「静かな大地」を遠く離れて
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2001年06月24日(日) F1と移民と「維新負け組」合衆国

題:13話 煙の匂い13
画:アサリ
話:「行くか行かぬか、むずかしいところだ」

今日は、F1ルクセンブルクGP決勝の日。
他のモータースポーツは知らないけどF1だけは特別。
とりわけルクセンブルクGPは、98年に現地で観戦したせいもあり
見逃せないのです。ルクセンブルグという小国の名を冠しているが
それは同一国で二回GPが開催できない事情によるもので実際は
北ドイツのニュルブルクリンクというサーキットで開催されている。

オランダ、ベルギー、ルクセンブルクのベネルクス三国に地理的にも
近い場所で、EUの拠点マーストリヒト(<条約の)にも近い。
それともう一つ、僕がわざわざここでF1GPを見たいと思ったのは
宿泊地となる最寄りの街が、古都アーヘンだったからだ。
アーヘンは世界史選択者ならご存じ、フランク王国のカール大帝の都。
言ってみれば汎欧州の核となるのが、この地域。
古い石の聖堂が街の中心部に残っている。
西暦800年とか、そのころだから、ほとんどアルカイックというか
ゲルマンの深い森の海に浮かぶような都だったのではないかと想像する。

今年はミハエルとラルフのシューマッハ兄弟フロントロー対決という展開、
母国ドイツGPのホッケンハイムより自宅が近いのでホームグランプリだ。
98年に訪れたときのドイツ人たちの真っ赤な盛り上がりを想起する。
今回は弟も出てきたからきっと、あれ以上の大騒ぎだろう。
流線型のマシンもさることながら、F1の魅力はドライバーやチームが
欧州の国の順列組み合わせの妙で、実に面白い綾を成すところである。
その中でキャラが立つドライバーが出てくると、たまらないものがある。
まぁ最近はサッカーも、そういう感覚で報じられるようになったけれど。

現役で贔屓ドライバーは、絵になる男ジャン・アレジ。
あとはブラジルのホープ・ルーベンス・バリチェロとエディ・アーバイン。
フェラーリからジャガーへ移籍したアーバインは、アイリッシュだ。
99年から2000年の年越しをダブリンで迎えたくらいのアイルランド
贔屓の僕だから、フェラーリでチャンピオンシップ寸前まで行った彼の
応援には熱が入ったものだ。

アイルランド。近代において新大陸アメリカへの移民を輩出した国。
JFKを含む、多くのアメリカの著名人がアイルランド系出身だ。
ニューヨークにはアイリッシュの影が濃い。
変わったところから例を引けば、J・フィニィ『ふり出しに戻る』と
続編『フロム・タイム・トゥ・タイム』(角川文庫)という時間テーマ
SF(?)作品などに、その雰囲気が伺える。

アイルランド本国は、大英帝国の支配化で苦難の歴史を歩んできた。
僕はこのアイルランドという国と北海道をなぞらえて考えるという
物騒な思考ゲームをよく楽しんでいた。
どこまでも牧場が続く緑の国、北の海に浮かぶ島嶼国家、ケルト民族がいて
アイヌ民族がいる、ジャガイモと馬の産地・・・。
実際訪れた際の印象も「わぁ、北海道だ・・・」という感じだった。
しかしメキシコ湾流恐るべし、地図上では途方もなく寒そうに見える国だが
北海道に慣れた僕から見れば年末年始のアイルランドはずいぶん暖かかった。

さて、きょうの『静かな大地』のテーマは、社会変動と移民。
大陸へ、南洋へ、南北米大陸へ、近代の日本人は実に多方面へ移民している。
中には「棄民」と評されるような過酷な運命を辿った移民団も多かった。
そうした歴史を描いたノンフィクションも数多く出版されている。
日本民族(<わざとこういう表現を使うが)の繁殖力は旺盛で、
20世紀初期に米国の排外移民法などの動きがなかったとしたら西海岸には
大和民族の華が咲いただろう、と新渡戸稲造が言ったとかいう話も
読んだことがある。
新渡戸稲造と言えば札幌農学校出の米国通で、日本の植民地経営の
エキスパートとなっていく人物。なんで5000円札に肖像がのって
いるのかはわからないが、伝記はなかなかに興味深い。
日本近代の「英語」「植民地」「北海道」を語るキーパーソンだ。
※杉森久英『新渡戸稲造』(学陽書房人物文庫)が手に取りやすい

古代や中世の人の集団の移動はともかくとして、
日本の移民体験の皓歯は明治初年の北海道への集団移住ではないか。
その体験が全体として、のちの近現代の日本の人々の行動様式に
どのような影響を与えたのか、興味あるところだ。
外へ外へと拡散して行った人々が1945年以後、
雪崩を打って「故郷」へと帰ろうとする。

トルーマンが首を縦に振ればホッカイドウの留萌〜釧路ラインから
北側はスターリンに提供された、という話を聞いたことがある。
歴史的事実としてどうだったかは知らないが、あのときもしそういう
事態になっていたら、樺太の40万人に加えて北海道の北半分からも
「引き揚げ者」が押し寄せた、ということか。
裏を返せば、北海道が日本国であることそのものが「かりそめ」の
ことなのだろう。樺太と本質的に差があったわけではあるまい。

洲本の下級武士が北海道移住を迷うのも当然のことだ。
明治初年の北海道は、さながら「維新負け組」合衆国のような様相で
稲田家と似たような状況で、家中を挙げて移住したケースは数多い。
そういう諸国配置図みたいな地図を見たことがある。
先年噴火した有珠山の南麓にある海辺の町、伊達市もそのひとつ。
北海道の中では積雪も少なく温暖な土地で、作家の宮尾登美子さんも
住んでいるはず。野菜も海産物も多くて温泉も近い。

ここの伊達家は仙台の伊達政宗の直系ではなく、支藩の亘理藩で
大河ドラマ『独眼竜正宗』では三浦友和さんが演じた伊達成美の子孫。
ここの家中を挙げて移住してきた組。殿様自身が先頭に立ったという。
そのせいか、街のメインストリートが書き割りのように日光江戸村風
にデコレイトされているのは、ご愛敬(^^;
北海道の自治体ほど、町単位のアイデンティティーを打ち出しにくい
ところはないかもしれない。担当者もご苦労がたえないことだろう。

ちなみに有珠山については、先日書いた「いけざわKCB:火山」で
書いたとおり、静内を拠点としたシャクシャイン蜂起の「遠因」とも
なったという説がある。過去に山体崩壊を起こしている活発な火山だ。
噴火周期が短くデータが豊富なため、噴火の短期予知の成功例として
全国に知られている。
記憶が曖昧なのだが、「有珠」の名前はアイヌ語起源だっただろうか。
あの九州の「阿蘇」と同じで、ウスもアソも音韻変化こそしているが
なんだか火山とかなんかの意味の一般名詞ではなかったか。
メッチャいい加減な記憶で申し訳ない(^^;

というわけで(<どういうわけやねん?)この日録、サボろうと思っても
書き始めるといろんなことが浮かんできて、つい書き耽ってしまう。
明日からマジで吐きそうなくらい忙しいはずなので、しばらくメモ書き
程度の更新に留めることにします、と一応ここで申告しておこうかな。
すでにこれまでの「原論篇」だけでも、少々じゃ読み切れないくらいの
文章量があって、読んで下さる方からお叱りを受けている現状なので、
ここらでちょっとスローダウンして同伴者が増えることを願っています(^^)


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