VITA HOMOSEXUALIS
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2015年09月08日(火) 別れ

 一年経った。

 私は十九歳になった。

 彼との間はまだ続いていた。

 私はその頃にはもう自慰をする必要を感じなかった。

 性欲が高じれば彼に連絡をし、彼のところに行って絡み合えば良かったのだ。

 あるとき、私は電話をせずに彼のところに行った。いつもは私から彼に電話して彼のところを尋ねるのであった。私の住んでいるアパートには大家さんの部屋にしか電話はなく、親族以外からの電話は取り次がないということになっていた。

 それは木枯らしが吹きそうな晩秋の日であった。もうすっかり日が短くなり、中野の彼のマンションが見えるところに来たときには、灯ともし頃になっていた。

 マンションの玄関から二人、人影が出てきた。顔がわからないくらいの暗さだったが、私には、そのうちの一人が彼であることがわかった。私は電柱の影から二人を見た。

 その二人は握手をし、軽く抱擁し、彼はもう一人の男の頬に接吻したように見えた。

 その相手の男はこっちに向かって歩いて来た。小太りな中年の男のようだった。彼はマンションの中に戻って行った。

 私はこれまで彼の部屋に他の男の匂いや影を感じたことはなかった。しかし、考えれば私と会っている時間は短く、それ以外の多くの時間を彼は持て余しているに違いなかった。そこに他の男を引き込む余地が生まれても不思議はないのだった。

 私は妙に納得し、そのまま踵を返して自分のアパートに帰った。

 私はそれきり彼に会うことはなかった。

 彼は二、三度私の住むアパートに電話したようだった。電話は取り次がないくせにお節介焼きの大家のおばさんがそれらしいことを伝えた。

 私はまた一人になった。


2015年09月04日(金) 青年

 私はこの自称医学受験浪人生が好きになったかと言われれば、そうでもなかった。

 彼は私のことが気に入ったのかもが知れないが、それは貧乏人である私が彼の豪奢な生活のことごとくに驚き、感嘆してみせたからであろうと思う。じっさい、木造のぎしぎし音を立てる私のアパートと、瀟洒な鉄筋コンクリートの彼のマンションとの間には雲泥の差があった。一度彼は私の部屋に来た。物珍しそうに調度も何もない煤けたアパートを覗いていたのを覚えている。

 それでは、さほど好きでもない彼と私はなぜ長い間付き合ったかと言えば、それは全くセックスのためであった。

 彼のペニスは大きかった。引き締まった腰に蓄えられたエネルギーが全部ペニスに集約されているようであった。

 それは大きくて、よく濡れた。私と彼が舌をねっとりと絡めてキスをするとき、彼の腰から手を入れてペニスに触ってみると、たいていそれはぬるぬるした粘液にまみれていた。

 彼は乳首をよく感じた。乳首をいじっているとじきにぷくんと硬く盛り上がる。私がそれに舌を這わせると彼は熱い息をもらして喘いだ。

 彼はちょっとしたことで泣いた。それは全く彼のナルシシズムを示しているようであった。彼の態度が気に入らないときなど、ちょっと強く私が文句を言うと、彼の目にはうるうるした涙が湧き上がり、それはすぐに目から溢れ出て頬を伝った。

 そんなとき彼は決まって鼻水を垂らした。それは涙が鼻に溢れてくるのだったろう。両方の鼻の穴からにじみ出た鼻水が真ん中で合流してつうっと唇のところまで垂れることもあったし、涙の勢いが強いときは両方の鼻の穴から二本の光った鼻水がついと垂れ下がることもあった。

 彼と私はあらゆるセックスの遊びをした。たいていは私が彼の部屋を訪れ、簡単な食事をする。ビールを飲むときもある。それから少しテレビを見る。それも私の部屋にはなかったものだ。それからシャワーを浴びる。シャワー室には二人で入る。二人で裸になってシャワーを使いながら、お互いの体を愛撫する。

 私たちは勃起したままシャワー室を出る。今度は彼のベッドルームに行く。そこはいちおう勉強部屋のはずなのだったが、大きな机が所在なげに放ってあるほかには、数冊の参考書とマンガ以外に本らしいものはなかった。

 私たちはお互いに裸のままベッドに転がる。それからキスをする。頬と言わず、首筋と言わず、唇も肩も乳首も、すべて吸い尽くす。その口はそれからだんだん下半身に下がってくる、そうしてへその周辺を舐め、少し湿った陰毛の叢にたどり着く。

 私は彼の股を広げてやる。彼は膝を立てる。彼のペニスはもうびくびくと隆起している。私はそれを頬張る。

 私のベニスも勃起している。私はそれをいくぶん乱暴に彼の口の中に突っ込む。彼は喘ぎながら舌でそれをなめ回す。

 私は彼をひっくり返す。彼の股を開く。米印のような形をした肛門が現れる。私はそこにくちづけをする。舌先に力を入れて肛門を舐め、その中に舌先を押し込もうとする。彼は悲鳴のような声をあげる。

 私たちはほとんど肛門性交はやらなかった。手か、口か、股でイクのだった。

 お互いに二回か三回か果て、再びシャワーを浴びなければならないほど汗と唾液で体がぬるぬるになるまで、果てしなく私たちの性戯は続いた。


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