羊日記
もくじのような/ちょっとまえ/これよりさき
| 2004年09月08日(水) |
こうだったらいいのにな(←漏れてます) |
あー…また、
と、
相沢はあけっぱなしのドアの隙間からスイッチを切ろうとして。 リビングの留守電の、着信に気がつく。二台ある電話の、自分のぶんだ。 くるくるとナビダイアルを回して、液晶に相手先を表示させる。
底抜けに明るい笑顔しか、見せない女だったんだが。 キャリアと呼ばれる連中は、確かにひとでなしと呼ばれるようなことだって…そうだ、いままさに大量殺人犯の捜査に加わっている自分だっておなじだ、
いつのまに さみしい顔ばっかり お互いに見せ合わなくちゃならなくなっちゃったんだろうね、
恋人になるには親しすぎた彼女は、珍しく愚痴めいて眉根を寄せて。 だけどそれでもくすりと声をだして笑ったのを、綺麗な女だ、そのとき相沢は思った。 彼女が、離婚届を出したその足で当時相沢の詰めていた現場を偶然通りかかったと食事をともにして。 その帰り際にその事実を知らされた、そのときただ一度だけ、 相沢はこの女のとてつもない存在感に圧倒されたのだ。
知り合ってすぐの学生時代にも、 卒業してからも、 結婚式のときも、 松田との生活をおくっているときでも。
そんなふうに相沢は感じたことがなかった。 確かに人並みはずれて顔立ちは整っているのに。 自分と同じようにキャリアを積み重ね順調に庁内での地位を上げ、 家庭二の次で男勝りだったには、違いない、 の、だ、けれど。
どうしてだろう。
相沢はその時、ああ、そうか、このひとは確かに昔から綺麗な女ではあったのだと、 はじめて気がついたようなこころもちになってその、心境の変化というものに自ずから目を逸らしたい、とすら思ったのだった。
それとも、松田にはいつもそんな顔をみせていたのだろうか。
別れの理由を、松田から聞くことはなかった。
家の電話に掛けるには、非常識過ぎる時間だ。 だけど自分達のような職業に常識非常識と線引きのできる時間帯なんてあるだろうか? …現に相沢自身も、携帯ですらとれるときにしかと『れ』ない、のだ。
そして彼女も。
ピ・ピ、 リダイヤルを押して数度コールする。
「もしもし」
「あー…ゴメン相沢。遅番だった?かけなおしてくれなくてもコッチから掛けたのに」
「いやもう…今 全然帰れてないし」
「松田も?」
「ああ」
しょうがないなあ、 と、受話器の外でちいさく聞こえた。
「どうせ相沢も松田も、ろくにごはんも作ってないんでしょう」
「…」
「黙っても駄目。」
「…悪い。」
「どうせ松田、また満ちるの写真見て泣いたりしてんでしょう」
「…」
「いいのよ」
見透かされたようにさっき電気を消し損ねた、布団からはみでた手の。
その、横の。
「満ちるは元気よ。」
心配ないと伝えて。
彼女は言った。
「ああ。そっちの現場も忙しいんだろ」
「そうね、こんな時間なのにまだシャワーも浴びられてないのよ」
「そいつは大変だ――せめてこっちどっちかが非番の時くらい、満ちるちゃん寄越せよ」
「そうね、助かるわ、相沢。ありがと」
「俺も寝るわ。なんかいまアッチで酔っ払って寝てるの見たらむかついてきた」
「あはは、そうよね、松田ってばいつもそうだわよね。あたしのぶんも蹴っ飛ばしといてよ相沢。……ありがと。仕事以外で会話してなくて限界だったから、電話かけてきてくれてほんと助かった。おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
相沢は受話器を置いた。 もういちど、居間に隣接する松田の部屋のスイッチを、押す、まえに。 フローリングに脱ぎ散らかしたままの靴下の上の、写真を拾い上げた。
満ちる。
こうやって写真の、過去の彼女をみると松田の面差しに似ていないこともない。 近くで見ている時には、一度だってそんなこと思ったことがなかったのに。
(推定無題3)
松田は離婚歴があればいい。 彼女が相沢と同僚だったりするとなおいい。 酔っ払って泣きながら娘の写真を握り締めて寝たりとかすればいんだよ松田は! 因みに満ちるという名前は月繋がりで…すいませんすいません。
という欲望と妄想の馴れの果てが漏れ…… ・・・・・・・
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