| 2004年07月18日(日) |
【愛のカケラ 言葉のチカラ】−2 |
つづきです。 ********************************** 帰り際、出口のところに、皆様お見送りということで藤井くん・直人・りょう ちゃん・そして僭越ながらお手伝いの私、という順番で立っていたら。 鈴川さんが出口で足を止め、藤井くんに会釈をしてから、直人をまっすぐ 見てこう言った。 「・・・さっきはありがとう」 直人、少し驚いた瞳をして。でも冷静に、そしてやさしい口調で言葉を返す。 「どういたしまして。オレはさっき言ったことは後悔してないけど、 もし傷つけたんだったらごめんなさい」 「わかってるわ。・・・不満だけど・・・アナタ正しいと思う。 だから私もちょっとは前を向こうと思ったから。だからありがとう。」 「不満なんだ?」 少し笑顔で直人が言った。 「不満よ!くやしいじゃない。よく知らない人から諭されるのって」 鈴川さんも、笑顔でそう言った。 「プライド高いよね」 「それも私よ」 「カッコいいね」 直人の言葉に、初めてふわりと笑った。その笑顔は横で見ていた私ですら、 とてもキレイだと思った。 魔法を使うよね。と思う。 こんなときいつも、直人は魔法を使う。 言葉の魔法。 きつい言葉を投げかけても、最後には相手が立ち直っている。 そういう場面に出会う度に、この子なんだろう?と思う気持ちが強くなる。 ああ好きだわ私。この子。なんて。 それは恋の魔法、恋の視点かもしれないけれど。 私ばっかり好きな気がして、それこそ悔しい気分になる一瞬だ。
後片付けもすべて終わり、「送っていくー」と直人が言って、二人で私の家まで、 ゆっくり歩いて帰る道で。 「夜になっても暑いねー」 呟く私に、ふいに不思議そうに直人が言ってくる。 「でもセミとかって夜は鳴かないよね」 「夕方まではうるさいけどね」 「どこ行ってるんだろう」 「寝てるの?」 「さあ?よくわかんない。夜は寝てるのかもしれないよね」 「さっき、何て言われたの?」 さりげなさを装って聞いてみると、直人は少し沈黙した後で、こう言った。 「なんか、簡単に言うと、高校のときに、クラスのやつに日誌かなんかに、 すげーひどい落書きされたんだって。なんかブスとかそういう。 で、それ以来自分の外見にすごくコンプレックスあるんだって言うからさあ。 なんかオレ、めちゃめちゃ腹立って。そんなこと気にするの馬鹿ってくらい 綺麗な人じゃん?あの人? で、気がついたらピッチャー倒しちゃってたん だよね」 「藤井くんに怒られたねー」 さっき、皆が帰ったあとで、直人は藤井くんからこっぴどく叱られていたのだ。 あの人はお客さんでオマエは店員! その辺よく考えろ!と。 「あーもー言わないでよそれ! オレ、今夜ひとつ屋根の下であの人と 寝ないといけないんだからさあ」 直人は“小さな家”の二階に、藤井くんと二人で住んでいる。 子供みたいにむくれて、直人は言った。 私は笑う。 「でも、まあ、よかったね。あの子も“ありがとう”って言ってたじゃない? その不毛さに気付いたんじゃない?」 「うん。よかった。たまに怒らせてそれで終わりってときあるからね。 チーフはたぶん、そうなったら困るって言いたいんだと思うんだよね。 今回はたまたま良い結果に終わったけど次回はわかんない。って」 「でも、わからなくもないのよね」 「なにが?」 不思議そうに聞いてくる直人に、私はさっきから考えていたことを、ゆっくり 言葉にしてみる。 「その日誌の話。やっぱりブスとかなんとか書かれたりしたら、それがウソでも ほんとにその人が美人だったとしても、すごく心の傷になると思う。 まあ本人に原因があったとしてもね。 それ忘れるのって、ほんとに長い時間がいるような気がする」 「笑美子さんもそんなことある?」 「えー内緒」 「なにそれ」 不満げにそう言った後で。 今度は直人が、少しの沈黙の後で、こう言った。歩きながら。 「でもさ。・・・でも、ひとつの考えに取り付かれちゃったら、なかなかそれを 覆すことって、自分ではできないよね? だから・・・もしかしてその傷みたい なのをさ、誰かが言葉とか、行動とかで、消えちゃうことはないにしても、 うすくすることができたら・・・そういうの、できたらいいなあって。 オレはそんな風に思うな。 そんなの、めちゃめちゃ傲慢かもしれないし、逆にそんな風にできないこと の方が多いけどさ。理想論だとか、夢見てるとかって言われるかもしれない けど、そんなことが起こったらいいなあって」 その台詞を聞いていて、つくづく思ったことがあった。 そして思ったままを私は口にした。 「直人って・・・ほんとにいい子っていうか、やさしいよね。気持ちが。すごく」 「・・・はあ? 何言ってんのいきなり!」 照れて、「そんなことないって」なんて大声で言って、 「て言うか、いい子って誉め言葉なの? それ。もしかして嫌味?」 なんて笑いながら言う。 「嫌味な訳ないでしょ」と私は言って、でもまあいいか。と思いながら、横目で 直人を見ながらこう続けた。 「・・・あたしは正直言うと、「綺麗な人」「綺麗な人」って連発されて、 そっちの方がちょっと妬けたわ」 すねたようにそう言うと、直人は目を見開いて私のことを覗き込んで、でも 次の瞬間にはぷっと笑って。 「なっなに笑ってんのよー!」 「あ、ごめんごめん。いや、エミコさんってほんっとかわいいよね。 そういうとこ」 とてもオレより5つも上とは思えない・・・と言いながら、くっくと笑っている。 「バカにして!」 「してないよ」 「してるわよ」 「してないって」 そんなこと言いながら、うまくキスされて、まったく直人はご機嫌取りにも 慣れてるなあと思う。 今までどういう恋愛してきたの。なーんて聞きたくなるけど不毛だから聞かない。 聞かない代わりに、私がコイツのことがすごく好きだって気持ち伝われ!なんて 思ったりしている。そして、手をつないで歩きながら、さっき直人が照れて 受け流していた、私の「やさしいよね」という一言、そういう私のさりげない 言葉のひとつひとつも、直人にとっての何かになっていたらいいなあなんて、 本気で思った。
言葉は不思議な魔法だと思う。 人の心を立ち直れないくらいに傷つけることもできる。 深い暗闇から、助けるようなことだってできる。 傷ついたりショックを受けたりすることが、その人生において、避けることが できないことなら。 ちょっとした愛みたいな、気持ちみたいなもので、本当に、それを少しでも、 緩和できたらいいなあと。 それができるんだったら、とても素敵なことだなあと。 直人の考えが伝播したのか、素直な気持ちで、笑いながら歩きながら、そんな ことを考えていた。 ************************************ 終わりですー。感想などお聞かせください。(自分ではどこが悪いとかイマイチ わかんないので、皆様の感想が結構役立ったりするのです。)
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