プラチナブルー ///目次前話続話

選抜大会2回戦
April,24 2045

14:00 ローゼンバーグ総合大学 試合会場

2回戦 東2局 二本場 ドラ八萬
東家 眼鏡の男 28,200点
南家 ブラッド 16,000点
西家 狐目の男 20,900点
北家 ヴァレン 33,900点
供託 リーチ棒 1,000点


「それでは、午前の点棒を確認の上、始めてください」

午前中、東2局二本場で中断された試合は、係員の男の発声により、牌の取出しから始められた。
ブラッドの対面には、ヴァレンではなくアンジェラが座っている。
上家と下家は、相変わらず同じ顔ぶれだ。
朝と違うのは、『上家の男の挑発的な眼つき』と『チェン教授の姿』の両方が消えていた。

東2局 4順目 ブラッド


4順目の四萬ツモで、ブラッドはノータイムで9ピンを外す。
イッツーと三色の両天秤から、タンヤオでも平和でも捌けるように受けた。
6順目には7ソウをツモり、三色の聴牌を逃したブラッドは、円香の言葉を思い出していた。

東2局 6順目 ブラッド


「手変わりを待っている間に、アガリを逃すことは本末転倒よ」

ブラッドは円香から、高目、安目の点数の設定を3飜3,900点とマンガンの8,000点を境界に考えること、
1ピンが高目になるなら闇、1ピンが安目になるならリーチでカバーするようにと教わっていた。

「リーチ」

東2局 7順目 ブラッド


ブラッドは、8ピンを横に向け聴牌を宣言。
そして、11順目にあっさりと7ピンをツモる。

「ツモ! メン・タン・ピン・ツモ・ドラ2 3,000-6,000の2本場・・・3,200-6,200」

リスタート後に早々の大物手を獲て、ブラッドは肩の力を抜くように息を吐き出した。



東3局 東家 ブラッド ドラ4ピン
東家 ブラッド 29,600点
南家 狐目の男 17,700点
西家 アンジェラ 30,700点
北家 眼鏡の男 22,000点


前局のハネマンを象徴するかのような好調な配牌とツモで、6順目には一向聴を迎えていた。
そこに持って来たのがドラ傍の5ピン。

東3局 6順目 ブラッド


イッツーも見える手で、どの5を落とすかを迷うこともなく、五萬を手出しで切り出した。
配牌からピンズが一枚もない状態に少しの違和感を覚えると、そのタイミングで上家の仕掛けが入った。

7順目 上家
「ポン」

8順目 上家
「チー」

アンジェラのペンチャン落としの9.8ピンを続けざまに喰い仕掛けてきた。
ドラがピンズであることを考えると、完全無視というわけにもいかない。


東3局 9順目 ブラッド


上家の仕掛けと河を見ながら、ブラッドがツモってきた牌は5ピン。

(最悪の入り目だ・・・)

4人の河には九萬と5ピンが一枚ずつ切られ、4枚目の5ピンはドラ傍の牌だ。
ドラ面子も、一気通貫も消えてしまう牌勢に、ブラッドは九萬をトイツから1枚外し一向聴に戻した。


11順目 上家
「チー」

上家 眼鏡の男


3回目の鳴きが上家から入ると、九萬のトイツ落としの2枚目と入れ替わった牌は4枚目の九萬。

(あらら、アガリを逃してしまった。危険信号だな・・・)

トイツ落とし2枚目の九萬を、手の内から河へ置きながら、ブラッドが河の字牌とピンズの枚数を数えた。

(東南北が3枚切れ・・・中は4枚切れ・・・西が2枚、發が1枚、白は見えていない・・・捨て牌は・・・)

