『日々の映像』

2010年06月10日(木) 報道は管内閣一色


社説:菅内閣に注文する 財政再建の道筋示せ
               2010年6月9日  毎日
社説:菅内閣に注文する 熟慮と信頼の外交を
               毎日新聞 2010年6月9日
菅内閣発足―「選択と説得」の政治を
               2010年6月9日  朝日新聞


報道はまだ管内閣一色なので、報道の代表として上記の社説を引用した。

菅直人内閣の顔触れが決まった。主要閣僚には、国家戦略担当相に側近の荒井聡氏、財務相には菅氏の下で副大臣を務めた野田佳彦氏を充てるなど、当面の重要課題である新成長戦略策定や財政再建に全力投球しやすい布陣のようだ。

日本経済は悪性デフレが続き、雇用環境も厳しいまま。財政は先進国で最悪の状況にある。 菅首相は「強い経済、強い財政、強い社会保障を一体として実現する」と抱負を語った。そのための増税や歳出削減をどれだけで来るのだろう。

管政権誕生で政権末期に比べ支持率は急回復したが予断を許さない厳しい船出である。就任後の会見で菅首相は「強い経済、強い財政、強い社会保障を一体として実現する」と表明した。「強い財政」とは増税を意味する。強い財政の焦点は消費税だ。

自民党は、当面10%に引き上げることを公約に盛り込む方針だ。民主党も本気で取り組むのなら、手をこまぬいていることはできない。私は増税論者でない。しかし、現在の財政状況では10%(約13兆円の税金増)に上げざるを得ないと思っている。
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社説:菅内閣に注文する 財政再建の道筋示せ
               2010年6月9日  毎日
 菅直人内閣が発足した。ときを置かず早速、参院選を迎える。前政権末期に比べ支持率は急回復したが、気の抜けない厳しい船出である。
 就任後の会見で菅首相は「強い経済、強い財政、強い社会保障を一体として実現する」と表明した。率直に言って、鳩山政権が残したものは「弱い経済、弱い財政、弱い社会保障」だった。どれも持続可能性に疑問符がついている。
 それを踏まえての決意表明と受け止めたい。だが、「一体」とはいうものの、まず「強い財政」に着手すべきであろう。すべての基礎だ。
 「コンクリートから人へ」そして「直接家計を温める」という民主党の経済政策は政治に清新の気を吹き込んだ。それによって経済格差を緩和し消費を喚起する。非効率な官僚組織の関与も排除する。ねらいはよかったが、結局のところ、財源不足で行き詰まってしまった。
 歳出削減やムダの見直しは広言したほどの財源を生まなかった。もちろん、歳出削減は常に必要だが、それだけでは予算が組めなくなっている。「強い社会保障」つまり持続可能な年金や健康保険、介護を実現する上でも、安定した財源が必要である。増税が避けがたいことを民主党も学んだと思う。
 自民党は参院選で「消費税率を当面10%とする」と公約する方針だ。民主党も中期的な財政再建計画を参院選前に明確に打ち出すべきだ。これは日本経済の今後を左右する課題である。政争と切り離し与野党協議で合意をさぐってもらいたい。
 そして「強い経済」。民主党は子ども手当などで家計を温め、税金で医療や介護の雇用を増やせば「強い経済」が実現できると考えているようだが、そうした需要サイドのテコ入れには限界がある。
