☆空想代理日記☆
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2007年10月31日(水) 10月31日(水)

 秋になったということで早急にやらなければならないことがあった。それは靴を買って、頬ずりしたり平和を祈るために飾ったりすることだった。

 靴屋というのは不思議だった。店先には万引きされても困らないような安売りの棚があり、カンフーの達人が好んで履くものが並べられていた。

 店内は靴に埋め尽くされていて爆破事件のあとに奇跡的に助かった人が靴の山からひょいと顔を出してもおかしくない状況だったし、圧倒的な景色とはこういうものなのかと驚きをかくせなかった。

 店員さんは女性が3人。それぞれが役割をきっちり果たしていた。常人なら途方に暮れてしまいそうな靴の山を解体してかいがいしく並べ替えていた。

 不逞者も最初のうちは眼で追いかけていたが、そのうち首も上下に動いていた。まるで光るものを追いかける猫のような気持ちだった。

 そして不逞者は爪先が鋭くとがった靴を購入した。とてつもない能力を秘めた靴のように感じたからだった。なにより、殺傷能力が高そうな雰囲気があった。

 さすがに爪先がとがっているだけあって、レジ袋は突き破ってしまうし地面にも突き刺さってしまった。


2007年10月30日(火) 10月30日(火)

 昨日は柔らかいけれども冷たく突き刺さるような雨が降っていた。不逞者はそれをすばやく避けながら歩行することに挑戦した。

 右へ左へ、右へ行くとみせかけて後ろへと動いた。周囲からは、「あいつはたぶん、カレーライスにマヨネーズをかけるような奴だ」とでもいわんばかりの視線をもらった。

 ほこりのように舞い、魔が差すように歩いた先には白く大きな建物があった。

 遠目から視るそれは巨大な豆のようなかたちをしており、率直な意見は不細工な建物であった。

 それはいつだったかにできた駅前の本屋だということに気づいたのは、店内を物色していて手の届かない場所にある本をジャンプして取ろうとしている時だった。

 清楚な感じのする女性店員が口許に手をあて、笑いをこらえている顔を隠していた。笑いをこらえる顔は、くしゃみを我慢する時の表情に似ているなと思ったが、笑いの対象が不逞者だとわかったので伝えないでおいた。

 この本屋は店内まで白かった。まるで化粧品売り場のようだった。なんだかオシッコを我慢するような緊張感があった。


2007年10月29日(月) 10月29日(月)

 目醒めてすぐに躰のあちこちを痒くもないのにぼりぼり掻いた。とくにお腹周辺を重点的に掻いた。

 天候のくずれもやや回復し、陽光によって部屋を浮遊するほこりがきらきら光って視えた。なんかいい感じの朝のように思えたが、寒さは尋常ではなかった。

 そして日曜日は恒例の格闘技の練習日である。
 部屋の片隅で、試合を控える格闘家なみに緊張する練習をした。

 とりあえず足をがたがたと震わせてみたり、瞳孔をひらいて具合の悪くなる妄想して緊張感をたかめてみたのだった。

 その妄想のなかで不逞者はものすごくがんばっていた。

 たとえば、鳥の巣を背中にのせたまま腕立て伏せをしていて、卵がかえるまでがんばっていた。また時には、重たい亀の甲羅を背負い牛乳配達をして汗を流した。

 こんな妄想はどうでもよくて、実際のところ、不逞者がなんのために格闘技をしているのかを白状すると、

「これか? これは、名誉の負傷ってやつかな」

 というセリフを格好よく言いたいだけなのである。実に不謹慎な理由で始めた格闘技なのだった。真剣にがんばっている人に申し訳ないと思う。


2007年10月28日(日) 10月28日(日)

 寒い季節はチョコレートにかぎる! こんなバカなことを本気で思ってしまうほど昨日は寒かった。

 しかし不逞者はチョコレートが本当に好きで、なかでも、森永製菓の『ガトーショコラ』に眼がないのだった。

 ガトーショコラとは、ちょっと苦みばしった大人の味をしており、大人のチョコパイだと言いあらわすことができる。

 いつも枕許に置いてある。が、目醒めるとそこにあるはずのガトーショコラがなかった。どこへ行方をくらましたのかと考えているうち、泥棒に喰べられてしまったのではないかと辿りつく。

 泥棒の気持ちで考えてみれば、どこへ消えたのかわかるはずだ。

 たぶん部屋からは持ち去らず、喰べてゴミを放置していくはずだと思った。ゴミを持ち去っていくほど心が清らかなら、最初から盗みなどはたらくはずがないからである。

 おそらく枕の下にでもぶち込んだのではないかと推察し、手を入れてみた。やはり、そこにはゴミが隠されていた。

 ここに思い至っただけで、心が晴れやかだった。顔を洗おうと洗面所に行った。鏡にうつる不逞者の口のまわりにはチョコレートがついていた。


2007年10月27日(土) 10月27日(土)