上家の河


13順目、初牌の白を掴むと本来アガリ牌だった九萬を切った。
そして、上家の男がドラの4ピンを手の中から切り出すと、ツモってきたのは4ソウだ。

東3局 14順目 ブラッド


「調子の良し悪しのバロメーターは、トラップ系のツモに惑わされないことよ」

講義を受けていた時のように、何度も繰り返し聴いた円香の声が脳裏のスクリーンに登場した。

結局、ブラッドが初牌の白を抱えたまま、場は流局し、親番が終わった。
聴牌宣言をした男の手は、白と西のシャボ待ちだった。


流局 上家の聴牌形



「ん・・・」

ブラッドは、上家の手牌を確認すると下唇を前に出し2,3度頷いた。
そして、左手でノーテンの1,000点を卓上に置き、次局への洗牌を始めた。

東4局 流れ一本場

東家 狐目の男 16,700点
南家 アンジェラ 29,700点
西家 眼鏡の男 25,000点
北家 ブラッド 28,600点

折り返し地点
April,24 2045

14:15 ローゼンバーグ総合大学 試合会場

東4局 流れ一本場 ドラ6索

東家 狐目の男 16,700点
南家 アンジェラ 29,700点
西家 眼鏡の男 25,000点
北家 ブラッド 28,600点


前局の親で、ブラッドが上がりを逃した後の配牌は予想通り冷えていた。
(酷い配牌だ…)
東4局 配牌 ブラッド


東4局 6順目 ブラッド


6順目にようやく字牌を整理できたものの、相変わらず凸凹なツモが続く。
アンジェラの手元と顔色を伺うが、親を蹴れるほど軽い手は入ってなさそうだ。
ブラッドは、7順目にドラ表示牌の5索をアンコにすると、喰い仕掛けを試みた。

「ポン!」


その後の4順で牌の出し入れを行っていく。
東4局 11順目 ブラッド



ツモってくる牌は内側に寄っていくものの、シュンツとして横に伸びず縦に重なっていく。
11順目、親の狐目の男の切った七萬が横に向いた。


下家(親)狐目の男の捨て牌


「リーチ」


中を手出しでトイツ落としをしての聴牌形は、おそらくメンタンピンの手。
『役牌のトイツ落としの後のリーチは、役牌待ちよりもいい待ちになっているから注意が必要よ』
円香が画面を指示棒で叩き、注意を促した講義のシーンが、ブラッドの脳裏を横切る。
(ちっ、鳴きで親に聴牌を入れちまった・・・)



上家 眼鏡の男の捨て牌


「リーチ」


続けざまに上家の眼鏡の男が、7索を横に向けリーチ宣言をした。
ブラッドは、3人の河を一通り見渡し、アンジェラの河を見て、ピンズの下のほうを固めてくれと祈った。
(どこだ? こちらは・・・5-8索か6-9索待ち辺りか?)



アンジェラの捨て牌




「チー」

宣言牌の7索を喰い、親の現物で、4枚見えている5索の壁で3索を落とす。
13順目に親が5ピンをツモ切りすると、上家のツモ切りは四萬。

東4局 13順目 ブラッド



「ポン」

東4局 14順目 ブラッド


ブラッドは四萬を仕掛け、上家の現物、下家の筋牌の2ピンを捨てた。
ここまで50枚余りの牌が河に棄てられているとはいえ、
自分の手牌と合わせても136枚のうちの半分が見えているに過ぎない。

あれこれと思いは巡るものの、『既に相手も手変わりができない状況なのだ』と自分に言い聞かせ、
一枚一枚ツモって来る牌を、河と照らし合わせながら切り飛ばしていく。

東4局 15順目 ブラッド


『聴牌が入っても、嫌な予感がする牌をツモってきたら回ることもひとつの手段よ』
円香のそんな声が聞こえてきそうな牌を掴んだ。
五萬は親には無筋だが、上家の男が一枚外しており、ブラッドのイメージでは
6779の形からの97落としと、6679の形からの97落としの2パターンが映し出された。

(6779なら、97と連続で落としてはず…六萬が雀頭か…5-8索とピンズの上筋6-9の2点は切れない…)

東4局 16順目 ブラッド


この状況で最悪なのは、4枚使いの5-8索、ドラ筋の6-9索での放縦と、ピンズ打ちのダブロンだ。
幸か不幸か、次順、ブラッドがツモって来たのは先切りしていた7ピンを引き戻し聴牌が復活した。

東4局 17順目 ブラッド


(よし!うまくいく時はこんなもんだ…5-8ピン出てくれ!)

