fluordrop
DiaryINDEXpast


2006年12月19日(火) 不安な童話/恩田 陸

不安な童話/恩田 陸


・内容(データベースより)
「あなたは母の生まれ変わりです」
25年前に変死した画家の息子にそう告げられた万由子。
なぜ生まれるより前に死んだ女性の記憶を持つのか。
真相を追い始めた矢先、奇妙な事件が続発する。
余韻と仕掛けが魅力のエレガントなミステリー。


・私的感想
天才画家・高槻倫子の人物像。彼女にまつわる物の描写がすごい。
リアルに目の前に情景が浮かんできて、ゾクゾクしてくる。
輪廻転生、幻視、既視感、といった超自然的要素を取り入れながら
あくまでも不思議なオカルトちっくな話では終わらないところが恩田さん。

何故、童話なのか、という感じがするけれど
童話、っていうのは、怖いものだから?(笑)
なんとも言えないため息が...という読後感。
もちろん、よい意味で、読了したぞ、という満足感もある。


・オマージュ
『0次元の丘』手塚治虫


2006年12月08日(金) 赤々煉恋/朱川湊人

赤々煉恋/朱川湊人


切ない余韻の残る 五つの物語
と、本の帯には書いてあるが
切ない というよりも、やるせなさが残る物語だ。

やるせなくものくるおしい
けれども、イヤじゃない。
(苦手な方もいるとはおもうけど)

「花まんま」「わくらば日記」「かたみ歌」などの
怖いけれどもノスタルジックなほのぼの感ではなく
「都市伝説セピア」や「白い部屋で月の歌を」を
さらにダークに深めた感がある。




『赤々煉恋』
赤々と燃える煉獄の炎のようにもの狂おしいまでに恋焦がれ切望する。
作品中でも「フィリア」という言葉が使われている。
「フィリア」とは、変質的に固執する傾向を表す言葉で
医学的心理学的にはもっと難しい意味合いがあるようだけれど
一般的には偏執的で変質的な意味合いに理解されている。
この作品中に登場する人物も、
まさに「フィリア」なレベルで焦がれる人々だ。
ネクロフィリアであったり、アクロトモフィリアであったり。

けれども、そういった奥底に秘めておきたいような
赤裸々に表現するのはどうか、といったような事柄を
淡々とグロテスクにならずに、美しく表現してしまえるところが
朱川湊人の力量なのだろうとおもう。




・死体写真師
・レイニー・エレーン
・アタシの、いちばん、ほしいもの
・私はフランセス
・いつか、静かの海に



2006年12月05日(火) 絵小説/皆川博子

絵小説/皆川博子


誰か、
 この夢を
   解いてください。


と、帯にある。


けれども、夢は、決して他者には読み解きえないものなのだ。
そして、夢を解いてもらおうなどとは、誰も考えぬものだろう。
ほんとうのところは。


美しい言葉のかけら。
そこから絵師がイメージを描く。
絵師の描き出した世界からさらにイメージを膨らませ物語を綴る。

詩人と絵師と作家の競演。
それぞれの夢がぶつかりあい、縺れあって織りなす夢幻譚。




冬といふ字がすきだつた

むかしのゆめを 冬とよんだ




6つの物語の最初のことば

木水彌三郎 「幻冬抄」 より



皆川博子が
絵師宇野 亞喜良に託したという6つの詩のかけら
どれも目眩がするほど美しい。
(木水彌三郎,多田智満子,ジャン・コクトォ,吉岡実,イヴ・ボンヌフォア,アンリ・ミショー)

そして、導かれ描かれた絵が、さらにわたしを夢に誘うので
本を手に、また今日もわたしはわたしの夢に遊ぶのだろう。


なので、まだ、せっかくの小説には手をつけられずにいる(苦笑)

 


2006年12月04日(月) レ・コスミコミケ/イタロ・カルヴィーノ

レ・コスミコミケ/イタロ・カルヴィーノ


夕方、外に出てみたら、驚くほど大きな月が
ぽっかりと空に浮かんでいた。



そして見た
別れてきたその場所に彼女はいた
ちょうどわれわれの真上にあたる浜辺に横たわり
何一つ語りかけもせず。
月の色をして、脇にハープを抱え、片手を動かしてはゆるやかな、
間遠なアルペジオを掻き鳴らしていた。
〜〜中略〜〜
間違いもなくあの女(ひと)の何かしらが、千百のさまざまの姿となって見えるのだと、
想像をつのらせるのだ



Qfwfq老人の回想譚、と言ってよいだろう。
読み進むうちに、ぼちぼち語り始めるQfwfq老人のしわがれた声や
しわだらけの手の甲が見えてくるような気がしてくる。
それもそのはず、Qfwfq老人は宇宙が出来る前から存在し続けているというのだから、相当なお年寄りなのである。

上記引用は、この物語の最初の話。
いまはもう遠くにある月が、まだ梯子で昇れるほど近くにあった頃の
せつないせつない恋物語『月の距離』

今日の月を眺めていたら、
なぜかQfwfq老人の溜息が聞こえてきたような気がして
おもわず、白い大きな月のなかに、Qfwfq老人の恋のお相手
Vhd Vhd夫人の妖艶な姿を探し求めてしまった。


「コスミコミケ」とは COSMIC(宇宙)とCOMICHE(喜劇)を合体させたタイトルであるらしい。

そのタイトルどおり荒唐無稽な法螺話なのだが、
喜劇調でありながら、どこか甘酸っぱい読後感。


・月の距離
・昼の誕生
・宇宙にしるしを
・ただ一点に
・無色の時代
・終わりのないゲーム
・水に生きる叔父
・いくら賭ける?
・恐龍族
・空間の形
・光と年月
・渦を巻く



この本同様、米川良夫さんの翻訳ならば、続編の「柔かい月」も読むのに。


fluorite |MAIL

My追加