「静かな大地」を遠く離れて
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2002年03月05日(火) サステイナブルな北海道

題:259話 栄える遠別19
画:桜貝
話:その時に、おまえは北海道共和国のことを考えているのか

馬鈴薯の地、北海道の独立論。さまざまな思惑と経緯の中で、そういう近代史を
われわれが見ることはなかった。何も行政的に独立国家となる、ということだけ
に留まらず、もっと“資源収奪型”ではない形での静かな大地とのつきあい方が
あり得たのではないのかという嘆きは、歴史上の多くの人々の声なき声だろう。

近代の産業国家とは多かれ少なかれ「利権構造の集積体」みたいなものである。
それをもっとスマートにやる術はなかったか?いわば“サステイナブルな近代”
とでも呼べるものはあり得たのか、否か?ま、“近代”と言った時点で圧倒的な
非対称を表象している。そこに“サステイナブル”をつけるのも、悪い冗談か。

ものごとの道理をつまびらかにしながら、世の中をうまく取り運んでいく智恵。
三郎が少年時代に得た野心、即ち技術を以て静かな大地を豊饒の地に変える志。

榎本卿→北海道共和国という流れは、『武揚伝』なくしては無前提に語ることの
できない「史観」で、榎本武揚を“過激な共和主義者”として描く、というのは
佐々木譲さんの強い主張を伴う「選択」である。これを正史へのマイナーな脚注
に終わらせてはイケナイ。われわれにとって近代とは何であったかを問う争点だ。

単なる反発や反動ではない、強靱な思考に裏打ちされた物語を立ち上げるには、
場所=地霊の力も必要だ。道東に仕事場を構えていらっしゃることが佐々木さん
の創作にどのような力を及ぼしているのか、具体的には知る由もないが、サイト
で書かれている日記では、狂牛病についても牛乳についても冬季五輪についても、
選出選挙区の代議士である渦中のS氏についても、当地在住ならではの視点から
コメントされていて興味深く、日々そうした空気を“産直”してもらえて心強い。
新書で予定されているという、馬を飼う北海道ライフの本、とても楽しみです♪
■HP佐々木譲資料館 http://www.d1.dion.ne.jp/~daddy_jo/

言わずもがなもいいところだが、御大にしてもオキナワに移住されたからこそ、
その余勢を駆って北海道というライフワークに手をつけることにされたのだろう。
「周縁」に住むことは、情報としてではなく、あからさまに事実に触れることだ。
“キレイ事”を並べて良し、と出来なくなる替わりに、背中を押してくれもする。

物理的に日本地図の「周縁」に住むことばかりではない。世間の「周縁」を知り、
そこから手ざわりのある物語を立ち上げる語り部もいる。半村良氏がそうだった。

つい先日、立春の日にもここで触れた『妖星伝』は、僕が今までで最も夢中で読み
耽った本。あれだけラディカルな「生命論」に踏み込んだ本は、そうないだろう。
生と死を見定めながら「嘘」を紡ぎつづけた語り部に深い哀悼と敬意を捧げたい。


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