 ぐずついた天気とともに、バナナで釘が打てるのではないかと脳みその真ん中に綺麗な花が咲いているようなことを思った。

 寒いなか、紙ヤスリで全身を摩擦する意気込みをもって病院へ向かった。

 病院のロビーは高齢化社会そのものであると思った。じじい天国だったし、ばばあの楽園でもあった。

 不逞者はソファに座っているだけで、首のうしろあたりから若さを吸い取られているのではないかと危惧した。

「君は、本気で言ってるんですか?」

 ドクターデビルはこんな感じで、湯上がりに匹敵するサラサラ感をだしていた。

 退屈な診察時間を不逞者がわざわざ気を遣って明るく楽しく怨めしい時間にしようと努めているのであるが、ドクターデビルはくすりともしない。

 この仕返しに不逞者、尿の検査には犬のオシッコでも提出してやろうかと企んでいるのだった。

 ただ、不逞者が窮地に立たされてしまう検査結果がでてしまいそうなので、どうしようかと悩んでいる。しかし仕返ししないわけにはいかないとも思っているのだった。


2007年10月26日(金) 10月26日(金)

 昨日の太陽もコンディションがよかったのか地球が黄色くなっていた。戦場に天使の羽根とともに黄金の光が降りそそいで、兵士たちは戦いなんてやめてしまいそうでもあった。

 そして夜の太陽もなかなかのものだった。不逞者は右手親指と人差し指で円をつくり植物と会話することが生き甲斐なスナイパーの気持ちで覗いてみると、それに負けないくらい円かった。たぶん満月。

 その満月の影響はすごいものだと予想できる。牢獄にぶち込まれた悪い人間たちが、

「肉だ。肉を喰わせろー!」

 と賑やかせていたはずである。
 または、舌をだらりと出して、ヨダレをぼとぼとこぼし、最新のラジコンカーに夢中になっていたりしたのだろうと思った。

 それから月といえばウサギだ。そうだと小学生の時に洗脳されたので間違いない。

 実は不逞者はウサギの頭部をかたどった小銭入れを持っている。ビーズの連なりで顔面を形成しており、とても不釣り合いの代物である。

 その小銭入れに『ガブリエル』と名前までつけて不逞者はひとりで喜んでいるのだった。未来が暗いというより現在が闇なのであった。


2007年10月25日(木) 10月25日(木)

 この世の中にうどんの国というものがあるならば、たぶん不逞者はうどん王子の血が流れているのかもしれない。

 単なる近所のうどん屋さんへ行っただけのことを、大袈裟にするとこんな感じである。

 そのうどん屋は、うどん屋にしておくのがもったいないくらい広い店だった。おそらく不逞者の心くらいの広さだった。どおりで床が黒かったのかとひとり納得したのだった。

 高校時代に何か格闘技でもしていたんですか? と勘違いできるほどの大きな店は、ぜんぜんお客さんがいなかった。

 もしかしたら不逞者がうどん屋の席についているのは幻覚なのかと頭を左右に振ってみた。

 しばらくすると注文したものが眼の前におかれた。うどんにはコシがあって、背中や厚い胸板はなかった。

 幻覚のくせになかなか美味しかった。本当の不逞者は、ヨダレでふにゃふにゃになったベビースターを喰べている年頃であるはずだ。

 30歳でうどん屋にひとりで座って、スポーツ新聞を読みながらちゅるちゅる麺をすすっているわけがないはずだった。


2007年10月24日(水) 10月24日(水)

 昨日は、なめらかな風とまろやかな陽射しがあって、間違いなく晴天だった。

 自分でも驚くほど上機嫌だった不逞者、散歩がてらに『じゃす子』先輩のところへ行くことにした。

 わりと近くにあると思っていたが、意外と遠くにあった。到着した頃には、まんべんなく殴られて「お母ちゃん」とか呟いてそうなボクサーみたいにボロボロだった。

 店内をぶらぶらした。ATMのところに行列ができていた。お金のにおいがぷんぷんしていた。

 とくに用事もないのに行列にならび、誰かの暗証番号を盗み視ようとしたが、その気配が伝わっていたのか、肩をくいっと動かされて視えないようにされてしまった。

 人間の黒い部分が視られて満足した不逞者は休憩できるスペースに行って、ベンチで足をぶらぶらさせながらジュースを飲んだ。

 歩き方選手権、ふと頭にふわふわと浮かびあがった。

 買い物袋をさげて歩いている人を勝手に採点しながら遊んでいたのだった。

 ちょっと大きめな袋をさげて躰が微妙に右に傾いている人には芸術点を加算したり、エコバッグを持っていた人には地球点を加算してあげた。


2007年10月23日(火) 10月23日(火)

