KALEIDOSCOPE

Written by Sumiha
 
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  鳴り響く鐘の音は何の始まりを告げているの


2004年10月18日(月)
 



アルファベット26のお題

D. dally(もてあそぶ)/前編

 殻が割れたら早かった。
 一日一日と成長が目に見えて明らかなのだ。
 殻を割った日は(人間の)手のひらに乗せられる大きさだった。翌日には片手に収まらず両手に乗せてちょうど良い大きさだった。一週間後には手で持てなかった。
 これが通常のエンシェント・ドラゴンの成長過程なのか、それとも彼が特別なのかはわからない。エンシェント・ドラゴンを育てた経験が無いから。ゴールド・ドラゴンならまだしも。育てた経験はやはりないが、己の成長過程なら覚えている。自分と比較すると異常に早い速度で成長している。
 たとえ同じ竜族でも何もかもが同じではない。外見の特徴、性格の特徴、魔力のキャパシティなど。あくまで同族ではなく同属、違いは明らかだ。
 ゴールド・ドラゴンはここまで早くない。人間の数え方で言うなら五百歳程度までゆるやかに成長する。百歳でも半人前だ。彼の成長ぶりが如何に異常か、比べるとよくわかる。
 一ヶ月もたてば言葉を覚え魔法を使えるまでに成長した。人間にも変身できる。角がなく髪が長い。背は自分を追い越している。外見年齢は初めて会ったころの彼とちょうど同じくらい。いまはそこで体の成長を止めている。
 たしかに面影を残しているのに。全く知らない他人に見える。
 彼には記憶が無い。生前の、いや生まれ変わる前の。
 なにも覚えていない。ひとりの人間の女魔道士に、竜族に、世界に憎しみを抱いていた彼は。きれいに過去を忘れ去っている。
 実際、別人なのだ。異世界の魔王と同化した彼とは。
 違う生を歩み違う道を選ぶ。愛されるために生まれ愛するために生きる。きっと彼は、これからそう生きる。
 だから私は彼をヴァルと呼んだ。ヴァルガーヴではなく、ヴァルと。
 魔族だった彼はもういない。憎しみに心を支配された彼はもういない。運命に徒に振り回された彼はもう、どこにもいない。
 日記を閉じる。彼を育てると決意した日から毎日書き続けている。ほとんど彼の成長記録だ。そして少し、自分の話を。
 彼が新しく生まれた日を思い出す。同時に、彼の生い立ちを。
 凄惨を極めた生だった。希望を二度も潰され、絶望に追い詰められた日々だった。
 だがそれは過去だ。現在ではなく、ましてや未来でもない。
 だいじょうぶ。彼は二度と道をたがえない。素直にまっすぐ育っている、彼なら。なんの心配も要らない。
 ふと机の上のインク瓶が目に入る。
 ――――そう言えば。ひさしく手紙を書いていない。
 居場所がはっきりしているのは一人だけ。ここから遥か遠く離れたセイルーンにいる第二王女だ。彼女に手紙を出せば、本当に届けたいひとに届く。届けてほしいと伝えなくても届けてくれそうだ。
 それとも届ける必要なんて無いかしら。
 ひょっとしたら王宮に入り浸って周囲の顰蹙を買っているかもしれない。破天荒で常識を無視した行いを平然とできるひとだから。
 だから。彼を、生まれ変わらせられた。
 あのひとだから彼の道を新たに示せたのだ。
 びんせんを広げ羽根ペンを滑らせる。未来を象徴するように軽快に走った。

――つづく。
稿了 平成十六年十月十四日木曜日

これで終わってもいいんですが続きます。長くなりそうなので一旦切って、続きは後日。ここで切れてもお題には反しないんですよね。でも書きたい場面は次にあるので。

お題のひそかな野望。(書いてる時点で公表してるという突っ込みは却下の方向で)お題の言葉自体を作品に一度も用いずにお題を表現すること。今回の前編では成功してますが、後編でいきなり挫折します。いいんだあれが書きたかったから。Eは頑張る。



BGM
鬼束ちひろ
INSOMNIA
(寝る前はラルクと鬼束嬢と交互に聴いてます)
 



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 廻れ廻れ独楽のように  
 止まった時が命尽きる時  
 廻れ舞えよ自動人形 
 踊り疲れて止まるその日まで