MUSIC春秋
目次前日翌日
 2009年06月22日(月)
思い出づくり




この日記にも
昔の話を書くことが多いけど
日頃友達と話す時にも
私は思い出話をすることが多い。
自分のそんな所を恥ずかしく思っていた。

日記に書かずとも
友達に話さずとも
日々、空いた時間に一人
過去のことを思い出すこともある。
楽しかったことも悔しかったことも
過ぎ去ったことを振り返ってばかり。
私はやっぱりダメ人間なんだろうか。
そんな風に考える時
思い出す人がいる。

前の職場で私は
派遣仲間の女子たちの愚痴や悩みを聞くことが多かった。
その日も勤務中に呼び出され、内緒の話を聞くために
二人の後輩が待つ女子休憩室に入り、
小さな丸テーブルを囲んだ。

そこへ入って来たのがJさんだった。
Jさんはベテランのアナウンサーで
優しくて穏やかで聡明で、
人の悪口や愚痴など決して言わない人だった。
ちょっと気まずい感じになりながらも
私たちはどうぞどうぞと彼女を迎え入れた。

隣のテーブルについたJさんは
「一緒に食べない?」と
手に持っていた大きな菓子パンを
人数分にちぎり始めた。
そんな、それはJさんの食事でしょう?
だめだよ足りなくなっちゃうよ、
と私たちが揃って遠慮した時、Jさんは言ったのだ。
「いいの。私、思い出作りがしたいの。」

それならば、と私たちは
みんなで菓子パンを食べながら
しばらくにこやかに談笑し
結局本来の話題は出る幕がないまま、また仕事に戻った。

その数か月後、私は
派遣の契約を切られてその職場を去る。
あの日の休憩室での出来事は
今では私の思い出になり、
Jさんのあのセリフは
思い出以上の大切な言葉になった。

生きることは思い出作りなのではないか。
振り返るな、前を向いて生きろ、と
人はそれが正しい生き方であるかのように言うけれど
自分は今なぜここにいるのか
過去があったからここにいるのではないか。
出会った人、
聞いた言葉、
思い合ったこと、
感じたこと、
誰かと、何かと、
影響し合い、変化を重ねて今の自分がいる。
もはや希望と呼ぶには無理がある、
不確かな未来の前にひとり立ちすくむ時
それは支えにはならないと言える?

半年後
Jさんもまた理不尽な人事異動によって
その職場を去ることになる。

私がお腹を壊した時も
ロッカールームで泣いていた時も
なんでもない時も
いつも優しかったJさん。

あの日の私は
Jさんの思い出になれたのだろうか。



目次前日翌日

MY追加mail