『日々の映像』

2010年06月08日(火) 国家の財政破綻を回避するには



菅首相:誕生 火中の消費税、意欲 「増税で成長」に布石 
                      2010年6月6日  毎日
社説:菅直人新首相 政治立て直す指導力を
                       2010年6月5日 毎日
余録:新首相のリアリズム
                      2010年6月6日  毎日
社説:菅新政権へ―財政再建が歴史的使命
                      2010年6月6日  朝日新聞

 日本経済に突きつけられた難題を前に、菅直人氏は4日の民主党代表選で「強い経済、強い財政、強い社会保障は一体として実現する方向性を示していきたい」と訴えた。その具体策が「増税と成長の両立」論。背景には、消費税増税を含む税制抜本改革論議への布石にしたいとの思惑がある。

 6月4日に書いたように消費税のアップは避けられない。「増税と成長の両立」論は、国家に視点を置いた考え方で、一般庶民は増税に苦しむことになる。国家の財政を優先するのであれば、消費税をただちに15%余りにする必要がある。この決断が出来る政治家がいるのか。国家の財政破綻を回避のためには増税するしかないのだ。しかし、その前に国民が納得するだけの徹底した無駄の排除が求められる。

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菅首相:誕生 火中の消費税、意欲 「増税で成長」に布石 「ばらまき」見直す可能性
                      2010年6月6日  毎日
 先進国で最悪の状況にある財政の健全化を図りつつ、早期にデフレから脱却、景気を回復軌道に乗せる−−。日本経済に突きつけられた難題を前に、菅直人氏は4日の民主党代表選で「強い経済、強い財政、強い社会保障は一体として実現する方向性を示していきたい」と訴えた。その具体策が「増税と成長の両立」論。背景には、消費税増税を含む税制抜本改革論議への布石にしたいとの思惑がある。【谷川貴史、久田宏】
 菅氏は1月の財務相就任後、増税を含む財政規律を重視する発言を繰り返すようになった。特にカナダで2月に開かれた先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議に初めて出席し、「ギリシャの財政危機について各国の議論を目の当たりにし、財政に対する危機感を強くした」(財務省幹部)。
 だが、財政再建のための歳出削減と増税を一気に進めれば、景気の腰折れにつながりかねない。そのため、ブレーンとして内閣府参与に起用した小野善康・大阪大教授の提言をベースに「増税しても使い道を間違えなければ景気は良くなる」との両立論を打ち出した。消費税などの増税で財源を確保し、環境や介護など、成長が見込める分野に重点的に投入。雇用を創出することで、安定的な経済成長が実現するという理屈だ。
 菅氏の首相就任を受け市場では「消費税増税の前倒しを検討するのでは」(BNPパリバ証券の河野龍太郎氏)との見方が広がった。また、小野氏が「バラマキ」を強く批判していることから、昨年の衆院選マニフェスト(政権公約)のうち、子ども手当など所得制限のない現金支給策は見直される公算が大きくなった。
 同時に、「財政再建への積極姿勢を、首相就任後も続けられるのか」(財務省幹部)との疑問の声も上がっている。連立を組む国民新党のほか、民主党内にも消費税増税に否定的な意見が根強い中、財政健全化の旗振り役だった財務相時代とは違って、与党内の調整に配慮せざるを得なくなるためだ。
 4日の会見では消費税について「過去の意見を変えるつもりはない」としながらも、「党の代表、総理大臣として、この問題について方向性を示していきたい」と、政府・与党内の意見を幅広く聞く考えを示した。6月の策定を目指す財政再建策や参院選公約、11年度予算編成で「強い経済、財政、社会保障」への道筋を示すことができるのかが焦点になる。
 ◇「追加緩和圧力」見方 身構える日銀
 昨年9月の政権交代以降、菅直人氏は国家戦略担当相、財務相としてしばしば、デフレ克服に向けた「日銀の努力」の必要性に言及してきた。昨年11月には、日本経済がデフレ的状況にあると宣言し、「デフレ傾向がこれ以上強まらないよう、日銀と十分意思疎通を図りたい」と指摘。08年秋のリーマン・ショック後の大幅な金融緩和の修正を模索する日銀をけん制した。
 宣言後もデフレは続いており、菅氏が望ましいとする消費者物価指数の上昇率(2%程度)を大きく下回っている。4月には、物価上昇率を金融政策の目標値として定める「インフレ目標」について「魅力的な政策」と発言。日銀内には「デフレ脱却を理由にした日銀に無理な注文が増える」との懸念が強まった。
 4月末の金融政策決定会合で日銀は、日本の経済成長力を高めるため、環境などの成長分野へ資金供給する異例の新制度導入を決定。「デフレ脱却に汗をかく日銀」(幹部)をアピールすることで、菅氏を中心とした政府・与党側の緩和圧力をかわす狙いがにじむ。
