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  a sirial -暗部なテンカカ話-

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  二人の“初めて”または物語の始まり
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  ぱすてぃす〜後朝 -18禁-

  猩々   おまけ -18禁-
  モジモジしている二人の一歩
  マラスキーノ 後日談
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  らすてぃ・ねーる-12話
 ※4 に、テンカカ以外の絡みあり
  任務に出た二人
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  恋女   後顧   おまけ
  ストーカー被害に合うテンゾウと
  嫉妬な先輩


  九夜十日
  イタチ里抜けのとき

  百年の恵み
  長期任務の小隊長を命じられるテン
  百年の孤独-6話
  初めての遠距離恋愛なテンカカ
  たーにんぐ・ぽいんと-8話
    テンゾウの帰還

   香る珈琲、そして恋 -キリリク話-
 四代目とカカシの絆を知って、
 テンゾウは……

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 【2部】 ぶらっく・るしあん-4話
 【3部】 ぶれいぶ・ぶる7話
 【Epilogue】 そして、恋

  あふろでぃーて-5話 -キリリク話-
 くるみ


  a`la carte
  -暗部なテンカカとヤマカカの間話-

  春霞-4話
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  ちぇい・べっく
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4話
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  久しぶりのカカシとの任務
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  波の国任務の少しあと
  てぃままん-3話
  波の国と中忍試験の間

  月読-5話 -キリリク話-
 月読の術に倒れたカカシを心配しつつ、
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  月読 後日談


  テキーラサンライズ−19話
 ぎむれっと前日譚


   ぎむれっと-40話 -キリリク話
  かっこいいカカシと、
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 ※途中、18禁あり
  プロローグ  本編  エピローグ



  La recommandation
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-ヤマカカな話-

  再会-Reunion-  第二部





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2008年01月28日(月)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 10) Side K


空は高く、空気は澄み、木々は紅や黄に色づき、犬たちの毛が生え変わる季節になった。
久しぶりの休日、演習場に忍犬を口寄せし、訓練という名の元、走り回って過ごす。
「よーし。もう日も暮れてきたから終わり。ブラシをかけよう」
犬たちはわらわらと寄ってくる。
一頭、一頭、丁寧にブラッシングする。
無心に、ただ気持ちよさそうに目を細める顔だけを見て、手を動かす。
「お疲れ様。またなんかあったら、よろしくね」
パックンが何か言いたそうな顔をしたが、何も言わないまま消えてしまうと、だだっ広い演習場には秋の風が葉を揺らす音だけが残る。
見上げた空は、すでに暗紫から赤紫のグラデーションに彩られていた。

勅使という名の任務は、あの後、無事終えることができた。
結果的に術に関するオレの読みは当たっていて、ほぼ同じ時刻に元の村に戻ることができた。
だが、越してきたはずの五家族の家は空で、人の住んでいた気配は薄れていた。
翌日、顔を合わせた村長に探りを入れると、彼らはここ数ヶ月の間に「やはり、田舎暮らしは合わない」といったような理由で、引っ越して行ったことになっていた。どうやら、記憶を操作されているようだった。
つまり、彼らはオレを過去に飛ばした後、あわただしくこの村を去ったのだ。
ただ、時空の歪みだけは残っていた。
あれは予想通り彼らが開いたものではなく、なんらかの理由でもとからあそこにあったものだったようだ。
禁忌の区域とされているので近づくひともいないし、たとえ子どもが好奇心で踏み込んでも、まず安全だろうと思われた。その程度の歪みだ。
その歪みを広げるのが、彼らの術というわけだ。
オレの報告をもとに暗部から調査部隊が極秘に派遣されたのだろうが、結果は聞いていない。

テンゾウは里外の長期任務についているらしく、まったく音沙汰がなかった。
よほど、困難な任務を請け負ったのだろう。
とは思うものの、あのとき垣間見たテンゾウの姿が、どうしてもひっかかっていた。
あそこがどこかはわからない。
でも、そこに通じている道があり、いつの時代かは知らないが、テンゾウがそこにいた、ということは予想がついた。

