私季彩々
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沈静、横臥、麻酔。区別は曖昧だが用いる薬は々。量の問題である。もちろん薬種によっては到達できる深度は異なる。飛び越えて、さらに深みに入る場合もある。いわゆる不可逆的な「死」である。
意識の鈍化、無痛覚、無反応。行動の鈍化、起立不能、反射喪失。意識があっても反応が無ければ手術は可能である。痛くても切られるなんて、そんな拷問もあるのだろう。一般に、痛覚を失えばそれに応じた反射も消える。 が、目の手術などではメスが見えているということも有るようだ。痛みは無いが見える。なかなか壮絶なものである。
で、保護された鹿を野に返そうと、麻酔を考えた。鹿は牛に近い。であれば、牛では強力に効いてしまうキシラジンがいいだろう。量は・・・、犬猫で使う分で十分らしい。沈静・・・、横臥・・・、とりあえず横になってもらおう。体重は80kgとして0.4ml。いや、少ない。 で、鹿はおびえて蹴りにくる様子もなく、あっさり筋注終了。効き始める10分間を静かに待つも、意外としっかりしている。この薬、本来麻酔薬ではない。追注の準備をしている間に倒れた。しっかり効いている、というか効きすぎな雰囲気である。
結局、郊外の水源地近くに放した。途中、ようやく首をもたげた鹿は、脚を曲げて佇んでいた。毛並みはよく、耳も汚れ一つない。ダニ一つついていない。蹄は柔らかく、牛のそれよりもしなやかだった。野生の美しさ。
軽く叩くと、立ち上がった。ふらふらしていたが、倒れることはなかった。そのまま少し離れたところでじっとしていた。腹まで達する雪は冷たかろうに。生き延びることは容易くない。
麻酔一つとっても簡単ではないが、獲たものは非常に大きい。出来ることはそれなりに有るものだ。何となく、あの鹿の目を見ながら、少し脂っぽい毛をなでながら、考えた。その後食べた食事屋で手を拭いたら、手拭は随分と黒くなった。それは何より嬉しいことでもあった。
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