 昨日もいい天気だったので、どこかで膝をかかえて座り首をちょっとだけ傾げて風景を視ながら笑顔の練習をしようと思った。

 こんな前置きはどうでもよくて、昨日は久しぶりに驚くことがあった。

 昨年のいつだったか興味がないのではっきりとは憶えてないのであるが、行方がわからなくなっていたおじさんから連絡があった。

 おじさんの話によると、ダーシャレー博士という人に捕まっていたのだそうだ。相変わらずトンチンカンなことを言っていた。

「ピッチャー、振りかぶって投げました。というのを、ピッチャー、ふりかけを舐めました。にしたらどうだろうか?」

 おじさんはこのようなことを不逞者に熱弁していたが、このアンポンタンと同じ血が不逞者にも流れているのだと思うと肩をおとすよりほかはなかった。

 ところで今までどこで何をしていたのかを訊いてみた。

「タンポポの綿毛を追いかけていたらアジアを旅していたんだよ」

 そう言って、大声で笑っていた。
 おじさんに、「はやいところほかの一族たちに連絡をとって無事を報せないと、7人のポリスを送りこむぞ!」とだけ言っておいた。


2007年10月22日(月) 10月22日(月)

 昨日は久しぶりに太陽が顔をのぞかせた。たぶん、太陽と雨雲の談合のすえ、太陽の出番になったのだろうと思われる。

 そして日曜日といえば『笑っていいとも増刊号』が放送されているのだった。

 タモリ先輩を心より尊敬している不逞者、いつもより長時間にわたって活躍しているタモリ先輩に胸をうたれる思いだった。

 タモリ先輩は不逞者の夢のなかでよく出てくるのである。つまり、『笑っていいとも』とは別にレギュラーとして夢に出ているという超人なのだった。

 夢のなかのタモリ先輩はいろいろとパターンがあり、未来から全裸でやってくるサイボーグの時もあったし、全身タイツを着て手首あたりから強力な蜘蛛の糸をとびださせることもあった。

 また、ルパン三世を騙して金品を奪っていく美女になっていることもあったが、これは目醒めてすぐに気分が悪くなった。

 このように不逞者はタモリ先輩中毒者であるのだった。かといって1番好きな芸能人はタモリ先輩ではない。ただ、おなかをこわしていないかとか、靴下に穴があいていないかとか心配はしているのである。


2007年10月21日(日) 10月21日(日)

 昨日も朝から冷たい雨が降っていた。窓から視た外の景色は、周りにあるの家々が雨に叩かれていて白っぽくなっており、ケーキの上にちょこんとのっている砂糖の家のようだった。

 こんな頭が面白い感じになったことはどうでもよくて、昨日はヴィレッジバンガードへ行ったことが大きな出来事であった。

 店内には不逞者が山村貞子なみに眼球を見開いて喰らいつきそうなシールがたくさんあった。

 ほかには、ちょっと大きめな袋に入ったお菓子や雑貨や唄うマネキンや母親の小言や使い古したピップエレキバンなどが売っていた、はずである。

 若者が集まりそうな雰囲気がぷんぷんただよっていたが、なんだかおじさんがたくさんいた。不思議に思ったけれど、不逞者もじゅうぶんおじさんであるのだった。

 そう自覚した瞬間から、ガラスや鏡にうつる自分の姿がおじさんに視えてしまった。

 友人、といっても腐れ縁であるバカ者にこのことを話したら、

「どーした。大好物の毒薬でも喰べちまったのか?」

 と言われた。
 冷静に考えたところ、バカ者はやはりバカ者でしかないのだった。


2007年10月20日(土) 10月20日(土)

 昨日は朝から雨が降っていてひじょうに寒かった。はやくも吐く息が白くなってしまいそうだった。なので、なにもしなかった。

 さすがに何もしないわけにもいかないので、最近、マグロが減少している問題を自分なりに考えてみた。たまには真面目なことを考える脳みそをつかっておかないと、毎日よだれで枕を汚してしまうような人間になってしまうらしいからだった。

 不逞者の真面目みそが弾きだした解答は、たぶん日本に住んでいる野良猫や捨てられた猫たちが小さな争いから友情を育んで一致団結し、『王魔の赤身カブト』と呼ばれるマグロのボスを倒しにいくということが水面下でおこなわれたに違いない。

