私季彩々
DiaryINDEX|past|will
夜の地下鉄。うつむいている女性。低く聴こえる嗚咽。泣いているようだ。いかにも今風な女子高生達がその様子を見て笑っている。潜めているつもりなのかもしれないが、その声ははっきりと周囲に響く。 泣いている女性の隣に座っている女性。まだ若いが少し化粧が濃い目。彼女はハンカチをそっと彼女の膝に乗せ、制服姿の女子高生達を隣の車両に押しやった。
彼女は泣いている女性と同じ駅に降りた。女性は礼を言いつつ階段を上る。「大好きな人が死んでしまったの」。そう言った女性の声に歩みが止まる。泣き止んだその女性とは逆に彼女は泣き始めてしまった。 二人は改札口を出た隅に立ち止まって少し話をした。大好きな人が死んだ。彼女も3年前、セーラー服を着ていた頃に大好きな人を亡くしていた。同じ経験を感じ取ったのか、歓楽街を潜み進む地下鉄の中で、二人は交差した。悲しみを押さえ込むために傷つけた古傷が、肩口にあることを思い出した。
地下道から出ると、つるつるに凍った足元に集中する人波。誰もが気を引き締めて、誰にも関心がない。けれど、その中に悲しみにくれる人がいる。見えないだけかもしれないが、見える瞬間もある。
「さっき私は見たんだ」
彼女は家路につく。仕事を失い、急場の支出に戸惑い、ススキノの店の面接結果はいまいちだ。でも、こんな仕事いつまで続けれるのか、もっと他に何かあったはずなのに。そんな想いばかりに沈んでいた彼女から最後に聞いた言葉は、「今日は素敵な1日だった」。
そんな素敵の一滴で、人は幸せに眠りにつける。そのおすそ分けを頂いて、私は少し長い夜を延長した。
Home&Photo
|