 だが、市場では「菅首相は輸出を後押しし、経済成長を促す観点からも円安を重視しており、日銀に(円安につながりやすい)追加緩和圧力を強める」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏)との見方が多い。財政再建が思い通りに進まなければ、インフレ目標導入や長期国債買い増しなどを迫られそうだ。【清水憲司】
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社説:菅直人新首相 政治立て直す指導力を
                2010年6月5日 毎日
 菅直人新首相が誕生した。迷走を極めた鳩山内閣が9カ月足らずで退陣し、民主党の政権担当能力への国民の信頼が大きく揺らぎ、2度の失敗が決して許されない中で国政のかじ取りを担う。
 前政権の失敗を踏まえ政権の性格が変わったことを示すためには小沢一郎前幹事長との二重権力構造を招かない体制を構築し、組織優先でバラマキ型に陥った悪弊を改めることが必要だ。危機的状況にある財政再建、揺らぐ日米関係の再構築など内外の諸課題で責任ある方策を掲げ、来る参院選で国民の審判を仰がねばならない。
 ◇「脱小沢」を徹底せよ
 「日本の行き詰まりを打破したい」。菅氏は国会での首相指名後の記者会見で難局にあたる決意を強調した。だが、人事、政策については総じて慎重な言い回しに終始した。
 今回、民主党代表選の焦点は、鳩山由紀夫前首相と共に役職から身を引いた小沢氏の影響力排除をどこまで示せるかにあった。菅氏の貫禄勝ちだったとはいえ、小沢氏と距離を置く姿勢を明確にしたうえで樽床伸二衆院環境委員長に圧勝した意味は大きい。最大勢力である小沢氏系グループがキングメーカーとなる構図は幻想だったとすら言える。
 とはいえ「脱小沢」の明確な指標は、党の要の幹事長人事だ。小沢氏と距離を置く枝野幸男前行政刷新担当相の起用を検討している模様だが、仮に小沢氏への配慮から見送るようでは政権の足元を見られよう。
 国会で首相に指名されたにもかかわらず、組閣を来週に先送りした対応も異例だ。体制構築にある程度の日数をかけることはやむを得ないが、危機管理上、本来は首相指名選挙も延ばすべきではなかったか。
 菅氏に求められるのはトップの言動への信頼を回復するリーダーシップの発揮である。市民運動からスタートし、さきがけなどを経て旧民主党結党に参画した菅氏は非2世議員で、自民党に所属した経歴も持たないという近年の首相にないユニークさを持つ。ここ数代、ひ弱で資質が問われたリーダーたちとは異質のしたたかさを期待したい。
 だからといって、国民の菅氏を見る目が決して温かいわけではあるまい。鳩山内閣の副総理としても存在感を発揮したとは言い難い。かつて厚相として「薬害エイズ」に切り込んだ改革者のイメージを取り戻すには、前政権の路線継承を強調するだけではいけない。政策や政権運営の見直しを果断に進めねばならない。
 組織票対策があらゆる政策課題に優先したかのような選挙至上主義を捨て、開かれた党運営に改めることが大切だ。「政治とカネ」の問題も真に政界の浄化を目指すのであれば小沢氏らが説明責任を果たすことはもちろん、企業・団体献金の全面禁止など結果を見せねばなるまい。
 「脱官僚」の政治主導が機能しなかった総括も必要だ。政治家と官僚の役割分担を整理し、意思決定をスムーズに行う仕組みを再構築すべきであり、菅氏が会見で官邸体制の再構築に言及したのは理解できる。鳩山内閣では首相が政務、小沢氏が党務を分担する仕組みが機能せず混乱した。政権交代と同時に廃止された党政調を復活させることも賛成だ。
 ◇責任ある公約示せ
 内外の政策課題でまず直面するのが政権崩壊の要因となった沖縄・普天間飛行場の移設問題である。菅氏は辺野古沖に移設する日米合意を踏襲し、沖縄の基地負担軽減に取り組む姿勢を示した。だが、沖縄県や名護市の同意が得られるめどは立っていない。その一方で、8月末に工法など具体案の策定を迫られる。
 仮に調整に失敗すれば普天間飛行場の固定化という最悪のシナリオを招きかねない。当面の危険除去の検討を急ぐことはもちろん、首相自ら早期に沖縄に行き、失われた信頼関係の構築を急がねばならない。
 財政も危機的状況にある。菅氏はこれまで消費増税積極論者だったが鳩山前首相の「消費税4年据え置き」との方針を果たして見直すのか。指針を示さなければ、責任ある政治とは言えまい。
 その意味で、重要なのが参院選で有権者に示す党の公約だ。さきの衆院選で掲げたマニフェストはバラマキ型の内容ですでに財源の骨格が破綻(はたん)している。誤りは率直に国民に謝罪したうえで、実現可能なプランを示さねばならない。
 参院選は本来、鳩山内閣の中間評価の場となるべきだった。菅氏が小沢氏と距離を置けばその分、9月に任期満了を迎える代表選のハードルは高くなる。参院選である程度の結果を示せなければ政権運営が立ち行かなくなる事態も十分にあり得る。そうなれば民主党の政権担当能力が今度こそ問われる。
 一方で、自民党など野党も戦略の練り直しを迫られる。逆風が吹く鳩山内閣の下での参院選突入を本音では期待していた向きもあった。だが首相交代を受け、単純な与党批判から一歩踏み込んだ政策論争が選挙戦で求められよう。
 鳩山前内閣の混乱と挫折を決して無駄にせず、教訓として生かすべきだ。それは、与野党が共通して国民に負う責務である。
【関連記事】


