愛なき浜辺に新しい波が打ち寄せる
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成人式当日。映画館で待ち合わせ。真田は、成人式に行くと言って出てきてるから、スーツ着てる。若菜は、嘘をつく必要性を感じてないんだけど、真田が嘘を言うのに自分は本当のことを言う、というのがなんとなく引っかかり、成人式に出ると言ってきたので、スーツ姿だ。 「あれ、結人、スーツ?」 「かっこよかろう」 「意外と似合ってる」 「意外と言うなや。お前は、イラッとするほど普通に着こなしてんな」 「イラッとって」 真田の希望でホラー映画を観ることに。真田、怖いの結構好きなんだよ。若菜は苦手なんだけど、まあ大丈夫だろって感じでいる。そんなに怖くないかもー、と思いながら見てたら、終盤、畳み掛けるように恐ろしいシーンの連続で、冷や汗をかく。 (ちょ、ちょっと、これ…) 隣を見やると、真田は、真剣な表情でスクリーンに見入っている。 (こんなのよく凝視できるな。あー、いかん。無理。目を閉じて、心を閉ざそう…) そしてやっと上映が終わる。若菜にとっては長くきつい時間だった。 「お前、終わりの方、寝てただろ。どんでん返しだったんだぞ。そうくるかっていう。いい意味じゃなく悪い意味で。あんな引っ張り方しといてそれがオチなのか? そんな伏線なかったぞ? って、このモヤモヤを共有したかったのに」 「一馬よ、俺は寝てたのではない。なんとか恐怖をやり過ごそうと、瞑想していたのだ」 「はあ?」 「いやもうほんとに。やばかったわ」 「怖いのダメだっけ? というか、そんな怖かったか?」 「お化け出てきたじゃん。昔から苦手なんだよな。幼稚園の頃、夏祭りで、商店街のお化け屋敷に入ったんだけど、それがほんと怖かったんだよ。商店街の店の人らがお化け役やってたんだけど、追いかけられて、めっちゃ怖かった記憶ある。小さい子供相手だし、手加減して驚かしてたんだろうけど、殺されると思ったんだよ、まじで。そして、俺は心に決めたんだ。もう二度とお化け屋敷には入らないと」 「へえ…」 「ちなみに、お前もお化け屋敷入ったんだよ。で、全然怖がってなかった。『あ、あのおばけ、さかなやのおじさんだ』とか言ってた」 「覚えてない」 「怖くなかったから覚えてないんだよ」 「違う映画にすればよかったな。怖いの嫌ならそう言ってくれたらよかったのに」 「こんな怖いと思ってなかった」 その後、どこで昼ご飯食べようか、となる。真田が、美味しいとこ知ってる、って、大学の近くの定食屋へ。昔からやっているのだろうと思われる店構え。年季の入った看板の文字は擦り切れている。間口が狭かったので、中も狭いのを想像していたら、意外なくらい奥行きがあり、思ったより多くの客が入れる。席は八割方埋まっていた。カウンターに並んで座る。どこか昭和の雰囲気が漂っていたが、清潔感があり、落ち着く。 「何でも美味しいけど、煮込みハンバーグが美味しいって評判」 と言った真田は、肉野菜炒め定食に決めた。煮込みハンバーグ定食は、こないだ食べたらしい。おすすめ通り、煮込みハンバーグにする。 「うまー。あったまるし」 素朴で、家庭的な味だ。昔どこかで食べたような、今度家で作ってみようと思うような、舌にも心にもじんわり染みる感じ。 「そうだろ」 「ここ、よく来るのか」 「よく、ってわけじゃない。たまにな」 こういう店で、隣り合って、美味しいものを食べてる。なんだか幸せで、でも、少し寂しい? もし、ちゃんと勉強して成績が良かったとしたら、同じ大学の同級生として並んでランチする、なんてことがありえたのだろうか。今までそんなこと考えたことなかったけど。 (いやー、ありえねーな。 今度の夕飯、煮込みハンバーグにしよ) 「一馬の好きな食べ物って何なの?」 「ん?」 「昔、たまごサンド好きって言ってた気がするけど」 「それは今も普通に好きだけど」 「夜ご飯のメニュー的なもんでは何が好き?」 