門寺へ出かけたり。去年はじめて桜の時期に仕事で訪れて
日蓮宗の総本山が見事な桜の名所だと知って、どうしても行きたかった
のだ。門前の店で葛餅を食べるのも、大事な目的だったのだけれど…。

先週末の明治座からの流れで言えば、60歳代の女性の友人でも作ると
趣味が合って楽しいかもしれないと、あながち冗談でもなく思う(笑)

土曜日は縁あって知己を得させていただいた門坂流さんのアトリエ訪問。
きっと多くの人が本の装丁などで目にしたことはあるにもかかわらず、
その作品世界を知っている人は少ないのではないか、と思える異能の人。
昔、池澤御大が「微粒子の流れのほとりにて」という名文を寄せた画集、
『門坂流作品集 風力の学派』(ぎょうせい)は、1988年の刊行だ。

他に文章を寄せていたのが荒俣宏御大に伊藤俊治氏と来ては、当時の僕
のアンテナに引っかからないわけがない。しかもあとになって考えると、
それぞれ荒俣氏は『帝都物語』、伊藤氏は『ジオラマ論』、そして御大
は『スティルライフ』と、世に揺るぎない地位を得るきっかけとなった
仕事をしたあとの時期。どれも現在の僕の「眼」を作ってくれた本だ。
まるで三人とも、はしゃぐ言葉を押さえかねているように、門坂さんの
作品を論じているのが、何だか微笑ましい。その気持ちはよくわかる。

もちろん、この並びの中だって「眼」ということで言えば圧倒的な力を
持つのは門坂流その人である。地図の等高線のように互いに交わらない
細密な曲線で、輪郭を描くことなく形象を立ち上がらせてしまう独特の
手法。水の流れや樹木など、好んで描かれるのは人間のいない風景だ。

何にも似ていないようで、何かに似ている。そう思って最近その答えを
思いついた。たとえば火星探査機バイキングやマーズパスファインダー
が送信してきた火星の地表の写真を初めて見た時の感覚。人間の目には
晒されるはずのなかった風景が眼前に在ること。静かに覚醒した興奮。

名前も音も色も形も生まれる前、世界には流れだけがあった…、なんて
言ってみたくなるような作品群は、見ることの至福を謳っているようだ。
以前、花巻で北上川のイギリス海岸を訪れたとき、風景をみる目が既に
門坂流に「教育」されているのを自覚して可笑しかったのを覚えている。
渦巻く川面を見ても、雪原に佇む樹を見ても、どうにも門坂流なのだ(^^;

そんな門坂さんの作品を印刷ではなく原画で見る機会をいただけたのだ。
木立に囲まれた静かなアトリエの佇まいに魅了される。ずっとバロック
音楽が流れる中、版画やペン画の数々を拝見しながら一言も発すること
が出来ないまま、いつのまにか、春分を過ぎたばかりの日が落ちていた。
ゴールトベルク変奏曲がかかったときは、精緻な線を刻み続けるための
静謐なアトリエにちょっとハマり過ぎかな、と思いつつ浸らせてもらう。

フェルメールに魅せられ絵の道に進もうと決意したという少年の日以来、
見ることの孤独と至福を突き詰めてきた、門坂流の世界を知るべし(^^)
http://www.pci.co.jp/~moriwaki/ryu/

あ、アトリエ訪問の話だけでこんなにかかっちゃった(^^;
うーむ、日曜日に世田谷パブリックシアターで観た三谷幸喜氏の新作、
「You are the top」も最高だったんだけど、詳しく触れる時間なし(;_:)
ただ、やっぱり戸田恵子さんってスゴイ役者さんだなー、最高だなー♪


題:276話 砂金堀り6
画:トマト
話:砂粒を水で踊らせて、少しずつ砂を水に流す

題:277話 砂金堀り7
画:ボウフウ
話:北海道のヤマには砂金が落ちているが、その一方、熊もいる

題:278話 砂金堀り8
画:エシャロット
話:あんなやりかたで均せば日に一匁というところだったかな

題:279話 砂金堀り9
画:インゲン
話:ありそうな場所に本当にあるかないかは汗を流して掘ってみるしかない


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