愛なき浜辺に新しい波が打ち寄せる
DiaryINDEXpastwill


2015年09月10日(木) 若真ネタ17

 年末に姉は引っ越し。近いからいつでも来れるので、いかにもいなくなった、という感じではないけど、ほんとに結婚したんだなー、と改めて思う。母は、つわりがきついようで、すっかり食欲がなくなった。夕飯は、若菜が作ることが多くなった。ところで、居酒屋のバイトはどうなったかというと、案の定、店長にしつこく引き止められたが、きっぱり断ると、もうそれ以上は何も言われなくなった。無理なシフトを組まれたり、変に避けられたりするかと思ったが、それもなかったので、若菜は一安心。バイト仲間は、残念がったり、あとに続きたがったりしていたが、まあ仕方ないよねー、というムードだ。元々、結構入れ替わりがある店なので。それはコンビニもだけど。
『居酒屋のバイト、辞めるんだって?』
 ある日、牧から連絡がきた。牧は以前、若菜と同じ居酒屋でバイトしてたんだ。短期間だけど。バイト仲間だった一人と今でも連絡を取り合ってて、その人から聞いたらしい。
『辞めたら、こっちの店に来ない?』
 真田と行ったことがある、個室のあるオシャレカフェだ。
「人手足りてないのか?」
『俺、辞めようと思って。それで、俺の後に若菜が入ってくれたらいいなーと思って』
「せっかくだけど遠慮しとくわ。わりーな。ていうか、お前また辞めんの」
『そう。飽きっぽくて。次は何しようかな』
「頭いいんだから、家庭教師は。一馬やってるぞ。時給いいだろ」
『家庭教師なんて。一対一でしょ。嫌だね。俺は、人間が嫌いなんだよ』
「人間嫌いなのに接客業かよ」
『一対一じゃないから。適当に愛想笑いしとけばいいだけなのはいける』
「人間が嫌い、か」
『嫌いだねー。自分も含めて』
 言いながら、牧が笑った。
(俺は、嫌いじゃない)

 大晦日。朝から夕方までコンビニでバイト。客は少なく、普段ならゆったり働けるところだが、地味に大掃除期間中。何日か前から、いつもは掃除しないような場所を、ぼちぼちと綺麗にしていってる。なので、それなりに忙しい。夕方、バイトが上がって帰ろうとすると、
「おつかれさま」
 真田が来た。
「おー、どうした」
「いや、ちょっと、いるかな、と思って見に来ただけ」
「いるいる。土日祝とかお盆とか年末年始とか、そういうときは基本いる」
「居酒屋は休み?」
「店自体がな。大晦日と元旦は休み」
「そうか」
「お前、暇なの?」
「暇ではない」
「ちょっと散歩でもする?」
「する」
 寒いけど、二人並んでそのへんを歩きます。
「うちの母さんから聞いたけど、結人のお母さん、赤ちゃんできたんだって?」
「そうそう」
「20歳下か。すごいな」
「21歳下になるな。予定日がさ、8月25日なんだよ。お前の誕生日と近い。同じ日に産まれるかもな」
「20日に産まれたらしし座だけど、25日に産まれたらおとめ座だ。どうでもいいけど」
「うん、どっちでもいーわ。それにしても年離れてんなー。連れて歩いてたら父親だと思われる」
「いいや、甥っ子か姪っ子に見えるんじゃないか。結人が父親って。見えない見えない。ないない」
「お前、もしかして馬鹿にしてるな?」
「してない。でも、見えないんだから仕方ない」
「なんか、圭人が産まれるときのこと思い出したわ。圭人って名前、俺と姉ちゃんが考えたんだ」
「うん。圭人から聞いたことある」
「母さんの妊娠が分かったとき、姉ちゃんは妹がほしいから女の子がいいって言って、俺は、弟がほしいから男がいいってな、女の子だー男の子だーって、ケンカになっちゃって。そしたら、母さんに怒られて、結局、妹でも弟でもどっちでも嬉しいよね、ってなったんだけど。それで、姉ちゃんと、男でも女でもどっちでもいけるいい名前を考えようって、勝手に盛り上がって。その夜、金曜ロードショーで、タイタニックをやってたんだけど、ヒロイン役がケイト・ウィンスレットなんだよな。けいと、って名前いいね、ってなったんだ。男の名前だと思ってたけど、女でもいけるんだって。そしたら、それが、採用されたというわけ」
「へえ、そういう経緯があったんだ」
「うん」
「いいな、きょうだいって。俺は一人っ子で寂しいなんて思ったことないけど、そういう話を聞くと、いいなって思う」
「そう」
(お前には俺がいるよ。兄弟みたいなもんだろ)
 なんて。ちょっと思っても、本気では言えないし、冗談でも言えない。
「そういや、居酒屋のバイト辞めることにした。来月辞める」
「何かあったのか?」
「まー、色々。いや、色々あるといえばあるけど、別に色々はないかも。まあとにかく、もういいや、って感じになったんで辞めますわ」
「ふーん…。まあ、とにかく、おつかれさま…」
「そんで、時間空くし、教習所通うことにした」
「あ、そうなんだ」
「そう」
「…じゃあ、いつか乗せてくれる?」
「当たり前だろ。どこへでも連れてってやる」
 どこに行けばいいのか分からないとか言っちゃって、どこにも行けないとか沈んでたくせに。どこへでも連れてくだと。
 そんなことを話しているうちに、その辺りを一周して、コンビニに戻って来た。結構歩いたな。
「あ、そうだ、結人。成人式、行く?」
「あー、行かないなー。多分、バイトだし」
「行かないのか? ほんとに?」
「うん、行かない。どうすんの、行って」
「どうすんのって。じゃあ、俺もやめとこ」
「じゃあって何だよ。お前は行っとけよ」
「いい。もう決めた。行かないと決めた」
「いやいや、俺が行かないから行かないとか。俺、一馬の母さんに恨まれないだろか…」
「大丈夫。親には行かないとは言わない。成人式出るって行って外出するから」
「それ、多分後でバレるぞ」
「その時はその時」
「俺は多分バイトだけど、お前は、式の間、どこにいる気?」
「映画でも観ようかな」
「一人で?」
「悪いか?」
 成人式は再来週の月曜日(祝日)。まだコンビニのシフトは出てないが、何も言わなければ、祝日なので多分入れられる。居酒屋の方は、もうシフトが出ていて、そっちには入ってなかった。若菜は、コンビニの前で真田と別れてから、店の中に戻り、休みの希望を書いて出しておいた。これで成人の日は休みを取れるはずだ。
(一馬、ほんとに行かないのかよ、成人式。何でだよ。行けばいいのに)
 自分のことを棚に上げて。ちなみに、星野は仕事の都合で式には出れないらしい。みーこは、地区が違うから、会場が別なので、出席したとしても会うことはない。
 成人式の前夜、若菜は真田に電話する。
「もしもーし、こんばんはー」
『何』
「明日の成人式、どうすんの? 俺は行かないよ」
『俺も行かない』
「あーそう。俺、明日、バイトじゃなくなった。久しぶりに映画でも観ようかな」
 電話の向こうで、真田が息を呑むのが分かった。
「よかったら、一緒に観よーぜ。一馬が観たいやつでいいから」
『…うん』


DiaryINDEXpastwill
もぐ |MAILHomePage