2009年04月28日(火)...絶遠

 此の部屋を埋め尽くす、真綿の様な絶望で遊ぶ。ふわふわとした其れに顔を埋めて、もう、目覚めなくても良いと、呟く。何度も何度も、繰り返された言葉は錆に塗れて、少しずつ、其の身を沈めてゆく。

2009年04月26日(日)...此の侭

 あの時の様に、ただ、手を拱いてじわじわと迫り来る脅威に身を委ねる事しか出来ないのだろうか。もう、あの頃の様に傍で、見守ってくれる誰か、も、愛情も、闘う理由も、在りはしないのに。
  身体を這いずり回る赤い其れが、ただ、流れ出るのを見ている。この、狂気に抵抗してまで、掴み取りたい明日なんて、無い。

2009年04月25日(土)...リミット

 もう、何時まで、正気で居られるのか、定かでなくなっている。荒れ狂う声と、ちかちかと瞬く視界、ぐにゃぐにゃと弾ける地面に、胃が悲鳴を上げる。夜な夜な握る鋭利さが、この身を傷付けても、鳴り止まない罵倒と部屋中に飛び散る、蛍光色の泡沫、ぽたぽたと肌を撫でる天井、ぼんやりとした渦でしかない人々。

2009年04月24日(金)...決壊

 一度、溢れ出した感情は、止まる事を知らずに此の身を攫ってゆく。何年も何年も、踏み止まって来た境界線を前に、少しずつ諦めに支配されている自分を見付けた。年を重ねる度に、遠ざかる子供らしさ、と増加する、子供で居ることの軋轢、が真綿で首を絞める様にじりじりとにじり寄って、居場所を奪ってゆく、否、本当は解っていて、眼を背けて仕舞いたい、許容されないという事実に、デスペレートしている。

2009年04月20日(月)...静寂

 銀色のシートを破って転がした白い錠剤をゆっくりと飲み込む。秒針の音に責め立てられる間隔が徐々に膨張と収縮を繰り返して、世界の輪郭がぼやけ始める。ぐるぐると廻る天井が眼前に迫って、また遠ざかってゆく。もうそろそろ、さようならを云わせて。

2009年04月13日(月)...罵倒に壊される

 世界が煩い。誰と話していても邪魔をする声に、叫び出したくなる。酷く頭が痛い。助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、、誰に?、解らない。本当は、此処に居ること自体が幻で、本体は薄暗い部屋に転がっているのではないか、とさえ思う。スプリングの疑わしい軋むベッドと遠ざけられた鋭利さ、スプーンだけの食事、ぎしぎしと揺れる隣室、反響する喚き、全部が身近に聞こえて本来過ごすべき居場所が解らなくなる。あの心地良い廃退から、這い出るべきでは無かった。あの侭、現実を背に蔑みを甘受して居れば良かった。

2009年04月11日(土)...閑静

 深夜2時を少し廻った交差点、信号機がちかちかと黄色く点滅を繰り返している。ノーメークの肌に風が心地良くて、向かいに佇む硝子張りのビルがネオンとヘッドライトを映して、時折、鋭利な刃物の様な煌きを返す様をまじまじと見入っていた。
 営業時刻を終えたビジネス街は、以前よりも更にがらん、としていて、此れが不況の影響なのかと独りごちる。天を仰ぐと、建設中のビルに伸びるクレーンが頭上に赤い点滅を宿して見下ろしていた。月が、空を鈍色に染めている。

2009年04月10日(金)...虚空

 床がちりちりと燃え揺らいでいる。歩く度に撓む廊下に、足元が覚束無い。カーペットに引火した炎が吐き出した靄が視界を包んで、焦点が定まらない。誰と話していても、徐々に輪郭がぼやけて、気付けばどろり、と溶け落ちてゆく。最早、誰か、が本当にひとなのかも疑わしく、誰も居ない気さえする。
 光が飛び回る部屋で、何かをする気にもなれず、ただ時間を浪費していた。机は絶えず小刻みな振動を繰り返して、殴り書きの文字が浮かんでは消えてゆく。蛍光色に彩られた世界が、共有出来るものでないこと等、重々承知で、それでも、此の、ぐにゃぐにゃと沈む地面とちかちかと輝く霧に覆われた、幻想的な景色を隣で眺めてくれる宛てが欲しい。

2009年04月08日(水)...切り裂く音がした

 如何して、未だ其の言葉に立ち止まる姿が酷く滑稽で、あと幾度後悔すれば良いのだろうか、と思った。諦めに包まれた日常をただ安穏と転がして明日を繋ぐ筈が、呼吸を繰り返す度に加算されてゆく重圧に全てが面倒になる。
 多分、全てを手放して仕舞えば、楽になるのだろう。

2009年04月06日(月)...埋没した過去の

 今日もまた諦めにも似た罪悪感がどっ、と胃壁を攀じ登ってきた。如何でもいい、という感情はどんどん下降を続けて留まる術を持たない。疑問詞が増える度に可能性が潰されてゆくのが解る。
 そんな思考の彼方此方で手を拱いているペシミズムを振り払うように、ブラインドの隙間から射し込む煌きに、そっと優しさを重ねた。眼を閉じると世界はオレンジに染まる。
 制服が皺になるのも御構い無しに、大の字になって天井を見上げた。目蓋の血管が透けて細胞を溶かして、ヒトはヒトと云う原型を捨てる。エアコンの風が髪を揺らして、フローリングの床はひやりと心地いい。
 早く、帰ってこないかな、そんな期待はふわふわと消費されて、何時の間にか如何でも良くなっていた。右手の中で温かくなった鍵を、そっと陽射しに掲げてみる。今はまだ、やりたいことがあって何かをしたくない、のではなく、ただ、何もしたく、ない。

 多忙を極め、本当に大切なものが少しずつ削り取られてゆく。あの、デスペレートに浮かぶ楽園は影を潜めて久しい。何もしなくていい、何もしたくない、そんな、怠惰に塗れた諦めは、幸福と呼ぶに相応しい甘美さが在った。幼い、未発達の忍耐は全てを投げ出して、ただ蹲るばかりで、其れを許容する世界の有難さに気付く筈もなかった。
 今となっては、立ち止まることの許されたあの日々が、懐かしい。戻りたいと切に願っても、叶う訳もなく、明日の為に今日を組み立てるだけ。
 願わくばもう一度、待ち遠しい程の、待ち遠しさを忘れなければ耐えられない程の依存に身を沈めていたい。

2009年04月05日(日)...却来

 全ての感傷が其処から派生するだけで、結局、あの日々に打ち勝てる筈も無かった。あの頃に切望した結末が未だ深く根ざして、捕らわれている。

2009年04月03日(金)...墜落

 がさがさと乾いた音を立てて、春の風に呑まれる。もう少し経てば此の地面を白く色褪せた花弁が覆って、惨めさを隠すのだろう。

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