| 2002年10月13日(日) |
人殺しを見たい人って多いと思う。 |
子供の頃、私の父は食事時に殺人事件がからむようなサスペンスドラマを 観ることを極端に嫌がった。
「こんなテレビ観ながら飯が食えるか!」
と言ってチャンネルを変えてしまう。
プロレスに対しても基本的に同じで、当時金曜日の夜、ドラえもんの後に やっていた新日本プロレスは、父が残業の日しか観ることができなかった。
「そんな野蛮で残酷なものを観るな。人間がおかしくなる。 どうせ八百長に決まってんのに。」
などと言う。金曜日、ドラえもんを観ながら「お父さんが9時までに 帰ってきませんように」と願っていたのを覚えている。
そんな家だったのだが、日曜日の午後8時からは、いつもNHKの 大河ドラマを観ていた。みんなあれをあたかも教養ある素晴らしい観るべき 番組のように思っていたし、今でも思っている人もいるかもしれない。
でも、よく考えてみると、残酷なTVは嫌いと断言する父と、それに同意 する母が、大河ドラマを観てもいいのだろうか?
サスペンスドラマで死ぬのは普通2、3人。多くても5人か6人。 大河ドラマでは毎週のように、数千、数万という兵が命を落す。
どっちが残酷なんだろう?
卍固めでギブアップを取るのが得意なアントニオ猪木と、 槍で人を串刺しにするのが得意な前田利家と、
どっちが野蛮なんだろう?
夫の愛人を殺すサスペンスドラマを酷い話というが、 実の息子にトリカブトという猛毒を盛って殺そうとした 伊達正宗の母のほうが、よほどえげつないと思うぞ。
もちろん、こういうことを考えず、大河ドラマを好んで観る人は 私の両親だけではない。それはいいのだが、しばしば大河ドラマを 好んで観る人で、「戦争は嫌いだ」と言う人がいる。 「人と人が殺しあうのなんて絶対に見たくない」とまで言う。
もし、 「野球は嫌いだ。ピッチャーがボールを投げてバッターが打つの なんて絶対に見たくない」
と主張する人がTVでナイターを毎晩のように観ていたら、 彼の自分が野球嫌いであるという発言は、真偽を疑われても仕方ない だろう。
私は、大河ドラマを観ることを楽しんで観る人は、基本的には 人と人が殺し合うことを観たい、あるいは少なくとも観ることを 避けようとはしないのだと思う。というのも、誰も大河ドラマを 強制されて観ている訳ではないのだし、観なかったからと言って 困ったことも起こらないのが普通であるのだから。
戦争は嫌いだ、というそぶりを見せながら、人と人が殺しあうのを 深層心理の奥底では観たがっている。それが戦後の日本人だと思われ。 ベトナム戦争の残酷な物語や写真集、戦争の歴史的資料、そういった ものを「平和の大切さを知るために」という名目、もっと言ってしまえば 建前をかかげながら観賞し、本音では結構残酷なシーンを本能的に歓んで いる、傍目からはそのように見える。
なんてことをTV欄を読みながら、考えていた。
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