ほんの一瞬だった。
だから断言はできない。
でも、そう遠い時代のテンゾウの姿ではない。
少なくとも、オレにはそう思えた。

あの村に行って、あの術を使ったら……会えるだろうか。
話などできなくてもいい、垣間見るだけでもいいから……。

そう考えてからオレは頭を振った。

そんなにもオレは会いたいのか。
そんなにもテンゾウに会いたいのか。

今までも離れていることは何度もあった。1年近く会えなかったこともあった。
あの大蛇丸による木の葉崩しの前後も、テンゾウとは離れていた。
それでも、こんなふうに焦燥を覚えることはなかった。
オレたちは忍同士だ。こういうことがあっても当たり前の人生を生きている。
なのに、今回に限ってオレは何を血迷っているのだろう。

思えば、オレからの式に返事がなかったのが最初だ。あれからずっと……。
オレの不安がそこに起因しているのだとしたら、まるで娘っ子のようじゃないか。
「はは、参ったね」
オレは演習場を後にした。

テンゾウにも告げていないことがある。

出会ったのは戦闘のさなか、オレが応援にかけつけた時のことだとテンゾウは思っている。
それは違う、オレはもっと前にテンゾウと会っている。
大蛇丸の研究所から瀕死のテンゾウを病院に運んだのが、オレなのだ。
暗部が踏み込んだとき、まだ何人かは脈があり、テンゾウもそのひとりだった。
ただオレが確かめたなかでは、テンゾウだけがオレの声に反応して目を開いた。そしてわずかに口が動いた。
「……助かるの?」と。
オレは面に隠された左目が熱くなるのを感じながら、「だいじょうぶ」と答えた。
彼は目を閉じ、少し笑ったようだった。
抱き上げた身体は、細かった。
どうか、間に合って、どうか……オレは祈るような気持ちで走ったのだった。

その後、彼以外の子どもは皆、亡くなり、彼だけが下忍となったのを知った。
いくつかの戦闘で成果をあげたのも。
それはほかの下忍の情報を把握するのと同様に、オレの記憶に刻まれた。
ただ、ほかの下忍のほとんどが回覧書類に添付された写真の姿をしていたのとは異なり、テンゾウはいつも、あのはかなく微笑んだ少年の顔をしていた。
彼の消息が絶えたとき、死んだと思ったのだ。
ほんの少しの痛みを伴って、オレはその子の冥福を祈った。
彼が、その短い人生の間に幸せに笑う日があったことを願って。
あんなはかない笑みではなく、子どもらしく大口を開けて笑う日があってほしい。死んだ後に願っても意味がないと思いながらも、願わずにはいられなかった。
だから、彼が暗部に配属になったと聞いたときは驚いた。
――生きていた! あの子は生きていた!
そう思うだけで、オレの気持ちは湧き立った。配属はオレの部隊ではなかったけれど、そんなことなどどうでもよかった。

大蛇丸の残した負の遺産の数々については三代目はもとより、亡くなった四代目も心を痛めていた。
なかでも多大なる犠牲のうえに築かれた貴重な研究成果の扱いについて、ことのほか苦慮していた。
そのまま封印してしまうには惜しい、だが、成果だけを利用することが人道的に許されるのか。
紆余曲折の末、「いまここにあるものは、無駄にせず利用しましょう」という四代目のプラグマティックな発言が採用された。
四代目はその結果を我が身に引き受ける覚悟で言ったのだろうが、ほどなく亡くなってしまい、三代目がその責を負うことになった。

テンゾウが生きているということは、なんらかの形で初代さまの遺伝子が適合したのだとオレは思った。
そして、オレはその奇跡に感動している、と。
違ったのだ。
今思えば、あれは恋だった。そう呼ぶことになんのためらいも覚えないほどの、高揚感だった。
強いて言えば、あの命が絶えず永らえていたという、そのことにオレは恋をしたのだろう。
オレの大切なひとはみな早く死んでいったから、死なずに生きていたという感動は、オレが初めて体験するものだった。
あの地獄から生還した男なら、きっと死なない。オレはなんの根拠もなくそう確信し、やがてテンゾウを自分の隊に引き抜いた。同時にオレは、研究室から救い出したテンゾウの姿を記憶の渕に沈めた。
実際、戦闘のなかでの彼の強さは圧倒的だった。
そしてオレがいくら振り回しても、早々は壊れそうもない頑丈な心と身体を持つ男に育っていった。

