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2003年06月20日(金)
『黄色い本』by高野文子

高野文子さんはうまい。20年も前『田辺のつる』のときからすでに完成していた。
しかし私はどうしても彼女の作品に素直に入っていけないのだった。
いったいなぜだろう。今日読んだ『黄色い本』も、
細かい日常の描写が丁寧に積み重ねられ、その中で主人公の女の子が
本の世界に浸り、日常と本の間を行き来する。
その浮遊感が作品の中にとらえられているのは奇跡のようだ。
編み機の音、明りをつけたあとの窓の外の暗闇。
雪道を歩く時の足音と空気。ミレーの晩鐘のイメージ。
すべて私の記憶の中にも存在する。思いもかけない共感を呼び起こされるのに
私は高野さんの中には入れない。作者と自分とのこの距離は、私の側の問題か
それとも高野さんの人との距離のとり方なのか。

『チボー家の人々』は小学6年生の時からの課題図書だ。
小学校を卒業した時に、担任の先生が下さった本が『チボー家のジャック』で
本の見返しに、「『チボー家の人々』も読んでみてください。」と添え書きがあった。
この『黄色い本』を先生に贈るのもいいかもしれないとちょっと思った。
この本の主人公はたぶん、先生と同じ年代だから。