 相手がマグロとあって、水面下には違いないのであるが、猫たちも水中で呼吸できるようになったのだと不逞者は睨んでいる。

 そして猫たちは躰をねじったり、ものすごい回転力で渦巻きをつくってマグロを倒しているのだろう。

 ただし、猫が魚を好きだというのは日本人の食文化のせいであって、アメリカの猫は毎日1枚2000円のステーキを喰べているのだそうだ。とりあえず、嘘である。


2007年10月19日(金) 10月19日(金)

 不逞者の住んでいる土地にあるTSUTAYAでは、毎月「8」のつく日はレンタルが半額だった。

 普段は森などへ行って動物たちと楽器をひいたり小鳥たちと歌をうたって過ごしている不逞者も、昨日はTSUTAYAに行かねばと思った。

 このチャンスを逃すと次は10日後になるので、たぶん10日間は躰がかゆくなって気が狂いそうになったりむやみに舌を噛んだりしてしまいそうになるのだった。

 そして不逞者、目隠しをして両手を突き出したままいくつかのDVDを選んだ。ほかのお客さんの躰に触れなかったのは、いま思えば奇跡に近かった。

 レジには案の定、半額の品物をもった人たちが行列をなしていた。

 不逞者は意外と気がながいので魚釣りをするような気持ちでのんびりとならんだ。

 目の前に、「私の趣味は他人の金歯を眺めることです」とか言ってそうなおばさんがいた。しきりに辺りを視まわしており、不審者としか思えなかった。

 すると遠くのほうにいるもう1人のおばさんに向かって手招きし、なぜか不逞者の前に入り込んできたのだった。

 これは、跳び蹴りを喰らわせなければと強く思った。


2007年10月18日(木) 10月18日(木)

 昨日は、友人にジュースをおごってもらったかのような気持ちのいい天気だった。なので遊歩道へ行った。

 鼻歌をうたいスキップしながら向かった。ただし、鼻歌の音程ははずれていたしスキップは途中から変な速歩きのようだった。だが不逞者は強心臓の持ち主なので気にしないのだった。

 遊歩道のなかほどらへんに休憩できるベンチがある。そこに座って荒涼とした空気をたらふく吸うことにした。

 大きく息を吸いこむと、さっぱりとした空気が躰にはいってきて、いままであった悪いものが黒い煙になって穴という穴からもくもくと出ていった。

 もうひと息吸いこむと、血液がさらさらになって清流のようになり、このままいくと波動拳を出せるまであと少しだと自信がもてた。

 さらにもうひと息吸いこむと、吐きだすことを忘れていたので肺がふくれあがって爆発してしまいそうだった。

 こんなところで死んでしまったら誰にも発見されないかもしれない。白骨化して帰宅したら家族がどんなに悲しむだろうかと思った。ただ、白骨化してしまったらあとのことはわからないので、まあいいかとも思った。


2007年10月17日(水) 10月17日(水)

 昨日の不逞者は旅の疲れで死んでいた。これが旅の疲れじゃない場合はビールの呑みすぎしか考えられない。

 旅とは心と躰を癒やすためにおこなうものだと思っていたが、旅先でたくさん本を購入してしまったことで、ひどく大変な帰還となった。

 家に帰ってから本を視たら、実は30冊以上も購入していたことがわかった。指がちぎれそうだなと思った理由がわかって安心した。

 それから本といっしょに丸干ししたイカもあった。これは、旅館の部屋にあったお茶菓子のなかにゴキブリが混入していたことを報告したらイカがもらえた。これを世間では「口止め料」というのだろう。だから不逞者は誰にも言わない。

 なにより無事に帰ってこられたので文句などないのだった。

 旅先で偶然にも殺人事件に巻き込まれてしまい不逞者のひょんな一言がきっかけになって事件が早期解決したということはなかったのであるが、事件に巻き込まれて犯人からむちゃくちゃな恨みをかうことがなかったのでそれはそれでよかった。

 とにかく今回のプチ家出は、なんの騒動もないまま静かに終わりをつげた。


2007年10月16日(火) 10月16日(火)

