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漫画関連ファイル


2001年04月19日(木)
『ジェラールとジャック』第2巻 その3

今日、道を歩きながらつらつら考えていたのですが、
いったいなぜ、この話がこんなに気になるのか。
今までの、よしながさんの作品とどこが違うのか。
そしたらちょっとだけ考えがまとまりました。
(この先ネタバレ 要注意)

お話の最後にジェラールの独白がある。
最初に見たとき、流れとしては、自然だけど、
どうしてわざわざこのシーンがあるんだろうと不思議でした。
自分を裏切って、子どもを捨てて死んだわがままな妻の墓の前。
愛するあまり裏切りが許せずに妻を憎んでいたジェラ−ルは
墓に向かってこう言います。
これまで、憎んでいたものたちを許そう。
独裁者や密告者や妻や妻の愛人を許そう。
妻を許せなかった自分を許そう。
(ここから引用)
『ジャック、お前を愛さなかったら
 俺は今でも自分を許せなかった』
(引用終わり)

お話は、両親の借金のカタに売春宿に売られた
貴族の少年ジャックが、平民のジェラールに身請けされるところから
始まります。ジェラールのもとで、ジャックは下男として働き
教育を受け、同時にジェラールのことをよく知るようになる。
お互いの欠けたところを補うように惹かれあって
そしてハッピーエンド。
表面的にはジャックの恋が成就していく過程のように見えるのですが
両親に捨てられた子どもであるジャックが、救われていく様子のように
見えるのですが、それは同時にジェラールにとっても救いであった、と。
数ある愛情不足の物語の中で、これくらい明確に
再生を宣言したお話は、これまでなかったんじゃないかしら。
ほとんど確信犯的独白シーンかもしれない。

お話しを夢中で読んでいる子どもたち、大人たちの中に
ゆっくりとこの言葉が浸透していくのかもしれないと思います。
気づかないくらいさりげなく。
そして、よしながさんの描くベッドシーンはとてもハードなんだけど、
気持ちいいものとして描かれている。自分の快楽を恥じる必要はない。
相手を愛することの表現としてのセックス。
これも自然に読者の中に受け入れられていくのかも。
頭と心と体のどれもが満たされていく、そんなお話ではないかと
思ったのでした。