TOP 最新の記事 戻る≪ I NDEX ≫進む


漫画関連ファイル


2000年09月12日(火)
『砂の上の楽園』 by 今市子

2、3年前に描かれた短編を集めた本です。
収録作品は『砂の上の楽園』『僕は旅をする』『雨になればいい』『夜の森の底に』
表紙が異国風で、いったいどんな話か見当がつかず、
買おうかなどうしようかなあ、と思っていましたが、
読んでみたらさほど違和感なく表題作も楽しめました。
『砂の上の楽園』は長編読みきりにするには惜しいようなストーリーとキャラクター。
ああ、もったいない、いくらでも伸ばして話が作れそうなのに。
砂漠のオアシスの描写の一こまが、どこまでも丁寧に描かれているので
もう少しゆとりがあったら、その場所にトリップできそう。

子供の頃は、わずかな描写で十分その場所に入っていけたものだけれど
このごろでは、それが難しいのはなぜでしょう。熱中して読んでいてふと気がつくと
自分の部屋だった、、、みたいな読み方はなかなかできなくなってしまいました。
でも、この本はちょこっと、その感覚を呼び戻してくれるような場所がいくつかあって
お買い得だったわ。

表題作以外の3編は、こわい。
『百鬼夜行抄』じゃないのにこわい。
弟がふっといなくなったあとの、部屋の描写を淡々と描かんといてくれ
と言いたくなってしまう『僕は旅をする』
このあといったいどうするんだ〜という所で終わっている『雨になればいい』
たっぷり満足できる『夜の森の底に』
私は最後の話が、なぜかとっても気にいって何回か読み返しました。
ちょっと『ひいなの埋葬』を思い起こさせるシチュエーション。
いろんなものが盛りだくさんにつまってる怖い話。

「グレンスミスの24ページの呪い」(←今市子特集号より)は、
けっしてマイナスに働いているんじゃなくて、いつかあれくらい短くて深いお話を描くという
決意になってるんじゃないかしら。