 昨日は突然「そうだ! 命の洗濯をしよう」と思いたち、肉を求めるゾンビのようにさまよった(iらんどブログ参照)。

 こういう時はやはり海に違いないと不逞者は根拠のない自信に満ち溢れていて、とりあえず海へ向かった。

「ディスカバリーチャンネル!」

 両腕をあげ、胸をはり、大声で叫んだ。咽が切れてあわや出血の大惨事になるかと思ったが、奇跡的に何もおこらなかった。

 どっかのヒマ人が冗談でつくったであろうベンチがあった。異常に長く、端から端まででマラソンができそうだった。

 そのふざけたベンチに座り、これからのことを考えた。時間はたっぷりとあるので、有意義に過ごしたいと思ったからだ。

 まず手始めに、ヤシの実を歯で粉々にするためにはどうしようかと考えた。「とりあえず、歯医者へ行け」と、神のお告げがあった。

 その時、テレビ番組の録画予約をしてくるのを忘れていたことを思いだした。「とりあえず、歯医者へ行け」そうお告げがあった。

 不逞者は素直で人類になくてはならない存在であるから、とっとと1泊して帰って歯医者へ行かねばと思ったのだった。


2007年10月15日(月) 10月15日(月)

 昨日もいい天気で、連続快晴記録をのばしていた。ただし、誰が記録をとっているのかは知らない。

 そして昨日は来客があった。サッシのところをカリカリしていて、砂糖を10倍甘くしたような鳴き声が聴こえた。

 白い野生猫『るのあ〜る』はずいぶんと痩せていた。たぶん食糧にありつけていないのだろう。

 不逞者はとっておきのシーチキンを小皿にのせて与えた。『るのあ〜る』はどっかとあぐらをかき、右前足を顔のところにかざして「かたじけねえ」と言った。嘘である。

 無我夢中でシーチキンにかぶりついているところに、1人の少女がやってきた。

「白い猫ちゃんの頭、さわっていーい?」

 不逞者はどうぞと言ったら少女は笑顔で近づいてきた。

 少女は恐る恐る『るのあ〜る』の頭をなでていた。そのお利口さんな少女の頭を不逞者はなでた。『るのあ〜る』は不逞者の左膝を肉球でなでてきた。

 なでなでトライアングルだった。これは写真におさめなければと思った。部屋に戻ってカメラをさがしたが発見できなかった。そして少女と野生猫もどこかへ行ってしまった。不逞者も旅に出ようと決意した。


2007年10月14日(日) 10月14日(日)

 昨日は、とある知り合いから連絡があった。そろそろ草野球のシーズンも終わりに近づいているので観戦にこないか、というお誘いだった。

 不逞者、丁重に断る。

 なぜなら、草野球には選手の家族や知人友人しか観戦にこないため、ひじょうに淋しいからだった。

 いっそのことルールを変えてしまえば、いろんな人が観戦に来るかもしれないと不逞者は考えた。いや、それはたぶん間違いない。

 野球のルールは男性でも知らない人がいるくらい複雑で、専門用語が多すぎる。

 とりあえず選手はすべて女性にして、できれば若いほうが良い。

 投げられた球を前に打つことができれば、いちごのショートケーキがもらえるのはどうだろうか。

 応援は腹式呼吸を禁止して、黄色い声援を目指すことを義務づければよいと思った。また、黄色くないと判定された場合、墨汁で落書きされるのはどうかと考えた。

 正式名称は『乙女野球』。これなら不逞者も文句なしで観戦するのだった。ということで、知り合いには文句ありで断ったのだった。たぶん不逞者、ひとでなしであるのだった。


2007年10月13日(土) 10月13日(土)

 金曜日の昨日といえば、不逞者は病院に行って研究者たちが施す改造手術をうけなければならないのだった。

 そのため、ブラックジャック先生と前科8犯の凶悪犯を足して乙女心を抜き取ったような気持ちで病院へ向かった。

 途中、学校に行かないで木の枝で赤いポストと闘っている小学生を目撃した。これは眼をあわせてはいけない、と不逞者は思った。

 そういう時はたいてい気づかれるもので、小学生はなぜか無言で不逞者のことを尾行しだした。

 どこまでもついてきそうな勢いを感じることができた。この感覚をわかりやすく脳内コンピューターではじきだしたところ、「迷惑」の一言に尽きる。

 寄り道をよそおってコンビニに入った。小学生は店内にはこず、外で木の枝を振り回して待っているようだった。

 ギラギラと危ない様子の小学生に不逞者、土下座しなければならないのかと思った。

 仕方なくコンビニを出て不逞者はその場にしゃがみこんだ。そして親指と人差し指を広げるように手をついた。お尻をあげた。『悲しみのクラウチングスタート』と呟いてダッシュしたのだった。


2007年10月12日(金) 10月12日(金)