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余録:新首相のリアリズム
                      2010年6月6日  毎日
 「政治家は嫌われてもいいが、なめられたら終わりだ」−−おとといに続いてまたもマキアベリの「君主論」の引用かと、あきれないでいただきたい。これは第94代首相に選出された菅直人氏が周囲の人々にもらしていた言葉だという▲「君主は愛されるより恐れられる方がはるかに安全だ」「君主が厳に戒めるべきは、人にさげすまれることと、恨みを買うことだ」。こちらは本物の「君主論」だ。新首相はマキアベリに権力のリアリズムを学んだらしい▲元市民運動家からイメージされる理想主義より、むしろ「マキアベリスト」「プラグマチスト(実用主義者)」との評が聞かれる新首相だ。常ならば権謀術数を連想してまゆをひそめる方もいようが、今はむしろ頼もしく聞こえるのは前政権の失態を見たからだろう▲いや前政権ばかりではない。ここ何代か政治家の2世、3世の首相のひ弱なリーダーシップと、その惨たんたる首尾を見せられてきた国民である。久しぶりに迎えた「たたき上げ」の首相に、袋小路に入り込んだ政治を打開する力業を期待したくなるのは成り行きだ▲国政選挙の落選3回、党代表選では4度敗北を喫し、代表としての挫折も2度くぐり抜けた新首相だ。「七転び八起き」そのまま8度目の代表選びに臨んで極めた国政の頂点とあれば、もう怖いものはなかろう。まずは党と内閣の人事でその腕力を示さねばならない▲こと「愛されるよりも恐れられろ」というマキアベリズムでは年季の入った与党内勢力を抱える政権運営となる。ここはタフなファイターとして政治を率いる首相というものを久々に見てみたいものだ。