どんなときでもオレは不思議と「テンゾウなら大丈夫」と思っていた。
たとえ、もう会えないかもしれない局面にあっても。
でも、今回……その確信が揺らいでいる。
そのことが、オレの感情の暴走にひと役買っているらしい。
「オレもただの男だってことだね」
はぁ、とため息をついて、里の中心を目指す。
五代目から呼び出しがかかっているのだ。
どうせだから、ついでのことのように聞いてみようか、テンゾウが今どこにいるのか。
報告書にも、テンゾウの姿を見たことは伏せてある。
もしかしたら、オレの幻覚ということもありうるからだ。
ただ、あの村ではないどこかの山間の光景を見たことのみ報告した。

会いたい。
ただ、会いたい。
何を望むでもなく、ただ、テンゾウに会いたい。
募る気持ちを宥めながら、オレは火影の執務室を目指して、歩を進めた。



2008年01月14日(月)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 9) Side T


「トキさん」
家に入ろうとしたところで、ボクは隣家の娘さんに呼び止められた。
農作業の合間なのだろう野良着姿だが、それでも若い女性特有の華がある。
彼女はお祖父さんが抜け忍だったそうだ。彼女自身は村で生まれ育ち、村の外を知らない。
孫の代になると、村から出ることもできるらしい。
ただし、村についての記憶は封じられ、以後、村とは一切の関わりを持たないことが義務付けられる。
出て行く者の半分は、親が望み、幼い時分に遠縁に預けられるのだそうだ。
外の世界で自由に生きていってほしい、という親心なのだろう。
ある程度の年齢の者の場合、外の世界で生きていく決意をして村を離れる。
いずれにせよ、どちらもそう多い数ではないと聞く。

「今日は、お休みなんですか?」
この娘さんも、村のなかでひっそりと生を終えるのだろうか。
どちらが幸せかは、ボクには答えられない。
ひっそりと、でも幸せに人生を終えるひとはいるのだ。
たとえ広い世界を知ったとしても、そこは必ずしも美しいばかりではないのを、ボクはよく知っている。
「はい……ああ、そうそう、昨日はおいしい芋をたくさん、ありがとうございました」
「いえ」と彼女は小首を傾げて微笑む。
白い肌と実った稲穂のような髪の色は、彼女が遠い国の出身だと教えてくれる。
もう少し髪の色が白かったら、カカシ先輩と同じだなどと考え、そういえばあのひともこんなふうに小首を傾げたっけと思い出した。
だから、なんだというわけでもないのだが。
戦闘になると滅法強い癖に、妙に相手を脱力させるところのあるひとだったな。
「あの?」
「ああ。失礼、何か?」
「いえ。お芋、差し上げたものの、もてあましていらっしゃるかと思って。あとで考えたら、ひとりで召し上がるには多すぎたかなと。ですから……」
「あ、ええ……実は少し多かったので、術を見ている子どもたちに振舞ってやったんです」
なんとなく申し訳ない気分でボクが答えると、「そうでしたか」と彼女がうつむいた。
「今度は……すぐ食べられるような……煮物にでもして差し上げますね」
そう言うと、会釈をしてきびすを返した。
翻る裾から覗く白い足首に、またボクはカカシ先輩を思いだす。
あのひとも、日焼けとは無縁の白い肌をしていた。忍服の裾から覗く踝は筋の張った男のものだったけれど、透き通るような白い肌はとてもきれいだった。
そんなふうに考えて、ボクは首を傾げた。
まるで、その踝をよく知っているかのような連想は、いったいなんだと言うのだろう。

カカシ先輩には、昔、さまざまな噂があった。
噂のいくつかは本当のことで、いくつかは面白おかしく付け加えられた尾ひれだった。
だが噂に踊らされ、先輩にあらぬ想いを抱く仲間は、確かにいた。
そういえば、任務先で先輩と関係のあった男の隊と合流したことがあったっけ。
あれは……先輩の隊に配属されてすぐ、ぐらいのころだったか。

ズキン……と、コメカミが痛んだ。

頭痛持ちではなかったはずなのに、先日から、時折、こうやって痛む。
ボクは忍にあるまじきことに、のろのろと家のなかに入った。
庭に面した部屋に寝転がって、コメカミを押さえてみるが、痛みはなかった。

