武ニュースDiary


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2020年06月21日(日) 「南方人物周刊2017-4-24」 金城武の隠れ身の術・2

スターとは一個の経済体

ょっとして後のイメージがあまりに輝かしいものだったからか、
金城武が歌手としてデビューしたことを覚えている人は少ない。
10代のまだぼうっとした高校生は、歌を歌うということがどういうことかも、
演技とは何かということも知らなかった。
彼が芸能界に入った理由は、
欲しがっていたバイクを買う金を稼げると説得されたからである。
当時は、火鍋店でアルバイトをしていた。
鍋の食べ方を説明しても、耳を傾ける客はほとんどいなかった。
1本のCMでもらった出演料は、
そのアルバイト1か月分の給料より多かったのだ。

芸能界の生態は日々変わっている。
その後、多くのスターが自身の事務所を設立したり、
親しい監督の会社と契約したりするようになっていったが、
金城武は、デビュー時に契約した老舗の芸能事務所フーロンに、
20年間、ずっと籍を置いたままである。
彼を誘惑して芸能界に入らせた、あのバイクは、
とっくに盗まれてなくなってしまったが。

アイドル歌手は1990年代初頭にあって、芸能界の最もきらきらした存在だった。
事務所は金城武を陳昇(ボビー・チェン)に師事させ、助手として送り込み、
発声の基礎から始めて、楽器演奏や作曲を学ばせた。
「ぼくは、見かけを売り物にするアイドル歌手にはなりたくない。
シンガー・ソングライターになりたい」
彼は当時、取材に対し、こう語っている。

ずっと後、彼がいつも監督たちに言っていたこと――
自分はただの俳優というより、フィルム・メーカー、映画人だととらえており、
俳優は映画製作に関わる1つの身分に過ぎないと考えている――
とよく似ているではないか。

先輩弟子のレネ・リウ(劉若英)の話によれば、陳昇の弟子になったら、
ビンロウ買いやトイレ掃除をやらねばならなかった。
「公平でしたよ、金城武もやったんですから」
毎週月水金がレネ・リウ、火木土は金城武の当番だった。
トイレのドアにはチェック表があり、掃除が終わるとサインをする。
金城武は自画像を描いて、掃除が済んだ印にした。

陳昇の話すところによると、
「誰もあいつのことを気にしてなかった。
ある日、奴はA4の紙に自分の顔を描いて、
『ぼくは金城武だ』と書き添え、便器の上の方に貼った。
用を足しに行くと、必ず奴の顔を目にするというわけだ」

金城武は歌を作ることに喜びを覚えていたが、ウォン・カーウァイの撮影を見て、
その面白さを目の当たりにしてからは、
少しずつ歌はやめようという気持ちになっていった。
「CD制作が面白くないと言うのじゃないんです、
でもあれはみんなで一緒になって作るものじゃないですから」
これは、金城武が「なぜ」という質問にはっきりと答えた、珍しい例である。
オタクで知られる金城武が「みんなで作る」ことを重要視しているとは、
予想外だ。

ウォン・カーウァイの「恋する惑星」の撮影現場は、ぶっ飛んでいた。
監督は台本を用意しないし、それを自分の特徴としているぐらいだ。
カメラマンのクリストファー・ドイルは、撮る画面が揺れているだけでなく、
彼自身も揺れているように見えた。
金城武が観察すると、傍らにはビール瓶があった。

「この空間にいる人たちはコミュニケーションなしで、
でも、一緒に1つのことをしている。
自分の技術を駆使して楽しんでいる」
「現場で起きることは何でもものすごく面白かった。
監督でも、カメラマンでも、道具作りでも、美術でも、録音技師でも、
映像制作というのは、どうしてこんなに面白いんだろうと思いました」
彼は、どの仕事もやってみたかった。

リー・チーガイ(李志毅)監督の回想によると、
「世界の涯てに」は、スコットランドで屋外ロケをした。
金城武の出演場面は1シーンしかなかったが、
彼は全工程を撮影班と行動を共にし、片隅に座って静かに見ていたという。
ニューヨークに留学したとき、学んだのは映画科であり、俳優科ではなかった。

今日に至っても、彼はまだ演技にあまり慣れていない。
ピーター・チャンが、カメラが回る前で話そうとすると、
すごく不自然になってしまうとこぼしたとき、
金城武は思わず手を広げ、
「ぼくらだって不自然になりますよ! 
ぼくらはやらされて、仕方ないからやるだけで。
ぼくはそう感じてます」

彼は「ぼく」と言うべきところを、よく「ぼくたち」と言い換える。
まるで人々の後ろに隠れていれば、少しは楽になるかのように。
彼が普段、より、隠れようとするのは、”金城武“の後ろである。
彼自身は、”彼“と呼ぶ。
「彼はみんなが作り出した1つのイメージだと思うんです。
当時ぼくは、その殻の中に訳も分からず入り込んで、
彼と一緒に今日まで来ました」

“彼”は決して自分ではないが、しかし、自分が”彼“に背くこともできない。
こちらの金城武は、5場面しか出番のない脇役がやりたい、
なぜなら人物が生き生きしているが、主役の方はありきたりだから。
しかし、あの”金城武“は主役をやらなくてはならない。

こちらの金城武は、あの”金城武“のために、
やりたくはないがやる必要のあることを、数多くやってきた。
ピーター・チャンの言い方によれば、スター自身が1つの会社であり、
1個の経済体であって、たとえスター本人はあまり金を使わないとしても、
芸能事務所を動かし、映画の普及を動かす。
「このことは、変えようがないんだよ」
(続く)


   BBS   ネタバレDiary 23:00


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