社説:菅新政権へ―財政再建が歴史的使命
                        2010年6月6日  朝日新聞
 この国の経済と社会を立て直すために、政治は何をすべきか。菅直人新首相と新政権に突きつけられているのは、そのことである。
 経済は長きにわたり停滞を続けている。デフレ下で財政赤字は危機的水準に達した。人口減と超高齢化が進み、成長への期待はしぼんでいる。
 未来に夢と希望をもてる社会を取り戻さなくてはならない。そのために必要なのは、甘い幻想や空疎なスローガンではない。厳しい現実に立脚した、勇気ある政策の断行だ。
■不人気から逃げるな
 そして、この国のリーダーに求められているのはそれを成し遂げる覚悟とビジョン、改革の意思を国民にしっかりと共有してもらうことだ。
 菅氏も、みずからに課されたその使命を理解しているように思われる。「強い経済、強い財政、強い社会保障」。それを一体的に実現する、と何度も訴えた。
 昨年の政権交代に託された民意についても、「経済の低迷などの閉塞(へいそく)感を打ち破ってほしいという思い」だと、新首相としての初会見で述べた。
 重い課題を達成するのに必要なことが二つある。第一に、財政と社会保障の基盤の立て直し。第二には経済の構造を変革し、新しい産業と雇用を生み出す成長戦略を描くことだ。
 国民の負担増は避けられない。世界で例のない超高齢化によって、すさまじいペースで膨らみ続ける社会保障費をまかなうには、国民にも痛みが求められる。裏付けとなる財源の手当てをしなければ、制度自体が維持できなくなってしまうからだ。
 ところが自公政権の時代から、政治は不人気政策から逃げてきた。「4年間は消費税を上げない」とした鳩山政権もそうだ。その結果、政府の借金は毎年40兆〜50兆円ずつ積み上がる。
 
■参院選で消費税問え
 この借金漬け財政はいつまでもつのか。年金や医療の未来は大丈夫か。ギリシャの財政赤字に端を発したユーロ危機が世界を揺さぶるのを目の当たりにして、不安を抱く国民が増えているのはむしろ当然だろう。
 不安は消費意欲をなえさせ、停滞の要因ともなっている。とはいえ、財源確保のために増税すれば景気を失速させかねない。歴代政権が苦しんだのもそのジレンマだった。
 ところが菅氏は4月、旧来の常識を破り「増税しても使い道を間違えなければ景気は良くなる」と、消費税増税に前向きな発言をした。財務相に就いた半年前には「逆立ちしても鼻血も出ないほど無駄をなくしてから議論する」と言った菅氏の豹変(ひょうへん)だった。
 この転換は、責任ある国家運営に乗り出そうという意欲の表れだ。ひとつのきっかけは2月の主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)だったようだ。欧米の当局者から直接、日本経済への厳しい見方を聞かされたことが強烈な体験となったに違いない。
 菅氏はその後、財政健全化法の制定や、来年度予算での新規国債発行枠の設定にも積極的に動いた。
 先進国で最悪の借金体質にある日本の財政にユーロ危機で国際的な関心が向けられた。子ども手当をはじめ政権公約の財源について、民主党は事業仕分けで捻出(ねんしゅつ)できると説明してきた。現実はそう甘くはなかった。
 逆に、増税先送りでは済まないことが浮き彫りになった。それが、菅氏豹変の背景にはある。
 菅氏は橋本龍太郎氏以来、久々の財務相(蔵相)を経た宰相となる。橋本政権は21年間の消費税の歴史で唯一、税率引き上げを実施した。菅氏の課題もまた、先進国で最低水準の租税負担率を引き上げることだ。これは歴史の巡り合わせかもしれない。
 夏の参院選に向けて自民党は、消費税を現行の5%から当面10%に引き上げることを政権公約に盛り込む方針を打ち出した。熱い論争を期待する。
 新たな国民負担を求めて納税者を説得するには、その財源を使う政策の優先順位の明確化、与党の結束といった政権の強い統治能力が不可欠だ。
■険しいが「第三の道」
 資源もエネルギーも乏しい日本の国民が稼ぎ食べていくには、経済競争力の回復が欠かせない。そのために新政権は手を尽くさねばならない。
 日本は「世界第2位の経済大国」という金看板を、今年にも中国に譲る。だが日本には環境分野をはじめ世界一と言われる技術力がある。その強みを生かし切るには、日中韓や日米の自由貿易協定を早期に結び、市場統合を進めることから逃げられない。
 菅氏に期待したいのは、自らの言葉と信念を成長戦略にも貫き通すことである。「第二のケインズ革命」に言及し「カンジアン」とも評される菅氏の経済政策の原点は、初めて現在の民主党代表になったときに掲げた「最小不幸社会」の哲学だ。
 不幸な人をできるだけ少なくする社会。それは自民党流の公共事業に寄りかかった政策でも、規制緩和と市場での競争を優先しすぎる路線でも実現できない。だから社会保障を軸に政府の役割を重視しつつ、医療や介護、環境エネルギーなどの産業を育成し雇用を増やす、という菅流「第三の道」。
 政権を取ったあかつきに、と蓄えてきた理想を実現するために苦闘する日々が始まる。

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石田ふたみ