ブラッドの強い想いが叶ったかのように、目の前に、下家から8ピンが零れた。


「ロン!」

東4局 残り8枚 ブラッド


ブラッドは、リーチ棒2本を片手で順に拾い上げると、下家の投げ出した2,300点を箱に仕舞った。
全3回戦の丁度半分が終了し、勝負は後半戦に突入した。

南1局 

東家 アンジェラ 29,700点
南家 眼鏡の男 24,000点
西家 ブラッド 32,900点
北家 狐目の男 13,400点


エアーポケット
April,24 2045

14:25 ローゼンバーグ総合大学 試合会場

南1局 東家 アンジェラ ドラ5索

東家 アンジェラ 29,700点
南家 眼鏡の男 24,000点
西家 ブラッド 32,900点
北家 狐目の男 13,400点


点棒をヴァレンから引き継いだアンジェラの親番。
午前中の具合の悪さに比べれば、体調は幾分マシになっているものの、
アンジェラの意識は断片的に記憶が途切れていた。

本調子ではないアンジェラは、失点こそないものの、小さなミスでアガリを逃し続け南入を迎えた。

南1局 配牌 アンジェラ


風牌とドラが2枚ずつの好配牌に、アンジェラは肩で呼吸をするように背筋を伸ばし西から切り出した。
序盤は、急所を引くわけでもなく、ツモ切りが続いた。

6順目にブラッドが南を河に捨てた。

「ポン!」

アンジェラは右端の2枚を鳴くと、9ピンを切った。

南1局 7順目 アンジェラ


上家の狐目の男は、親のアンジェラに対して牌を絞るわけでもなく、ツモ切りと手出しを繰り返している。
下家の眼鏡の男も、ツモが好調なのか、さかんに手の中から余剰牌が零れている。

アンジェラがツモ切りを3周続けたところで、右側の男の手が一瞬止まった。
(そろそろ、一向聴ってところなのかしら・・・)

バラ切りされた字牌、端牌の順で捨てられている河は平和系の手造りが窺えた。
対面のブラッドを見ると、眉をひそめて面子選択に苦労しているようにも見える。

11順目に上家から7ピンが切り出された。

「チー」


南1局 12順目 アンジェラ 


役牌ドラ2(5,800点)の一-四萬待ちの聴牌。
アンジェラが河を見渡すと、マンズの下は比較的で誰も使っていない雰囲気だった。
北家の河を見ていると、南家の眼鏡の男が、リーチ棒を卓に置いた。


「リーチ」



南家のリーチに対して、ブラッドが四萬をツモ切りした。
アンジェラは、この半荘はブラッドからの当り牌を全て見逃していた。

ブラッドの捨てた四萬には反応せず、上家のツモと捨て牌に視線を移した。
上家は、ブラッドの四萬をちらりとみると、13枚の牌の左端から一萬を切り出した。

(あん・・・もう、同順だからロンできないじゃない・・・)

そんな恨めしそうな思いを表情には出さず、アンジェラが山に手を伸ばした。
ツモってきた牌は、9ピン。アンジェラの動きが止まる。

(上家の彼は、一萬のトイツ落としだと思うんだけどな・・・)

アンジェラは意を決したように、9ピンをツモ切りした。
南家の男は、声を出すわけでもなく、ただ河に置かれた9ピンをちらりと確認すると、山に手を伸ばした。

そして、不要牌をそのまま河に並べる。
ブラッドは続いて、またも四萬を捨てた。

(ちょっと、ブラッド・・・待ってよ)

喉まで出掛かったロンの声をアンジェラは封印した。
案の定、上家の男も一萬のトイツ落としをし、さらに、その一萬を横に向けた。


「リーチ!」





(もう!・・・でも、きっと一萬は山にあるわ・・・)

アンジェラが山に手を伸ばしツモって来た牌は2索。
無筋であることは、分かっている・・・が、アンジェラは強打するわけでもなく、いつも通り河にそっと置いた。


「・・・ロン」
「ロン!」

下家が牌を倒すと、少し遅れて上家も手牌を倒した。
裏ドラは下家の男がめくった。

「メンピン裏・・・3,900点」
「リーチ・一発・ピンフ・裏・・・8,000点」


「うわっ! ダブロンかよ・・・」

ブラッドの声が卓上に発せられたが、アンジェラは無言のまま二人に点棒をそれぞれに渡すと、天を仰いだ。


南2局
東家 眼鏡の男 28,900点
南家 ブラッド 32,900点
西家 狐目の男 20,400点
北家 アンジェラ 17,800点


両チームの持点が、50,700点対49,300点と拮抗した状態になった。

ツキの行方
April,24 2045

14:30 ローゼンバーグ総合大学 試合会場

南2局 北家 アンジェラ ドラ七萬
東家 眼鏡の男 28,900点
南家 ブラッド 32,900点
西家 狐目の男 20,400点
北家 アンジェラ 17,800点