 日本企業は国内で設備投資をしなくなった。生産設備だけでなく研究開発拠点まで海外に移しつつある。鳩山政権は産業界からは「反ビジネス」の政権とみなされ、その動きを加速した面がある。
 新政権は民間経済の活力を引き出すよう努めてほしい。国民新党との「今国会での郵政改革法案成立」の合意は逆コースだ。民間が自力で達成できる潜在成長率が年々低下していることにもっと危機感をもつべきだ。これは日本がジリ貧国家になっていることを示す。需要サイドとともに供給サイド=企業のビジネス環境の改善にも目配りが必要なのだ。規制緩和を大胆に進めよう。法人税など企業負担の見直しも検討課題だ。
 新規まき直し。「強い日本」の再現に期待したい。
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社説:菅内閣に注文する 熟慮と信頼の外交を
               毎日新聞 2010年6月9日
 新政権は重い外交課題を背負ってのスタートとなった。米軍普天間飛行場移設をめぐる鳩山前政権の迷走は日米関係にきしみを生じさせた。一方、東アジアの情勢は韓国海軍哨戒艦の沈没事件を機に緊張が高まっている。こうした中で、日本外交の急務は日本の安全保障の要である米国との信頼関係の再構築であることは論をまたない。
 菅直人首相は外交の基本方針として日米基軸と対中関係の重視を掲げている。前政権が目指した路線を基本的に踏襲するものである。ならば、鳩山外交がなぜ挫折したのかを総括し、その教訓を学び取ることから始めなければならない。
 鳩山由紀夫前首相は「緊密で対等な日米関係」と「アジア重視」を外交の2本柱に据えた。その目標設定は決して突拍子のないものではなかった。小泉純一郎元首相が「日米関係が緊密であればあるほど中国、韓国、アジア諸国とも良好な関係が築ける」と述べたように、自民党長期政権下の外交がとかく国民の目に「対米追従」と映っていたからだ。
 これに対し鳩山前首相は対米関係で「対等」を掲げ、その一方で影響力を急速に高める中国を中心とするアジアとの関係を重視した。
 だが、前政権は「緊密で対等」な日米関係が具体的に何を意味し、それを全体の外交戦略の中にどう位置づけるのかを提示し得なかった。現状を改善し目標に近づけるための大きな戦略と具体的な手順を組み立てることができなかったのである。
 鳩山前首相が退陣間際になって在日米軍の抑止力の必要性を明確に認めたことがそれを示している。普天間問題で自らが示した決着期限に迫られ、「最低でも県外移設」との約束をほごにして苦し紛れに米政府と合意したのが県内移設を明記した共同声明だった。一連の経過をみれば思慮が足りなかったと言わざるを得ない。
 菅首相はオバマ米大統領との電話協議で共同声明の履行を確認した。政府間の合意を尊重しなければならないのは当然だが、頭越しの合意に地元の反発と怒りは激しい。首相は引き続き大きな困難を背負うことになる。
 日米合意は代替施設の位置や工法の決定時期を8月末としている。首相は8日の会見で、その期限をにらみながら沖縄の負担軽減と地元の理解を求めることに並行して取り組む考えを表明した。
 今月下旬のカナダでの主要国首脳会議(G8サミット)の際のオバマ大統領との会談が菅外交のスタートとなる。まずは首脳間の信頼を取り戻すことに全力を傾けてほしい。
【関連記事】
毎日新聞 2010年6月9日 2時30分