さっきハギと話して“はまった”と思ったパズルのピースが描くのは、しかし、まだ全体像ではない。
おそらくボクの任務に関わるのは全体像のはずだが、そちらはまだ想像がつかない。
散らばる断片も、まだ少ない。
ただ、ひっかかったのは村長の言葉だ。
ボクには話すように……という指示は、ボクがパズルのピース集めをしていると知った上でのことだろうか?
知っていて、あえてそれを手助けする?
木の葉の里の火影も、三代目といい、ごくわずかに知っている四代目といい、五代目といい、およそ腹の底の読めない方ばかりだが、ここの長も同様だ。
あの先輩も、似たようなものだった、とボクは寝返りを打った。

畳にペタリと頬をつけて庭を眺める。

「いつか、庭があって縁側のある家に住みたいな」
カカシ先輩が、そんなことを言っていたことがあったっけ。
「今すぐにでも住めるじゃないですか」
あのひとの給料だったら豪邸だって買えるはずだと思い、ボクはそう返した。
「ひとのすまない家は荒れるから。任務、任務の毎日じゃ、無理」
「だったら、引退してからですね」
「そうだね〜。無事、引退できるのかな〜」

今のボクの姿を見たらきっと、カカシ先輩はなんと言うだろう。

先輩。

そう胸の内で呟いてみた。
ひた、と満ちてくるものがある。

「カカシ先輩」
小さく声に出してみる。

トクン、と心臓の音が高鳴り、胃の腑の底が暖かくなる。
戦闘がもらたす緊張や高揚とは異なる何か。

――会いたい……。

感情を言葉に変換して、ボクは愕然とした。

会いたいって?
あのひとに?

トク、トクと高鳴りが強まる。

「トキ、いるか?」

ゲンブの声に、ボクは飛び起きた。
「はい、います」
ここのひとたちは、総じて気配が薄い。
気配を消しているのではなく、おそらく最初から薄いのだろうと思われる。
だから、殺気のような強い気を放つこともない。
ただ、穏やかに安定していることのみに心を砕いているようなところがあった。
「休んでいるところを、すまないんだが」
「いえ、大丈夫です」
「また、モズが騒いでいるんだ……というか、怯えている」
「怯えて?」
「さっき、トキを訪ねたらしいんだが留守だったからと、俺のところに来た」
「わかりました、同行します」

ボクはゲンブの家――村の北にある長の家を囲むように守り番の長の家がある――に、向かった。
モズは座敷に正座し、青ざめた顔をしていた。
ボクを見るや「トキ」と飛びついてくる。
「っと、どうした?」
背を抱きとめて務めて穏やかに問い返すと、「東が、危ないんだ」と言う。
「東? あの東の結界札の貼ってある老木のことかい?」
「木じゃない。木は大丈夫。そうじゃなくて、東が危ない、何かが入ってくる」
ボクはゲンブを見た。
ゲンブを首をわずかに振る。つまり、いま現在、東に異変はない。
「落ち着いて、モズ」
ギュッとボクの服を握っているこぶしを包み込んだ。
「その感覚は、遠いかい? 近いかい?」
モズはボクを見て、はっとした顔をした。
彼は異変を感じると、おそらくそのことに衝撃を受けてしまうのだろうとボクは予想していたが、どうやらそれはあたったらしい。確かに、導くものがいない状態では、それもいたし方ないのだ。
「あ、うん……大きいけど……遠い。うん、遠いから、大丈夫かもしれない」
「だいぶ、遠い?」
「だいぶ……遠いかもしれない。もしかしたら」
モズが視線を逸らす。
「もしかしたら、何? 上手に伝えられなくてもいいから、言ってごらん?」
「あの……いま、じゃないのかもしれない」

「今じゃない?」
ゲンブの声にモズがびくんと身体を強張らせた。




2008年01月07日(月)
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 8) Side K


「テンゾウ!!」
思わず叫んでいた。
だがそのままオレは、何かに腕を引っ張られるようにその景色から遠ざかっていく。
次の瞬間、立っていたのは元の場所、ただし、明るい日差しの下だった。