南2局 配牌 アンジェラ



楽勝ムードだった東場から、拮抗した状態になった南場に入り、
アンジェラの牌勢は見た目通り下降気味だった。

配牌から、目指す最終形のイメージをマンズの一気通貫に照準を合わせ、
アンジェラは牌の出し入れをする。

牌を山から取り出しながら、不要な牌を捨てる。
シンプルな作業を繰り返しつつ、アンジェラの思考は別の事を考えていた。

ブラッドとアンジェラが、円香の講義を受けていた時のシーンを思い出していた。

「また、当り牌を掴んじゃったよ。ツイテないな〜。オレも聴牌してたのに…」

円香がブラッドによく話をしていたのは、
自分の配られた牌を使いアガリを目指すのが第一のステップ。
それを同時に4人が行っているということ。

自分よりも聴牌の早い者もいれば遅い者も存在する。
聴牌を一番最初にしたからといって、必ず最初にあがれるわけではないということ。
つまり、他人のアガリ牌への対処が第二の作業。

「ツイテないと感じる現象に対して、きちんと分析をして、
次回からの対応策を自分なりに答えを用意すること。明日までの宿題よ」


円香に毎晩宿題を出されていたブラッドの様子を思い出し、
アンジェラは思わず笑い出しをしそうになった。

「例えば、ブラッドが観戦をしていた時に、『何でその牌を切るんだ?危ないだろ?』
という感覚は、打っている本人よりも、観戦している人のほうが当然冷静に見えるわけでしょ?」
「ええ、そうですよね。観戦をしていると全体が見えるから…」
「そうよ、その全体を見渡す感覚というのがとても大事よ」


そういった客観性を持って常に打つというステップを、円香は第三の課題として講義に取り入れていた。
アンジェラは、そんな話を思い出しながら、前局の2索打ちが正しかったのかどうか考えていた。

南2局 8順目 アンジェラ


8順目にドラの七萬をツモったアンジェラは、9ピンを横に向けた。

「リーチ」


「一番大事なのは、その聴牌に対して、アガリ牌が山にあるかどうか読みきること。
そして、相手がその牌を不要としているかどうか、きちんと判断できること。
それが、第四のステップよ」


(アタシは、この三萬が、山にあるかどうか読めない。他人が使えないかどうかもわからない…)


アンジェラは、リーチ宣言をした自分に、円香が語りかけて来たような気がして、
心の中で、このリーチが正解なのかどうかを迷っていた。

私の答えは、『敵が三萬を掴んだときに、それを止めたならツイテいない。ではなく、
相手が真っ直ぐ打っていて、使えないはずの三萬を掴まなかった時にツイテいないと感じます。』

『上がれても、上がれなくても、結果よりもプロセス大事よ。
振り込みを恐れて上がりを逃すことのほうが、振り込むことよりも時として悪いこともあるから』


…という円香の言葉に自分を納得させていた。

南2局 流局


ブラッドがハイテイの牌を河に置くと全員が聴牌をしていた。
三萬は、ブラッドが一枚。
上家と下家は、三萬が使えない形だったが、持っていなかった。

(三萬の残り3枚が、王牌の中って…ツイテないわ…)


「アンジェラ…最終形まで努力しても100%上がれるわけじゃないのよ、人間相手だから。
だけど、最終形までの努力を全くしなければ、一度だって最終形で上がれることは無いの。
努力を続けている限り、報われるときは必ず来るから、諦めずに頑張って」

アンジェラは自分に言い聞かせるように、南2局一本場の配牌を取り出した。

南2局 一本場 北家 配牌 アンジェラ ドラ8ピン


(この手の最終形はトイトイドラ2…ううん、鳴かずに三暗刻を目指そう!)

アンジェラは、滅入った気分を払拭するように顔を上げた。
すると、他の三人は、難しそうな顔でそれぞれ自分の手元を見ていた。

(苦しいのは自分だけじゃない…そんな風にも見えるわね)

アンジェラは、いつの間にか熱が下がり、頭の中がスッキリとしている自分を感じていた。

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