三日連休があるとうれしい。 金曜日の夜は安らかによくねむり、土曜日の朝には宅配を受け取って、午後髪の毛を切った。 髪の毛を切ってくれるひとが、ムダ話をたくさんしてくれた。
ラムネのビー玉はなぜビー玉というのか? コンバースの靴にはなぜ穴が空いているのか? 信号機で鳴る鳥の音の種類が分かれているのはなぜか?
などなど。このひとも誰のためにもならないムダ知識を蓄えているタイプの人間なんだな。 ふと、食べ物は何が好きなんだろうと思って尋ねてみると「みかんです」という返答が返ってきて、すこし笑ってしまった。どう見てもこのひとから「みかん」という単語が発されるのは違和感がある。 よくよく聞くと、果物全般を皮をむかずに食べているという。
「すいかを食べているとき、種を出さないといけないのが面倒だなあって思ったんだよね。小学生のとき。そこから、種ごと食べちゃえば面倒くさくないよなあって気がついて。果物も皮むくの面倒くさいから、じゃあ皮を食べちゃえばいいなあって思って。だからみかんもキウイも、皮ごとそのまま食べてるよ」
「じゃあバナナはどうでした?」
「あれはさすがに食べちゃいけないやつだったね」
髪の毛を切り終えたあとは、渋谷で城くんと落ち合い話をした。 彼のとった映画が映画館で流れるかもしれず、それに向けて色々準備をしているらしかった。 けれど、自分の映画がとある一部の人間にまったく評価されなかったことに対し腹を立てていて、だからクロックムッシュとか牛丼とか、とにかくたくさん食べちゃったんだ、と鋭い眼差しで話していた。 クロックムッシュに卵は入っていたんだろうか、と尋ねると「たまごとチーズが入っていた」とのこと。
その後は渋谷の本屋をブラブラし、中国の小説を買って読む。 1時間くらいしてからメガネの井上が現れたので、台湾料理を食べてから一緒に渋谷のツタヤへ向かいdvdを借りた。その日の夜はクリント・イーストウッドの『許されざる者』を観る。 いつものごとく井上は途中で寝落ち。 わたしはというと、映画を見終えたのちに見た夢でディカプリオを射殺していた。思いっきり映画の内容に感化されてしまったらしい。(レオ様に「お願いだ!上から巨大な氷囊が落ちてくる。その前に殺してくれ!とせがまれて、こんなことになった。一体どんな状況なんだ…)
土曜日、どんよりした曇り空。12時過ぎに目覚めたのち、腹ごしらえにインド料理屋に行く。あのお米の料理を食べたが、食べ物の名前を今すっかり忘れてしまった。インド料理屋で流れていた、くだらないテレビ番組を見ていたら悲しくなった。スポーツ選手が持っている軽井沢の別荘で、家政婦のスペシャリストが冷蔵庫のあり合わせで豪華な料理を作るという企画。トマトにモッツァレラチーズを挟んで牛肉を巻きレンジでチン。合間に「うわ〜〜おいしそう〜〜」と、わざとらしい顔したタレントのテロップがうつる。別荘はただ広いだけで全く魅力的ではなく、まずそこに写っている人物が誰も魅力的ではなく、CMもアホのように同じものが流れ続けて気が狂いそうだった。
店から出てぷらぷら歩いていると、モスクがあったので中に入る。女性は髪の毛をかくさなければ中に入れないので、ストールを借りて頭に巻いた。中に入ると、男たちが膝をついて見えない神に祈りを捧げていた。わたしたちは隅っこに腰を下ろし、その様子をただ眺めていた。後ろの窓から心地の良い風が入って気持ちがよく、敷かれている絨毯も肌触りがよく、壁も天井も全てが美しくて居心地が良かった。井上は頑なにストールをまかない女に対し苛立っていたようだが、わたしはそんな人がいたことに気がつかなかった。
代田橋のちかくにあるアンティークショップへ。魅力的なものばかりが置いてある。けれど高値でとても手が出せない。それでも井上は部屋に置くランプを購入していた。 そして、ささいな悲しき事件が起こる。泣いてしまった。 このひとは変なところであまりに素直すぎるところがある。嘘ついてほしいところで、素直に答えすぎる。 無神経なのか無頓着なのかなんなのか。
帰り道、大きなランプを抱えて歩く井上。その4歩後くらいを歩く。 「何考えているの」という。何を考えているもどうもあるものか。 「明らかに口数が減ったじゃない」と。当たり前だこの野郎。 ことあるごとに隣で気を遣ってくれるもののそれが鬱陶しく、とうとう部屋に戻るまで何も話さなかった。 けれどいつまでも機嫌が悪いままでいるのも気がひけるため昼寝をすることにし、 案の定起きた後にはもう怒りも悲しみも消えていた。気が付いたらざあざあ雨が降っている。 フィッシュマンズのライブ映像を流してくれたので、一緒にそれを見た。なんにもないね、という感じ。 買ったばかりの背の高いランプはやたらと部屋に馴染んでいた。そこにいるんだねえ、という感じ。
昼寝をし、腹ごしらえに近くのつけ麺屋に行く。 たまたま隣に座った外人がロシア人で、英語が堪能な井上は早速彼らに話しかけていた。わたしは最近地味にキリル文字を練習しているので、アルファベットの発音を聞き取るいい機会だ、と耳をすませたが何も聞き取れやしなかった。それにしてもロシアの女性は顔がきりっとしていて迫力がある。端正な狼みたいな顔立ちだった。
この日の夜はツァイミンリャンの『楽日』をみて、 しっかりと寝落ち。きっと正しい鑑賞方法。
日曜日。初台に行って『ジュリアン・オピー』の展示を見る。 最終日だったので駆け込んだが、正直そこまでぐっとくるものはなかった。 携帯電話でパシャパシャとシャッターを切る音がそこらに溢れていて、気がそれる。
また腹を空かせて初台を歩き回っていたが、腰を落ち着かせる場所がどこにも見当たらない。 なんだか異常に疲れて、でも空腹で、たぶん飢えていた。 渋谷行きのバスがたまたま前を通り過ぎて停車したため、急いで乗り込む。 どうして渋谷へ来てしまったんだろうね、と互いにわからないまま、 1セット1600円もするハンバーガー屋に入って腹を満たす。 特別美味しくもなく、まずくもなく、ただただ高く、ドリンクのサイズが馬鹿でかい。 後ろの婦人たちはなぜか胆石の話をし続けていた。ここにはもう二度と来ることはないだろう。
その後、ブラッドピッドが宇宙に行く映画を見た。 月にサブウェイがあるんだ、という感想しか出てこない。
喫茶店でタバコを存分に吸って、コーヒーとケーキを食べ、閉店まで本を読んで過ごす。 オランダから来ているという井上の友達カップルに一瞬挨拶をし、 家に帰って、それからは死んだように眠った。
無駄なことを全然していない、と部屋に帰ってきて思う。 珍しく濃厚な三日間で会ったものの、生活がこんなに密である必要は全然ない。
けれど今日は仕事で、一日を無駄にしてしまった。 とある作業にたいし、丸一日時間をかけても終わらなかった。 良いタイトルも文言も何も思い浮かばず、デザインも納得がいっていない。 仕事が遅い、仕事ができない、終わらない、の三拍子。
だめねえ。起きただけでえらい、と思っているから 実は反省はしていないんだけど。だめねえ。
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