「あれ、ま〜なんと」

ここが過去なのか未来なのかはわからないが、どうやら飛ばされたのだとわかる。
先ほどコピーした印から判断する限り、さほど複雑な術ではないのは明らかだ。
せいぜい、あそことここを結ぶ道を開くだけだろう。
あるいは、こういう地点がいくつかあって、それぞれに対応した印があるのかもしれないが。
術の解析は、あとで落ち着いてやればいい、とりあえず現状把握だ。
オレは森の中を移動した。
周辺の木々の様子は、ここが先ほどの村よりも過去であることを示している。
ただ、さすがにオレも木の一本一本までを正確に記憶しているわけではなかったので、これは印象だ。
ならば、やることはひとつ。長の家を探せばいい。オレがあの村で一番長く時を過ごした場所であり、一番長く接したひとがいる。
つまり、手がかりの最も多い地点、ということだ。

ここがもし、先生の生きている時代なら……。あるいは、オビトや父の……。
会いたい、せめてひと目だけでも。
そう考えてオレは首を振る。
――歴史に干渉することになりかねないからね。
先生の穏やかな声が甦る。
「クソ!」
声に出さずにはいられなかった。
こんな事態に陥った自分への苛立ち、と同時に、あいつらへの怒りが、オレのなかに渦巻く。

長の家は、同じ場所に同じようにあった。
古びた家は、記憶のなかの姿と変わらない。
だが、厩の側で石蹴りをしている子どものなかに、村長の面影を認めた。
とすると、30年と少し前……か?
オレは屋根に飛び、周囲に視線を向ける。景色の大きな変化はない。が、家々の庭にいる子どもの数は、今よりも多い。
家の裏に下り立つと、オレは裏戸から屋内に潜り込んだ。
家のなかは使用人ばかりで、主は留守のようだ。
再度、屋外に出ようとして、厨の柱にかけられた日めくりのカレンダーに気づいた。
最も単純かつ確かな手段を見落とすとは、オレも少し動揺しているのかもしれないと苦笑する。
改めて確認した日めくりは、予想どおり33年前の5月のある1日を示していた。

オレが生まれる前の時代。
――父さん……先生……
この地の続く先に、彼らがいる。
若き日の父と、おそらくはまだ少年と言っていいだろう先生がいる。
そう思うだけで、ぎりぎりと臓腑が絞られるようだ。
とっくに克服したと思っていた痛みが、まるで昨日負った傷が血を流すように鮮やかに思い出される。
――大蛇丸……。
そうだ、いまのオレならできるかもしれない。
ここで彼を殺してしまえば、テンゾウは……。
……テンゾウ……。
さっき一瞬目にした残像のような彼の姿はなんだったのだろう?
時空間移動の際に生じた、何かなのだろうが。なぜ、よりによって彼の姿など……。
過去のおまえは幸せだったのか?
大蛇丸の実験体にされ奪われたおまえのまっとうな人生を、戻してやれるのなら。
ぞわり、と体内で何かがうごめく。
それが殺気だとオレは知っていた。
走り出そうとする足を必死でとどめながら、オレは言い聞かせる。
記憶のなかの先生の声で、言い聞かせる。
――時空間忍術はね、カカシ。本来、禁忌の術なんだよ。
先生。先生も幾度となく願ったのですよね、過去を変え来るべき未来を変えたいと。
でも、それは人知を超えたことだから、思いとどまったのですよね。
だから……先生は。

目の奥に生じた熱を殺し、オレは深呼吸する。
今は感傷に浸っている場合ではないと己を叱咤する。
ほんとうなら、村長を探し出し、この村、特に子どもたちに異変が起こっていないか確かめたいところだ。
だが、それも先生言うところの「歴史への干渉」になるのかもしれない。
オレは先ほど飛ばされた場所へと戻った。
立ち入ることを禁じられている区域には、だれも来ない。
オレは地面に腰をおろし、コピーした印を思い出した。
あの印の構成は「道を開く」「物体を移動する」「目的地を示す」「道を閉じる」となっているのだろう。
「物体を移動する」と予想したのは印が瞬身の術に極めて近いことからの類推だが、間違ってはいないと思う。
「道を開く」と「閉じる」が、あの場に限定したオリジナルだとしたら、「目的地を示す」には某かの法則性がある可能性が高い。
「じゃ、ま、ダメモトでいきましょ〜か」
オレは印を組んだ。