 昨日は、夜中に幽霊がそばを喰べているのを何度も目撃されたことのある病院の近くの雑貨屋へ行った。

 雑貨屋というものは無駄に無駄を重ねてオブジェに進化させたようでもあり、不逞者は子犬のように眼を輝かせたのだった。

 ただ、周りはやはり女性客が多く、あまり店内をうろちょろするわけにはいかなった。

 潰されたまま放置されている空き缶のような気持ちで店内の奥へ行くと、一カ所だけ目立つ不思議なスポットがあった。

 不思議といってもマイナスイオンが出るたこ焼きが置いてあったわけでもないし、床にピンクの粉をまきながら歩いているおばさんがいたわけでもない。ある種の霊的なオーラがあった。

 それもそのはずで、『ワケあり商品はこちら』みたいな貼り紙がされていたからだった。

 小物入れのボックスが置いてあった。まだピカピカだったが角のほうには赤いシミがあった。

「これを持って外出するのを夢みていた少女の吐いた血じゃないですよ」

 店員さんはそう言ったがいまいち信用できなかった。

「ましてや、これで頭部を破壊したわけでもないですし」

 間違いないと確信したのだった。


2007年10月11日(木) 10月11日(木)

 昨日も少年たちの笑顔が似合いそうなほどの快晴だった。ついでに空も澄み渡っていた。

 ということで『自然パワー』をもらって完全回復を狙う不逞者、近所にある遊歩道へ行ってひと叫びしようかと思ったがやっぱりやめた。

 全国的に「ご存知の」がつくユニクロとかいう店へ行った。

 店内を視まわすと客の90%が女性だった。陳列棚には衣類が大量にあり、女性用下着まで売っていた。この便利さは不逞者のとっては脅威でしかない。

 なぜなら、女子更衣室に放り込まれてしまったようだからである。男性の夢みる楽園は、現実におこると地獄であるのだった。

 不逞者、床ばかりを視てそのまま試着室に逃げ込んだ。

 女性たちの衣類を視る眼は怖かった。カーテンの隙間から少しだけ顔を出して視ていたので余計にそう感じたのかもしれない。

 女性たちが店から出ていくまで様子をみようと膝をかかえて座った。まさか試着室で『&』座りをするとは思いもみなかった。

 ここに不逞者がいることがバレないまま閉店してしまって、室内灯が消され、施錠されてしまって帰れなくなったらどうしようか……。


2007年10月10日(水) 10月10日(水)

 得体の知れない生物から腹部に空手チョップを受けたような痛みも去り、昨日は元気だった。

 ただ、『な』という文字を視ていたら、人の顔面に視えてしまうという不思議なことはあったが不逞者はこのことを誰にも言うますまい。

 それから久々の快晴だった。温暖化の恐ろしさを目の当たりにしたようでもある。

 家の周りを散歩した。例の外国人家族と会うことはなかったけれど、近所の人たちからは白い眼で視られた。

 たぶん昼間からおじいちゃんみたいな歩き方をしているガラの悪い人を目撃したら、あのような反応が自然なのだろう。

 不逞者は近所の人たちの白い眼なんて気にしていない。曲がり角をまがってから半泣きで壁にもたれかかったり、野良犬のオシッコしているところを眺めてがっかりしていたが、ぜんぜん気にしないのだった。

 ついでに、畑に突き刺さっていた野菜を眺めていて、持ち主らしきおじさんから警戒するような視線をもらってしまった。下唇から血が出そうなくらい噛んだけれど、不逞者は鋼の心をもっているので平気だった。いや、本当に。


2007年10月09日(火) 10月9日(火)

 巨大野菜の上部をフタのようにぱっかりと割って飛び出し、腰をふって踊るまでの復活はまだ遠い。

 昨日は、口から卵を吐きだす時のピッコロ大魔王みたいな表情だったと思う。それほどの腹痛が不逞者を襲った。

 森があったらとにかく迷う不逞者が腹痛に襲われたのだ。これは大問題であった。

 今回の腹痛はこんな感じだった。長方形の台の上に仰向けの不逞者が寝かされており、手足は半円形の鉄でおさえられていた。天井からはイチョウ型の鋼の刃が左右にぶらぶら揺れていて、少しずつ不逞者の腹部におりてくるといった感じである。

 頭がおかしくなったのかもしれないとも思ったが、実際におかしいのはお腹の調子だった。

 だが、このような危機的状況でも不逞者は人間だった。

 誰かが買ってきた梨がキッチンに置いてあったので、不逞者は周囲に眼をやりながら梨を奪ってきたのだった。

 それを自分の部屋の隅っこで壁を向きながら喰べたのだった。おそらく丸まった背中が揺れている成人男性だった。

 大好物の梨はひじょうにみずみずしかった。てのひらサイズの泉のようだった。したがって腹痛は続行中である。


2007年10月08日(月) 10月8日(月)

