日記

2003年09月10日(水) 満月 その4

「今日ってさあ」
「うん?」
自分が引き起こした事とは言え、神の助けにも似た気持ちで、直人の方を
向く私。
そういうこともお見通しなんだろうか?
直人は私を見て少し笑顔になって。
「もうお客もいないことだし、外出て満月鑑賞しようよ」
「満月?」
「今日って満月だっけ?」
すっとんきょうな声を上げる、私と藤井くん。
りょうちゃんは、突然の直人の申し出に、驚いて涙も止まった感じで、
きょとんとして直人を見る。
「うん。たしか。
昨日、ほとんど満ちてたんだよね。だから今日が満月なんだと思う。
ちょっと外、出てみようよ。もう、お客来ないよ今日は」
「客が来る来ないを決めるのはオマエじゃないけど、まあたまには
そんなのもイイよね」
くっくと笑いながらそう言う藤井くん。
直人は無邪気な笑顔で、うん、ごめん。と思ってもいないだろう謝罪の言葉を
藤井くんに言っている。
藤井くんは肩をすくめて、じゃあ出てみようかと、他の3人を外に連れ出した。
「私も客だよ?」
思わずチャチャを入れる私に、「笑美子さんはいいの!」と直人は言って、
そのまま私たちは、4人で外に出た。

カラン、とドアベルの渇いた音。
入り口のドア前の階段のところに、私たちは4人で座ってみる。
「方角的には、あっちの屋根と屋根の隙間から見えるはず・・・なんだけど」
東の方を指差して、直人は言うけれど・・・見えるのは暗い空と、
更に暗く黒い雲ばかりだ。
「くもってるよー直人」
「オレの予想ではねえ、あの雲の切れ間から見えると思うんだよね」
「うそー」
「いや、見えそうだよ。風で雲、流れてるし」
藤井くんが言った。それから少しして。
「あ」
りょうちゃんが、声を上げた。
その時。風で、さあっと雲が流れて。
一瞬の後で、金色に輝くまるい月が、そこにはうつくしく浮かんでいた。

「・・・きれいね」
我を忘れて、私は言った。
「すごい。すごいすごい! 綺麗ですねチーフ!」
心底、素直に感動した感じで、りょうちゃんが明るい声で言う。
「たしかにすごいねえ」
落ち着いた声のトーンで、藤井くんが言う。そして、彼はつづけて
りょうちゃんに、何の気ナシに、という感じでこう言った。
さらりと。
元気づけようとか励まそうとか、そういう大袈裟な感じはまったくない口調で。
「あそこにいると思ってたらいいんじゃないの」
「え?」
「いや、そのうさぎ。
そしたらそんなに悲しくないことない?」
もう一度、沈黙がその場に降りて。
でもそれは、あまやかな、と言ってもいいくらいに、甘くて心地いい静けさだった。

ふいに、直人に腕を引っ張られ、私と直人は二人、4人で座っていた玄関前の
階段の、その横の方にある、晴れた日に使うテラス席の椅子の方に移動する。
「こっちも綺麗に見えるよ」
「そうね。邪魔しちゃいけないし」
こそこそ、そんなことを言いながら、思いついて私は言った。
「・・・なんかあたしたち、あの二人のラブラブ度数を上げただけ?」
そう囁く私に、直人は言った。
「いいんじゃないの? オレたちのラブラブ度も上がってない?」
「え、そうなの?」
「そうでしょ」
「・・・そうかもね」

少しの沈黙の後で。
私たちは顔を見合わせて、くすくす笑った。


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