私季彩々
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一度降り立った雪は樹々に纏う黄色達に溶けて、森の風通しは一段と良くなった。さらに一段本格的な冬がやって来る前の静けさは、溜め池の水面に浮かぶカイツブリの波紋も封じ込めたよう。
「どこから来なさった?」 立ち去ろうとする私に声をかけたのは、初老風の男性。使い古したリュックはぴったりと背中に隙間なく接して、この森となじみである事を伺わせた。
私はこういう機会が大好きである。特に自らのフィールドについて語る老人は大好きだ。昔話が連続した生きた経験であることがまず間違いない。 動き出した鳥達の波紋が小さな溜め池を広がっていく。白い一羽が羽ばたいて、話は進んだ。親父と歩いた豊平川河川敷、山スキーに明け暮れた青年期、この近くに居を構えた頃、孫とそりすべりを楽しむ冬が来ることを喜んでらっしゃった。
「小さい頃から親父に歩かされて。河川敷を歩くなんて、当時は誰もそんなことやってなかったさ。でも気がつけばその通り今日も歩いてるさね。」
池のそばの小さなプレハブから管理人らしき人が帰っていった。時間を持て余した人間達が、一人は生業で、2人は景色を愛でつつ。 太陽は木々の線に差し掛かり、赤味を増していく。 「毎日6kmは歩いているね。いいところに住んだと思ってるさ。」 先日の霙交じりの雨で水量が増した池から、少しづつ流れる水音が響く。徐々に凍り付いて、雪原に帰っていくことだろう。
「そろそろ戻りましょうかね」 当然のようにご一緒しつつ。歩を合わせようと気を使ってみたが、その必要がないほどの健脚。70歳を越えているというのに。歩きつづけてきた人というのは、例外なく健康だ。大腸癌で入院されていたことがあったというけれど。
駐車場でお別れ。名残惜しいと思いつつ、さらにすたすた歩いていかれた。これから買い物をして30分の街歩きとのことだ。
閑静な住宅街に連なる森の入口に、冬になるとやって来る梟はまだいない。翁はその身代わりに語りかけてくれたのでしょうか。 冬はすぐにやってくる。思えば、長い長い冬。
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