 ずいぶん元気になってきたが格闘技の練習ができるまでには至ってない。それもそのはずで、どのはずかわからないけれど、ご飯がまだきちんと喰べられていないのだった。

 きちんと喰べられていないといっても、いるはずもない殺し屋に脅えて背後ばかり視ていて首の筋を違えたからではない。

 不逞者の体内がまだ言うことをきいてくれないのである。

 この体内工場は問題ばかりある工場で、作業員の得意技は職務怠慢なのだった。なのでやわらかいものを喰べないと今は機能しないのであった。

 それとこの具合の悪い時に『微笑み悪魔隊長』がまたやってきた。たぶん、マードレの密告によるものであると推察できる。

「『おばさん!』心配だから、あなたのために精の付く食糧を持ってきたのよ」

 と、わざとおばさんという言葉を強調して大きな声を出すのだった。

 不逞者は無言で、にっこり笑いながら手のこうを視せてシッシッとやった。

 とりあえず持ってきた食糧を確認してみると、賞味期限の切れたおにぎりがひとつ混ざっていた。本気で成敗してやろうかと思った。


2007年10月07日(日) 10月7日(日)

 そこらへんの虫ケラだったら息絶えていたであろう状況から見事に不逞者は復活した。

「綺麗だろ。眠ってるみたいだろ。死んでたんだぜ、俺」

 と、復活した不逞者は『タッチ』の名セリフを豪快に改造して家族その他知人たちを唖然とさせたのであった。

 とはいえ、頭痛や関節痛はまだおさまってはいない。それに、治っていたとしても仮病のままでいようかとも思った。

 病気の時はなぜか周りの人々が優しくしてくれるからである。

 このまま病気のふりをしていれば、ご飯は手を遣わないでも喰べられそうだし、ジャンプを読む時も眼で合図を送ればページをめくってくれそうな勢いが感じられた。

「海が視たい」

 突然の迷惑要求に対しても笑顔で対応してくれそうでもある。

 問題は、不逞者のお茶目な嘘がバレてしまった時である。たぶん両手足を縛られてドラム缶に入れられるかもしれない。コンクリート詰めかまたはぐつぐつ煮えたぎる熱湯にてダシをとられるかもしれない。

 やはり、状況を把握して復活した報告とお礼を述べておかないとあとが怖いのだった。


2007年10月06日(土) 10月6日(土)

 ここ数日間の記憶がまったくなく、不逞者の2007年は362日くらいしかないのかと口惜しい思いをしているのだった。

 それに微かに記憶に残っているのは、左脇にこんなにも物をはさんだのは久しぶりだったという香ばしくもありしょっぱい記憶しかない。

 しかもこの数日間には読売巨人軍が優勝したのだそうだ。その瞬間を味わっていれば、不逞者はお風呂場で独りビールかけをやったのにと下唇を強く噛んだ。

 一生懸命3日間の記憶をつくろうと不逞者はがんばった。「ミスをおかす」とは口に出すのもはばかられる言語である、みたいなくだらないことを考えながらがんばった。

 そのほか、留守番電話相手に友人と喋っているような歯切れのよい小粋なトークの練習をしようかと考えた。

 だが、熱はさがったのだけれど体調のほうはぜんぜん良くはなってはいない。そればかりか、正露丸を歳の数だけ飲めばいいのかと家族を困らせていたそうだ。

 ともあれ、不逞者は死んでいた状態から生まれたてのフルーツトマトくらいまでは復活できたのではないかと思う。


2007年10月05日(金) 10月5日(金)

 昨日も引き続き不逞者は死んでいたのだった。

 それとおかしなことに、眠るたびに夢をみたのである。なぜか毎回、エジプト人の悪党みたいなのが出てきて不逞者を追いかけまわしてくるのだった。

 ということで今回の病気は、エジプト人と不逞者の絆を深めるための儀式だといっても過言ではないのだった。

 それにして不思議な夢だった。たとえば20分くらい眠ったとしよう。その時は20分できっちり終わるようにできていて、目醒める前には「つづく」とテロップまでうたれているのだった。

 そうしてまた眠った時は、前回からの続きが始まり、不逞者も当然のように夢の世界へ入っていくのであった。

 なかでも記憶に新しいのは、エジプトの虎と呼ばれる悪党が狙っている「エジプトの泪」とかいう宝石を奪う話はなかなか豪快だったし面白かった。

 実は不逞者、まだ病みあがってもないので、自分で書いている文章がどんなものかぜんぜんわからないのである。あとでよく視たら赤面しちゃうんじゃあないかとドキドキしているのだった。


2007年10月04日(木) 10月4日(木)