「俺、好き嫌いないから何でも食べるけど」 「ふーん」 いつか真田に自分の作ったものを食べてもらう機会があるだろうか、と考えてみる。別に得意じゃないし、趣味でもないし、真田母は料理が上手だし、口に合うかどうかなんて分からないけど、いつかそういう機会があってもいいかと。 「あ、刺し身とか」 「刺し身…」 「寿司とか」 「寿司…。握ったことないわ」 「俺だってないよ」 「それはともかく、この後どうする?」 「もう一本観たい映画があるんだけど。この近くに、映画館があるんだ」 さっきのホラー映画は、シネコンで観たんです。今、真田が言ってる映画館は、ミニシアター。 「怖いやつはもういい。具合が悪くなる」 「怖くないやつ」 「どんなんよ」 「恋愛もの?」 恋愛ものだと? 男二人でか。と、突っ込んでもいいところだが、それもできずに。 「いいよ。怖くないなら」 それで、ミニシアターで映画を観る。恋愛ものといっても、ベタベタな感じではなく、すごく淡々としている。男と女が出会って、惹かれ合うが、どちらもアクションを起こさず、それぞれが普段通り生活する。たまに相手のことを思い出す。でも、会いに行ったり連絡したりするわけでもなく。 (進展しねーな…) 眠くなってきた。真田の様子を窺うと、やはり真剣な眼差しで画面を見ていた。 (あー、いかん、心の底から眠い…) しばらく眠気と戦ってみるも、すぐに負けて、寝てしまう。いつのまにか上映終了。 「中盤から寝てたな」 「すまん。退屈だった」 「まあ確かに」 「それで、結局どうなったんだ? あの二人はくっついたのか?」 「いいや」 「後半、どういう流れになったんだ?」 「どういう流れにもなってない」 「何それ。ずっと最初の方と同じ感じなのか」 「そう。何も起こらず。そのまま静かに終わった」 「それは面白いのか?」 「分からない」 そのへんのコーヒーショップで一休みしてから、真田が靴を見たいっていうから、靴屋行ったり、ついでに服見たり。そしたら、 「お、若菜! 久しぶりー。お前も同窓会帰りか?」 高校の同級生に遭遇。二年のときに同じクラスだった男子だ。連れが二人いたが、そっちは知らなかった。真田は、誰? と問うように若菜を見る。真田とその同級生は、お互い面識なくて知らない。同級生は、真田のことも自分の連れのことも気にせず、若菜に近寄って雑談する気満々ぽい。若菜は、その男子と全然親しくなかったので、名前がすぐには出てこない。真田に、高校んとき同じクラスだった、と答えてから、 「おお、久しぶり」 と、返す。まだ名前が出てくる気配はない。 「お前、望月と別れたんだってな」 いきなりそれか。この同級生は、みーこと同じ成人式会場だったので、そこで、若菜とみーこの破局を知ったのだろう。 「あー、うん、そう。そうです」 (あーあ、言っちゃった。一馬、聞いてるよな。びっくりしてるかな) 「望月、早速、宮本といい感じになってたぜー」 「誰よ、宮本って」 それ以前に、目の前の男子の名前が思い出せないのだが。 「ほら、テニス部で、背が高くてさ、」 「あー、はいはい」 全然思い出せないけど、適当に調子を合わす。 「女って切り替えはえーよな。あ、そういやさー、」 もうどうでもいいから早く会話を切り上げたい。若菜が話を納めるタイミングを見計らっていると、 「結人、時間が」 真田が、毅然とした口調で話の腰を折った。 「あー、そうだった。この後ちょっと用事あって。というわけで、またな!」 まだ何か話そうとしてる同級生に言い残して、足早に立ち去る。その間にも、真田は大股でどんどん先に歩いていく。追いかけるようについて行き、 「一馬、」 呼んだら、真田は歩くペースを落とした。若菜は横に並んで歩く。 「…さっきは、どーも」 「あれ、友達?」 あれ呼ばわりかよ。 「うーん、名前が思い出せん」 「不躾な奴だった」 淡々と真田が言った。 (あ、怒ってる…。そりゃそうだ。でも、みーことのこと、聞かないんだな)
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