愛なき浜辺に新しい波が打ち寄せる
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帰りの車の中での会話。 「みやもとりゅうじ」 「誰それ? さっきの同級生が言ってたテニス部の?」 「違う。でも、その宮本で思い出したんだけど、幼稚園のとき、同じクラスだった宮本りゅうじだよ。覚えてないか、りゅーじ。って俺も忘れてたんだけど。なんか急に思い出した。お前によくちょっかい出してたじゃん」 真田は、年中のときに転園してきたんだけど、同じクラスに、真田のことをからかう男子がいた。服が女の子みたいとか、女の子と折り紙ばかりしてるとか、いちいち言ってきてた。それが、宮本りゅうじ。真田は、母親の趣味で、いかにも男子って感じの服装ではなく、お上品な装いでした。あと、外で皆で追いかけっことかして遊ぶより、教室の中で工作する方が好きだった。ある日、りゅーじが、折り紙してた真田の腕を引っ張り、「そとにいこう」って、遊びに誘う。そしたら、真田は、手を振り払って、「おりがみしてるから」と断った。りゅーじはカッとなって、真田が折ってた折り紙を取り上げて、ぐちゃぐちゃにして投げ捨てる。周りにいた女子は、「りゅーじくん、わるい!」とかって、大騒ぎ。誰かが、園庭にいる先生を呼びに行った。そのとき、若菜がちょうどトイレから戻ってきて、事態を知り、折り紙を拾って、「もとにもどせ!」と、りゅーじに詰め寄る。「うるさい!」と、りゅーじは若菜を押し、そこから、掴み合いのケンカに。りゅーじは日頃から真田にちょっかい出してたので、その度に若菜は腹が立ってた。 「かずまは、かっこいいおとこだ! ふくもかっこいいし、おりがみめいじんでひらがなめいじんだ!」 若菜の手が、りゅーじの顔に当たり、りゅーじは少し出血してしまう。わざとではないが、爪で傷付けてしまった。そしたら、りゅーじは、わーっと泣いて。嘘泣き違うよ。そんなに痛くはなかったが、自分から血が出てるのを知って怖くなった。若菜は、りゅーじを怪我させたことで、動揺。そこで、やっと先生が来た。りゅーじは、痛いよーって、先生に抱き付く。先生は、全然大した傷じゃなかったことに安心し、宥めながらまずは手当て。その後、落ち着くのを少し待って、何があったの? って話になるんだけど、りゅーじが怪我しちゃって、しかもへこんでるので、先生は、若菜を問い詰める感じになってしまう。先生的には、若菜を責めてるつもりはなく、何があったか知りたいだけなんだけど、若菜は自分だけが責められてる感じがした。若菜は先生が大好きだったので、悲しかった。そのとき、真田が、 「せんせい、ゆうとをおこらないで!」 真田の大きな声を初めて聞いた先生は、驚いて、咄嗟には言葉を返せない。 「ゆうとは、ぼくをたすけようとした。さきにおしたのはりゅうじくんだし、けがをさせたのはわざとじゃない。わるいのは、りゅうじくんとぼくだ。りゅうじくんは、いじわるしてきたし、ぼくは、ちゃんとたたかえなかったから。ゆうとはかんけいないのに、どうして? せんせい、わかる? わからないなら、せんせい、きらい!」 悲鳴のような訴えだった。いつもは大人しい真田の激昂に、先生だけでなく、若菜も、クラスのみんなが呆然とした。
「ああ、言われてみれば、そんなことがあったような気も」 「りゅーじは、お前のことが好きだったのかもな」 「どうでもいい」 「お前ほんと可愛かったもんな。りゅーじでなくても好きになるわ。女子よか可愛かっただろ。それがまあたくましく成長してさ。面影もないじゃん」 「どこかで入れ替わってたりしてな。それで、ある日、真田一馬を名乗る美女が現れて、『私が本当の真田一馬です』って、結人に迫るとか」 「何それ怖い。お前はどーなんの」 「『偽物は消します』って、そいつに命を狙われる」 「あらら。そりゃ大変。とりあえず、俺は、できるだけ守るよ、偽物疑惑をかけられた一馬のことを。入れ替わったりなんかしてないんだよ、絶対に。お前は、ある日突然可愛くなくなったわけじゃない。月日の流れと共に徐々に可愛くなくなっていったんだ。だから、偽物なのは、その美女だ」 「……あ、夕焼け、綺麗」 「おい、変なネタ振っといて、真面目な返しをスルーか。まあ、夕焼けは綺麗だけどな。海で見たらもっと綺麗だったと思うけど」 「それはまた今度」 「うん」 それからしばらくは無言で。若菜は窓から夕日を見ていた。 「なあ、結人。俺は、お前が、今更、あんなふうに謝ったり、責任感じたりする理由が分からない」 「え」 (だって、中二のとき、考えとくって言ったのに放置してたし、その後、高校で、何事も無かったかのように振る舞って、流れでみーこと付き合うことになったし、別れたことも言わなかったし) 「何も悪いことなんかしてないのに。ドライなふりして、色々気にしてるんだな。そんなんじゃ、身動き取れなくなるぞ。俺はお前が心配だ。変な女に騙されたりしそう」 「余計なお世話。色々は気にしてねーわ。お前のことを気にしてるんじゃ」 「海で俺が言ったことなんか、独り言みたいなもんだから、受け流せよ。今更、気にしたって、」 「あーもー、今更今更言うなや。悲しくなる!」 「だって、今更だろ」 「もう好きじゃないのかよ」 「事故るぞ」 「は!?」 「今ちょっと動揺した」 「つーか、スピード出し過ぎでは?」 「大丈夫。そういや、来週から教習所だっけ? 頑張って。学科が心配」 「大丈夫。俺はやればできるんだよ」
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