 昨日の不逞者、死んでいたのではないかと思う。風邪かインフルエンザかのどちらかにかかったようで、高熱に浮かされていたのだった。

 したがって日記なんて書いている場合ではない。

 頭は鈍痛に襲われていて、関節はぞくぞくするような痛みがある。熱も40℃近くあるので、笑い事ではすまないのだった。

 そして昨日のことはほとんど記憶にない。たぶん、トイレにも行かなかったしご飯も喰べなかった。おそらく息もしていなかったし、誰かと指きりげんまんもしなかった。

 平熱が35℃の不逞者、高熱に浮かされていたのに病院にも行かなかった。自力で治そうと、ひたすら寝ていたのだった。まさに野性的だった。

 睡眠療法のかいあって、熱はさがった。が、寝すぎたのは事実であるのだった。つまり、今夜からは眠れない日々をおくるのであった。

 このようにダメージを受けている日くらいは、日記なんてくだらないことをやめて好きに生きていたいのである。しかし、性格が几帳面なので、書いてしまうのだった。


2007年10月03日(水) 10月3日(水)

 昨日は不思議な事件があった。これはもう事件に違いないことである。

 自宅に電話がかかってきて、なぜか不逞者はパードレと間違われてしまった。そして電話口の向こうでは男性がむせび泣いており、事故をおこしてしまったと言った。しかも不逞者の本名を名乗っていたのだった。

 不逞者は免許証を失っているので自動車を運転することはない。だが彼は、つい魔が差したらしく運転してしまったというのだ。

「ほほう、魔にめった刺しにされたのかね?」

 不逞者はふざけた応対をしていると、警察官だという人が「今なら示談できる」と熱弁した。

「いやあ、警察官の眼の前で泪を流すようなクズなんか速いところ逮捕して正座させて重たい石を足のうえに載せて拷問してあげてください」

 警察官は「あんた、正気ですか! 息子さんが困ってるんですよ」

 さらにしつこく喋ってきたので不逞者、

「ええ、息子さんは電話が邪魔くさいと困ってますよ」

 そう言うと、やべっ、と言葉を残して電話をきった。

 たぶん、この詐欺みたいな電話は、詐欺の真似をした不逞者の友人の仕業であると睨んでいる。


2007年10月02日(火) 10月2日(火)

 毎月1日といえば、将来的に札束を扇子がわりにするために映画会社ががんばっている日だった。

 ということで不逞者、映画を観に行って多大な影響をうけて友人たちを困らせる物真似を会得しようと思った。

 上映時間までは少し間があったので、いろんなことを考えた。野菜の高騰や最近の相撲界のスキャンダルについて考えていた。

 そして不逞者、茶色のダウンジャケットをまとった奇抜な検事さんと一緒に事件を解決させるために奔走した。

 韓国まで行って沈められた自動車を発見したり、スペイン語に夢中になったりもした。

 スクリーンのなかにいるタモリさんは格好よかった。ほかの役者なんてどうでもよくさせる魔力が備わっているようだった。

 ただ、今回の映画鑑賞も失敗だった。とても風紀が乱れていて、もし悪魔との契約でお願い事が叶うなら1人の女性を殺害してほしかった。

 その女性は不逞者の左後ろのほうに座っていた。映画が進行するにつれて、「ほら、やっぱり」「そうそう、ここで古田」などと予測していたことの答え合わせをしていたのだった。


2007年10月01日(月) 10月1日(月)

 日曜日の昨日、まろやかな雨とともに目醒めた。ずいぶんと冷え込んだ朝で、季節の変わり目を認識することなく秋になったようである。

 勢いよく気温が垂直落下すると、シャワーだけの場合、間違いなく風邪をひいてしまいそうだった。

 最近、近所にあるドラッグストアでゲルマニウム入浴剤という平成時代を象徴するようなアイテムを入手していた。

 さっそく不逞者はゲルマニウムを浴槽に垂らした。まるで川の上流から猛毒を垂らす悪い人の手先のようだった。

 噂によればこのゲルマニウムという強そうな名前のアイテムは、尋常じゃない発汗作用があるらしいのだった。

 入浴。
 躰の芯からあたたまり、ドロドロと音をたてて汗が流れてきた。

 お湯に浮いているような錯覚をおこしたが、そんなわけはなく、指先から溶けてお湯に同化しているだけだった。

 こんな狭いところで浮くわけがないじゃないか、と微苦笑した。が、躰はどんどんお湯に吸い込まれていった。

 それからのことは記憶にはない。しかし、洗濯機のなかで目醒めた。どうやらマードレが残り湯を洗濯機へうつしたようだった。



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