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菅内閣発足―「選択と説得」の政治を
                 2010年6月9日  朝日新聞
 「20年間にわたる日本の閉塞(へいそく)感を打ち破る」。そんな目標を掲げて菅直人内閣が発足した。
 経済は低迷し、暮らしは厳しさを増し、人々をつなぐきずなはほころぶ。年金や医療の安全網が先々まで持つのか不安が募る。この閉塞感から抜け出すことは国民共通の願いに違いない。
 少子高齢化に経済のグローバル化、そしてデフレ。日本を取り巻く環境の激変に、政治は適切な手を打てず、あるいは後手に回ってきた。それが、閉塞感を深めたことは否めない。
 時代の変化に対応できない古い政治のモデルを新しい政治に切り替える。歴史的な政権交代はその絶好機だったはずだが、鳩山政権は古さと新しさを「仕分け」できないまま沈んだ。
 菅政権にはぜひそれを成し遂げてもらいたい。でなければ政権交代の値打ちが暴落し、日本の民主政治は取り返しのつかない痛手を負う。
 「強い経済、強い財政、強い社会保障」を唱える菅首相は、まず政治を鍛え直し、「強い政治」をつくることから始めなければならない。
■あれかこれかの時代
 古い政治モデルとは「分配の政治」である。右肩上がりの経済成長時代、自民党は成長の「果実」を全国津々浦々にばらまき、見返りに「票」を得て長期一党支配を固めた。透明で公正な「再分配」とは似て非なる利益誘導政治である。
 バブル経済が崩壊してすでに20年近く。果実の配分から負担という「痛み」の配分に、政治の役割が移ったと言われて久しい。当否はともあれ、「小泉改革」が試みられもした。
 しかし、長く続いた古い政治モデルの惰性は強い。昨年の総選挙での民主党の政権公約(マニフェスト)には、その名残が色濃く残った。その後の小沢一郎・前幹事長主導の政策遂行は、あからさまな選挙至上主義と大衆迎合の罠(わな)にはまった格好だった。
 新たな時代の政治とは、「選択と説得」の政治というべきものである。
 財源が細るなか、「あれもこれも」ではなく、「あれかこれか」を選び、重点投資する。足りない分は負担を求める。負担増となる人々にはその理由を説明し、納得を得る努力を重ねる。
 経済財政、社会保障だけではない。「国外・県外か県内か」をめぐり迷走した米海兵隊普天間飛行場の移設問題は、まさに政治指導者の選択と説得を対米外交と国内調整に動員することなしには解決のおぼつかない難題だ。
 鳩山由紀夫前首相は辞意表明にあたり、「米国に依存し続ける安全保障」に疑義を呈し、「日本人自身が作り上げる日本の平和」の必要性を訴えた。持論だったのだろう。だが、いかんせん遠大な問題意識と眼前の政策構想力、実行力との落差が大きすぎた。
 政治家にとって選択と説得は、苦しく厳しい作業になる。人気取りに逃げ込めれば、よほど楽である。しかし、もはや時代は待ってくれない。
■公約の見直し率直に
 今回の組閣や党役員人事で求められたのは、新たな政治の厳しい試練に耐えうる布陣である。
 菅首相は官房長官や、党の幹事長、政調会長といった中枢に、マニフェストの見直しに前向きで、説明能力も高い顔ぶれを据えた。この人たちの力量が本物なのか。与党内の異論を抑え、政治モデルを切り替えることができるかが、勝負になるだろう。
 マニフェスト見直しは死活的に重要だ。歳出削減だけで財源を捻出(ねんしゅつ)できないのはこの9カ月弱ではっきりした。財政負担の大きい施策を見直し、優先順位をつける。約束通りできないことを有権者に率直に謝罪し、これからどうするか説明し、参院選で信を問う。それで信認を得られれば、政策は格段に遂行しやすくなる。
 子ども手当は、当面は満額支給を見送るとはっきり書くべきだろう。財源がないのに満額にこだわり、保育所の整備などが遅れてはならない。
 とりわけ重要なのは消費税だ。自民党は、当面10%に引き上げることを公約に盛り込む方針だ。民主党も本気で取り組むのなら、手をこまぬいているわけにはいくまい。この点の書きぶりを全国民が注視するはずである。
 有権者に負担を求める政策では2大政党が話し合い、接点を探ることがあっていい。自民党がかじを切ったいまが実現の道筋をつける好機といえる。
■対話の新たな流儀を
 「選択と説得」の政治を定着させるには、国会での意思決定について新たな手法を開発し、与野党がそれに習熟していくことが不可欠である。
 政権交代が現実的でなかった55年体制では与野党が表面では対立しつつ水面下の取引で妥協も図られた。政治改革を経て民主党が成長すると、政権交代を賭けた与野党関係は先鋭化する。しかし、対立のための対立は不毛だ。
 必要なことは、対決すべき争点と話し合える争点を仕分けることである。後者では、与野党が水面下でなく公式の場で議論を重ね、歩み寄りを図る。それは憲法改正国民投票法をめぐる与野党協議などで兆しの見えた対話の流儀であり、決して夢物語ではない。
 こんな意味での「選択と説得」の政治は、連立か対決かという極端な二者択一の緊張も緩和するだろう。大政党が小政党に振り回され、政策決定が迷走する事態も減るに違いない。

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石田ふたみ