愛なき浜辺に新しい波が打ち寄せる
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久しぶり(といっても一週間ぶりくらいですけど)に繋いだ気がする。あーだめだーこんなんじゃ…。オタクとしてダメだと思う。寝る間を惜しんででもネットしたり妄想したりするのが正しいオタクのあり方だと思う。あー引きこもりたい…。あーえーと、人魚ネタのつづきを。
というわけで、英士は一馬の言葉にあっさり甘えて家に居させてもらうことにします。英士は、「いきなりラブラブ同棲生活に突入とはなんと都合の良い展開だろう。やはり日ごろの行いが良いせいだな」などと勝手なことを思っています。当然ラブラブ同棲生活というのは英士の妄想の中だけの話なので、実際の生活はとってもあっさりしたものです。一馬はバイトバイトで忙しく、朝は早くて夜は遅く、休みの日はほとんど寝てるので、二人は一緒に住んでいても、会話どころか顔を合わすことも少ないのでした。英士はちょっと寂しかったりもするのですが、一緒に暮らせるだけでも充分幸せ(ちなみに一馬のほうは、英士と一緒に暮らしてるだなんてちっとも思ってません。しばらくの間だけ居候させてあげてる、程度の気持ちです)で、一馬の役に立ちたいので、家事とかやってます。不慣れなので失敗だらけですが、一生懸命です。気分は「ちょっとおっちょこちょいだけど旦那様に尽くす可愛い新妻」気分です。いい気なものです。ある日の夕方、珍しく一馬が早く帰ってきて、英士は大喜び。微妙な味の手料理を一馬に振る舞います。一馬は「微妙な味だなあ」と思いつつも、文句も言わずに全部食べます(いつものこと)。ふと窓の外を見ると、雪が降っています。「生まれて初めて見た」と英士が言うと、一馬はちょっとびっくりしたような目をした後、「そう」とだけ返します。 「綺麗だね、本当に」 「うん」 「窓開けて見てもいい?」 「やだよ、寒い」 「じゃあやめるよ」 「うん、やめろ」 しばらくの間があって、一馬は黙って窓を開けます。思わず「寒い」と呟いてしまった英士に、一馬はむっとして「お前が窓開けてもいいかって言うから」と抗議します。 開いた窓から冬の冷たい風が入り込んできて、ひどく寒い。 「一馬は優しいね」 「…面と向かってそういうことを言うなよ…。しかも真顔で…」 「あ、顔が赤い」 「それは寒いからだ!」(乱暴に窓を閉める) 窓を閉めても、部屋の空気はまだひんやりとしています。 「一馬は何も訊かないんだね」 英士の言葉に、一馬は少しの間黙り、その後、独り言みたいな小声で、英士に話すというよりもむしろ自分に言い聞かせるように、「誰にだって、言いたくないことはあるしな…」と。英士は、一馬の「言いたくないこと」を知りたいと思う。彼の傷口を見たい。分かりたい。彼のために何かしたい。 その夜、英士がふと目覚めると、まだ雪の降っている気配がします。そっと起き上がり、カーテンを少し開けて窓の外を見ると、やはり雪が。ベッドで眠っている一馬の眉間には、皺が寄っています。悪い夢でも見ているのでしょうか。 (悪夢よ、去れ) 英士は祈りを込めて、一馬の額にそっと手を置きます。すると一馬は魔法が解けたように目を覚ましました。 「ごめんね。起こして」(手をぱっと放す) 「いや…」 「怖い夢でも見てた?」 「さあ、覚えてない。…うなされてた?」 「そうじゃないけど。苦しそうな顔してたから」 「そっか」 「うん」 「…手、冷たくて気持ちよかった…」(目を閉じる) 英士は再び一馬の額に手を置きます。一馬は一瞬ビクリとして目を開くんだけど、すぐにまた目を閉じて深呼吸を一つします。 「大丈夫?」 「うん」 「眠れそう?」 「うん、眠れそう」 「よかった」 「うん、ありがとう」 ありがとう、と一馬に言われて、英士はとても満たされた気分になります。すごくすごく満たされて、胸がいっぱいになる。もっと役に立ちたいと願います。一馬が眠りに落ちたのを確認してから、英士は外に出ます。雪はもう止んでいました。薄っすらと雪の積もった道を歩き、ふわふわとした気持ちで(一馬にお礼を言われた余韻にまだ浸っているのです)海へと向かいます。なんとなく眠れなかったので、海でも見たら心が落ち着くだろうと思ったからでした。一歩進むごとに足は痛むのですが、痛みは雪に吸い取られていくようでした。
「ヨンサ!」 海に着くと、水面から見覚えのある顔がいきなり出てきて、英士は大いにびっくりします。 「…潤慶、久しぶり。っていうほど久しぶりでもないけど。どうしたの?」 いとこの潤慶は、突然いなくなってしまった英士をずっと心配していたのでした。 「『どうしたの?』だって? 冗談じゃない! それはこっちの台詞だよ!」 そう言われてみればそうだ、と英士は思います。 「どれだけ心配したと思ってるの。僕だけじゃないよ。みんな心配してる。人間に魂を奪われて故郷を捨てたんだって、ヨンサは裏切り者だって、悪く言ってる人もいるよ」 故郷を捨てる、とか、裏切り、という表現に、英士は動揺します。 「そんな…」 「ヨンサ、その人間がそんなに大事なの?」 「俺は、ただ、あの人の役に立ちたい。それだけだよ」 潤慶は、少し黙って、そして静かにため息を吐き、 「僕はただヨンサのことが心配なだけ」 「潤慶…」 「ヨンサの恋は、破れるよ」 「言いきるね」 「言いきるよ。恋が破れて、ヨンサは深く傷付いて、もう立ち直れないかもしれない」 「……」 「まあこうなったら気の済むまで好きなようにすればいいけど、…って言われなくてもするだろうけど。立ち直れないくらい傷付いても大丈夫だよ。ヨンサの戻る場所はちゃんとあるからね。また戻って来ればいいよ」
(戻って来ればいいよ、って、そんな。だって俺はもう、海には戻れないのに)
英士は自分の足元を黙って見つめました。
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