「静かな大地」を遠く離れて
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2002年01月17日(木) 函館幻視行

題:213話 函館から来た娘3
画:ホイッスル
話:だからわたしはお父さんと添ってからは三味線を弾かなかった

函館という街は、北海道の歴史そのもののような存在だ。
はるか昔に青函連絡船も北洋漁業も絶えて、もう過去に寄り添うしかない
街が放ちはじめる匂いがある。それが特異な地形とも相俟って味わい深い。
アメリカの街にたとえるなら、やはり歴史のある港湾都市ボストンだろう。

北海道に住んでいるあいだに何度も訪れた街。人に会いに行ったこともある、
星野道夫展を見に出かけたこともあるし、一寸変わったところではサハリン
への飛行機が函館空港からユジノサハリンスクへ飛ぶため経由したことも。
基本的に港町はどこでも好きで、海が見えると安心するし、良港が必然的に
背後に持つ坂がちの街を歩くのも大好きだ。自分が住んだり、近くに住んだ
経験のある街だけ考えても、尾道、横浜、小樽、室蘭などどこも忘れがたい。
水辺の街は、季節や時間帯によって変幻自在のさまざまな貌を見せてくれる。

函館…というか“箱館”の最初の成り立ちを知るなら断然、司馬遼太郎の
『菜の花の沖』(文春文庫)を読むのがよい。主人公の有名な高田屋嘉兵衛
は「静かな大地」の宗像家と同じ、淡路島に生まれ、兵庫で商機をつかんで
現在の「北方領土」を舞台にした蝦夷地交易と日露外交に足跡を残した人。

最近では青春時代を函館で過ごした辻仁成氏が、結構作品に登場させている。
稲垣吾郎氏主演でテレ朝がドラマ化したことのある江川達也『東京大学物語』
も何故か函館が舞台だったりした。そしてもちろん、佐々木譲さん『武揚伝』
が箱館戦争を描いた巨編。あと最近でた↓この本も気になっている。
■宇江佐真里『おぅねすてぃ 明治浪漫』(祥伝社)
(惹句より引用)
 文明開化に沸く明治五年(一八七二)。突然の出会いが若い男女の運
 命を揺るがした−−−英語通事を目標に函館の商社で働く雨竜千吉。
 横浜で米国人の妻となっていたお順。幼なじみで、互いに淡い恋心を
 通わせていた二人が、しまいこんでいた気持ちを開くのに、時間は
 いらなかった。千吉が上京のたび逢瀬を重ねる二人。しかし密会は
 あえなく露見した。やがて、お順は激昂する夫に対して離婚を懇願
 する。夫の答えは、離婚後、一年間は決して男性と交際しないよう
 監視を付けることだった。それとは知らぬ千吉は、お順の離婚の噂を
 聞くや…。新しい時代の潮流の中で、さまざまな葛藤に苛まれながら
 も真実の愛を貫こうとする、激しくも一途な男女を描く、著者初めて
 の明治ロマン!
(引用おわり)

だそうです。往年のメロドラマの枠組みで何をどうエンターテインしてくれる
のか、作者自身も函館出身であること、参考文献なんかを見たところ、箱館の
英学の事情やエドウィン・ダンのことなんかも盛り込まれていそうなこと、
マイ・ブームの横浜を扱った小説であること、などなど惹かれる要素は多い。
これと、これもマイ・ブームのメチエの↓この本を併せ読むとおもしろそう♪

■斉藤兆史『英語襲来と日本人 えげれす語事始』(講談社選書メチエ)

以前にも“英国という本丸”という言い方をしたとおり、アイルランドだの
アメリカだのオランダだの、いろいろ観光旅行に出かけたり本を読んだりして
眼力をつけて、最終的に対峙すべきはメデューサ的な<近代>の卸問屋にして
“19世紀の魔物”たる大英帝国と日本との関係だろう。これは究極のお題。

そこに打ち込む楔としての日仏関係、というのも面白いのだけれど、はてさて、
昨夜に引き続きこのへんで挫折、筆硯を新たにしてまた書きます(^^;

#西東始先生のサイトの講義メモ、いっぱい更新されてて興味深いですねー、
 http://www.obihiro.ac.jp/~engliths/index.html
 っていうか、この半年、帯広の西東さんとコラボレーションしてきた気分。
 ハーンに日本行きのきっかけを与えたジャパノロジストにして天文学者の
 パーシヴァル・ローエルなんかも面白いですよ、北海道カブらないですけど。


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